「漢、そこの薬を吏部まで届けに行ってくれ。
場所は分かるな。」
「あ、はい。」
そう言って医局を出たものの、猫猫はただいま絶賛迷子中だ。
壬氏様に身請けされた時、高順に外廷をひと通り案内してもらったが、あの頃は薬になる草が生えていないだろうかと下ばかり見て歩いていたし、興味のない事は全くと言っていいほど憶えていない。今だってどの建物も似たような造りで区別がつかない。随分と歩いた気がするので、もしかしたら同じところを何周もしているのかもしれない。
(まいったなぁ。
こんな時に限って誰も歩いていない。)
ため息を吐きながら回廊を渡っていると、視線の先に広い庭が見える。中央には四阿があって誰かが向かい合って座っている。こちらから見えるのは女性で遠目でも美しい人だと分かる。相手とにこやかに話している様子は優雅で女の自分でも釘付けになる。相手はどんな人だろうかと目をやると・・・・・後ろ姿でも間違いようがない。
(壬氏様・・・・・)
猫猫はその場で固まった。
と、その時、
「あれぇ、嬢ちゃんか。
珍しい所にいるじゃないか。」
向こうで壬氏様の肩がびくんと跳ねるのが気配で分かった。
「李白様、ちょうど良かったです。
吏部へ薬を届けに行きたいのですが、
迷子になってしまいまして。」
ことさら大きな声で返事をしてみる。覗いていたと思われないよう、一点もやましさが無い事を主張しておきたかった。別に後ろめたい事をした訳でもないのだが。
「そんなにおっきな声出さなくたって聞こえてるぜ。
吏部へ行きたいならここを真っ直ぐさ。
連れて行ってやるよ。」
「ありがとうございます。
助かります。」
壬氏様がいる事には気付かなかった振りをする。背中に嫌な汗をかきながら、何となくそれが正解のような気がした。
月の君が女性と二人きりでいた噂は瞬く間に広がった。
妃候補に違いない。それもかなりの有力株だ。でなければ人目もはばからず逢ったりはしないだろうと言うのが大方の予想だ。
医局へやって来る患者たちが、皇弟の婚約が決定事項かのように吹聴していく度、医官たちが猫猫の様子を気にしてくれるのを申し訳なく感じる一方、どうして自分が気を遣わなければいけないのか釈然としない。
壬氏様が妃を娶ろうがどうしようが自分がどうこう言える立場でもない。ただ、噂とはいえ他人から聞かされるのはいい気持ちがしないだけだ。
「ごきげんよう、壬氏様。」
数日後、皇弟宮へ定期健診に訪れた猫猫の様子はいつもと変わらない。
(あの時あそこに自分がいた事はどうやら気付かれていないようだ。)
ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、扉を叩いて馬閃が入ってきた。
「月の君、元姫殿の侍女が文を持参しております。
返事を頂戴するよう申し付けられているそうで
玄関で待っております。いかがいたしましょう。」
道具を片付ける猫猫の手は一瞬止まったが表情を変えることもなく、帰り支度を調えると拱手をして無言で部屋を出た。
玄関には若い娘が立っている。先ほど馬閃の言っていた侍女だろう。女が一人で宮から出てきたのを不思議に思ったのか怪訝な表情でこちらを見ている。
(ああ、面倒だ。
なんで私が気を遣わなければいけないんだよ。)
気配を察して見送りに出てきた水蓮にお辞儀する。
「殿下の体調に問題ございませんでした。
気になる事や薬が必要でしたら医局へお申し付けください。
私のような医官付き官女ではなく医官様がお伺いしますので。」
「ご苦労さまでした。
劉医官によろしくお伝えくださいね。」
いつもなら夕餉を食べていけと誘ってくれる水蓮だが、猫猫の意図するところが解ってか、事務的な対応で送ってくれた。
一連のやり取りを見ていた侍女の警戒心はすっかり解けたようで、直ぐに宮の調度や広い庭に興味を示し周囲をきょろきょろ見回していた。
「坊ちゃん、小猫に説明してあげていないの。
かわいそうに気を遣って帰って行ったわ。」
「ああ、元姫の事で何か聞いてくるかと思ったが、
知らないなら敢えて言う事もないだろう。
