私がン十数年、これって何なんなのだろうと思っているお話をします。
小学校の授業だったと思います。私は授業がつまらなかったのか、パラパラと教科書を捲っていました。
その時に読んでいた文章の話を書きたいのですが……私は、これは私が見た夢の話なのだと思っています。
夢の中で授業を受けていて、その教科書に載っていた文章の話、という事ですね。
もし貴方が、この文章が誰の何というタイトルの作品かご存知でしたら、どうか私に教えてください。
主人公は三、四十代くらいの男性です。くたびれた作業着を着た……人生を諦観しているような男の人。
何の目的があってそこへ行ったのか、廃ビルの階段を登っていきます。普段からそこを訪れていたようで、崩れた瓦礫を気にする事なく登っていきました。
いくつかのフロアを上がったところで彼は足を止めます。人が居たからです。
白い服をペンキで汚した、綺麗な顔の男の子。……あ、いえ、女の子かもしれません。文章には性別を特定するような言葉がなくて。私が「美少年」だと思っているだけで、ボーイッシュな女の子かもしれないです。分からないんです、ごめんなさい。地の文には”天使”としか表記されていなかったので。
……え?どういう事かって?えっと……主人公の男性が「性別は分からないが、俺にはまるで天使に見えた」と思う描写があるんです。以降、男性はその”天使”と束の間の交流をするのです。
男性は己の素性を語りません。清掃業をしている事と舞台の廃ビルを気に入っている事、タバコを吸う事。それくらいしか書かれていないんです。”天使”さんも男性に質問したりしません。絵を描く間の休憩で言葉を交わすくらいで。
あ、はい、”天使”さんは絵を描いているんです。高架下アートとかって分かります?あんなかんじで、廃ビルの壁に絵を描いているんですよ。描いてる絵ですか?最初は何を描いているのか分からないんです。「色んな色のペンキを不規則に塗りたくっているようにしか見えない」と男性が思った描写があります。
男性と”天使”さんが交流を深めるうち、”天使”さんは呼吸器官に問題がある事が分かります。男性がタバコを吸う時に煙たそうにするのですけど、次第に咳が激しくなるんです。その時に呼吸器官が弱い事を語るんですね。
でもそれだけじゃなかった。男性がいつものように”天使”さんに会いに行くと、絵の前で血を吐いて倒れている”天使”さんを見つけます。
”天使”さんは何らかの病に侵されているのでしょう。病院へ、と焦る男性を引き留めて、自分がもう長くない事を語るのです。
幼い頃からずっと身体が弱く、病室に居る時間の方が長かった事。手術がうまくいかず、打つ手がない事。もう死を待つだけである事……
苦しそうにしながらそれらを語ります。
「最後に大好きな絵を描きたい」からと病院を抜け出して絵を描いているのだそうです。現実だと有り得ないですね、でもこれは物語なのでね。
絵を描く”天使”さんを見守りながら、男性は己の生きる意味を振り返り始めます。どうやら男性は自殺をするつもりでこの廃ビルを訪れ、”天使”さんに出会ったようなのです。そういう文章が続きます。死にたい自分と生きたいのに生きられない”天使”。人生とは、生きる意味とは、そういった取り留めのない思考が地の文で綴られるのです。
「己がドナーになる事は可能か?」と男性が問います。”天使”さんは驚いたように男性に顔を向けて、しばらく考えた後で首を振ります。もうそういう段階ではなかったのでしょうね。男性は悲しそうに俯いて、そこで文章は終わります。
そこから少しだけ日が空いて、男性は廃ビルを訪れました。仕事が忙しかったと書かれていました。男性は廃ビルの階段を登っていきます。”天使”さんに会うために。
でも”天使”さんは居ませんでした。そこにあったのは、青空に広がる真っ白な翼の絵だけ。それで男性は察して、その絵をずっと眺めている……というところで終わるんです。
ここまで聞いてどう思いました?小学校でする授業の話ではないと思いません?だから私は、これを「夢の中での話だ」と思うのです。夢の中でまで授業を受け……いや、多分授業ではやってないだろうから、サボって教科書に載っている文を読んでたのでしょうけど。
私が「この文章は夢の中で読んだのではないか」と思うのは、情景は浮かぶのに具体的な地の文があまり思い出せないからなんです。”男性”は主人公のハズなのに名前が出てこなかったのでずっと”男性”ですし、”天使”さんも……
私ね、数年単位で「誰かこの話がどこかに載っていなかったか、あるいはこの話を知っている人は居ないか」って聞いてるんですよ、SNSとかで。でも誰にも反応をもらった事がないんです。
だからこれは私が見た夢の話なんだと思うんです。……でも、これが夢だとしたら、何故私は夢の中でも授業を受け、かつ授業をサボって他の文を読んでいるのでしょう。
そもそもこの夢を見たのだって、小学校の四年生か五年生の時の筈。小学生の頭で、こんな妙な夢を作り上げたりします?当時の私が読んでいたの、教科書以外だと児童文学ですよ?青い鳥とかああいうの。それなりに本は読む子供だったと言いましたが、大抵は学校の図書室にあるような本です。それであんな物語を夢の中で作ったり出来るものでしょうか。
この文章を読んでいる貴方、この物語に覚えはありませんか。著者は誰で本のタイトルは何かとか、何なら「これ、うちの学校の教科書に載ってたな」とかでも構いません。覚えのある方は教えてください。
いえ、これが私の夢の話ならそれでいいのです。教科書を捲る己の指と、温かい光の差す日の授業であった事なんかが全て夢であるのならそれでも構わないのです。そう、夢であったのなら、私がとてつもなく想像力豊かな子供であったというだけの話なのですから。























似たような設定の漫画なら読んだことあるけれど、小説じゃなくて漫画だし、当然教科書に載るような話でもないし……。 小学校辺りの記憶なら、教科書ではなく図書館の本かもしれませんね。 最後の青空と翼のシーンが脳裏に浮かぶ素敵な話だと思います。