まさか文が届けられたところに出くわすとはな。
馬閃に気を利かせと言うのも無理だろうし・・・。
とにかく、呼ばれたので行ってくる。」
「坊ちゃん。
向き合う相手を間違えてはなりませんよ。」
すっきりしない気持ちを抱えて帰る途中、皇弟宮の馬車が追い抜いていく。車窓の女と目が合った。先ほどの侍女だ。軽く会釈をすると向こうは僅かに口角を上げ頷いた。高い位置から見下ろされたせいか見下された気分になるのは卑屈だろうか。きっと向かい側の席には壬氏様が座っている。これから侍女の主のところへ行くのだろう。夕暮れの中、走り去る馬車をぼんやりと見送った。
「李白、お前が執務室へ遣いに来るとは珍しいな。」
「大尉から旦那んとこへこれを届けるよう言われまして。
音操さんじゃ重くて運べないからって
俺が持って来たってわけですよ。」
書類が山盛りに入った大きな箱をどすんと置くと、麻美が忌々し気に顔をしかめた。
「何なのよ、こんなにたくさん。
嫌がらせ以外の何物でもないわ。
月の君、何か大尉に睨まれるような事を
しでかしたんじゃないでしょうね。」
「い・・いや、
心当たりは・・・な・・い・・」
消え入りそうな返答に、猛禽類の目でぎらりと睨む麻美の事はこの際無視をする。
「なぁ、李白。
この前、吏部の近くをあいつと歩いていなかったか。」
「ああ、あの時ですね。
嬢ちゃんが迷子になってたんで吏部まで案内してたんすよ。
月の君、ご覧になってたんすか。
声かけてくだされば嬢ちゃんも喜んだでしょうに。」
「あ、いや。
少々、障りがあってな。
ところであいつは何か言ってなかったか。」
「嬢ちゃんがですかい。
そういえば少しばかり挙動不審というか
いつもより喋ってましたね。」
「ど・・・どんな話をしていたんだ。」
「えーっと、主に白鈴の事でしたね。
白鈴の好きな食べ物とか苦手なもの、
あと、好みの体位とかでしたね。
聞いてもいないのにぺらぺら話してくれて
俺的には為になる嬉しい情報でしたけど。」
はははと笑う李白と半眼で睨む麻美。衝立の向こうで馬良の倒れる音。カオスの中、額に手を当て天井を見上げため息をついた。
「猫猫さぁん。
月の君が文の返事が無いってへこんでますよぅ。
五回に一回くらいでいいので返信してあげてくださぁい。
でないと雀さん首馘になってしまいますぅ。」
「私が文を返さないのは
今に始まったことでもありません。
それに壬氏様に文を送る方はいらっしゃるでしょうから
私なんかが送ってもご迷惑かと思いますよ。」
「あれあれーっ。
ひょっとして猫猫さん、妬いてますぅ。
月の君にお伝えしたらお喜びになりますねぇ。」
「なっ。 妬いてなんかいません。
変な報告をしないでください。」
皇弟宮からの迎えも文の返事も断る猫猫に、よよよと噓泣きをして雀は帰っていった。
「漢。また吏部へ遣いに行ってくれ。
今度は迷うんじゃないぞ。」
(っ・・・バレてたか。)
薬袋を抱えて回廊を進む。今日は迷子にならずに済みそうだ。
(この植え込みの角を左へ曲がって、と。
あれの実は薬になるんだよなぁ。
実が生る頃にこっそり採りに来ようかな。)
収穫する様を想像し、口元を緩めながら不用意に角を曲がったものだから危なく人とぶつかりそうになった。見上げた相手は壬氏様だった。隣には例の美人がぴたりと寄り添っている。暫し呆然とした猫猫だったが、はっと我に返ると脇に退き、「ご無礼いたしました。」と、頭を垂れて拱手した。
「あ・・・・い、いや構わぬ。」
ぎこちなさを感じた美人が壬氏に擦り寄った。
「あら、月の君のご存じの方かしら。」
「あ、ええ・・医局付の官女です。
薬の調合が出来るので便利な者です。」
「そうですか。
あなた、ごくろうさま。」
高飛車な物言いに不本意ながら、深く礼の姿勢をしたままこの場をやり過ごす。
(医局付の官女・・・便利な者・・か。)
妻にするとか言っておきながら、どんな表情をしているのか、顔を上げて見てみたい気持ちをぐっと抑えて二人が遠ざかるまで頭を下げ続けた。
「娘娘、元気ないねぇ。
もしかして、気にしてる?
月の君と隣国の姫のこと。
痛っ!」
李医官の拳骨が落ちた。
(ああ、嫌だ。
今日は早く上がって早く寝よう。)
仕事を片付け医局を出ると元姫の侍女に呼び止められた。
「姫様がお話があるそうです。
ご案内します。」
連れていかれた貴賓の宿舎では元姫が長椅子で寛いでいた。
「待っていたわ。
あなたに効き目の高い媚薬を作って欲しいの。
明日、国からお父様がお見えになるわ。
月の君との婚姻の相談にくるの。
それまでにあの方の気持ちを掴んでおきたいのよ。
出来るでしょ。腕がいいと聞いているわ。」
「恐れながら、
上司の許可なく調薬することは禁じられております。
このお話も伺わなかった事にいたします。」
内心の動揺を隠し、出来るだけ平坦な声で答えた。
すると、元姫は猫猫に近付くと、耳元で囁いた。
「あなた、養父とやらが後宮にいるそうね。
片足が不自由だそうじゃない。
もう片方も悪くなったらどうなるのかしら・・ね。
わたくしの言っている意味がお分かりかしら。」
元姫の豹変ぶりに猫猫は身震いをし、唇を噛み睨みつけた。
「分かりが早くて助かるわ。
道具と材料は用意してあるから
足らない物があったら言いなさい。
今夜、月の君がおいでになるまでに
仕上げておくようにね。」
そう言い残し扉から出ていった後、がちゃりと鍵のかかる音がした。
(薬を渡した後はどのみち口封じで消されるんだろうなぁ。
養父だけは見逃してくれと交渉しよう。
養父は何も知らないんだし。)
両膝を抱え項垂れる猫猫の耳に、壁の向こうの奇妙な足音が聞こえた。
(やるしかないか。
やるなら徹底的にだ。)
腕まくりをすると作業にとりかかった。
(それにしてもこれだけの生薬をよく揃えたな。
どこで知ったのかちゃんと加加阿の粉末まである。
後で貰えないかなぁ。)
半時後、元姫が部屋に入ってきた。
「仕上がったようね。
分からないように盛れるんでしょうね。」
「ほとんど無味無臭です。
香りの強い茶に混ぜれば気付かれることはないでしょう。」
「そう、よくやったわ。
でも、あなたを直ぐに開放するわけにはいかないわ。
明日、婚約が調った後で楽にしてあげる、永遠にね。
最期に楽しい夢が見たいなら二、三人見繕ってあげてもいいわよ。
わたくしも鬼じゃないもの、お礼はしなくちゃね。」
「この下衆がっ!!」
猫猫は思わず罵り、元姫に唾を吐き捨てた。
「よくもやったわね。
貧相な官女ふぜいがっ!」
拳骨で横面を殴られた猫猫は身体ごと壁面へ打ち付けられ、崩れ落ちた。
遠のく意識の片隅で扉の閉まる音がした。
「月の君、お茶を淹れましたわ。
どうぞこちらへお掛けになって。」
「よい香りがしますね。頂くとしましょう。
おや、御覧なさい。
今宵の月は大きく輝いています。
ここからよく見えますよ。」
「まあ、ほんと。美しいですわ。」
元姫は窓際に寄り、月を仰ぐのもそこそこに口角を上げ振り返ると、壬氏の横に腰を下ろした。
「私は月よりも美しい女性を知っていますよ。」
壬氏に見つめられ蜂蜜のような甘い声で囁かれた元姫は、うっとりとして壬氏の肩に頭を凭せかけた。
「せっかくの茶が冷めてしまう前に頂こう。
さあ、元姫殿も。一緒に乾杯といこう。」
「まあ、嬉しい。」
二人は盃を交わすように茶を口にした。
「美味い茶だ。
今夜これからが楽しみでならぬ。」
「ああ、月の君。わたくしも・・・・・
んっ!?」
[b:ぎゅるるるるーーーっ!!!]
「えっ?
えっ? あ、いえ、
あ、あの、その、わたくし、ちょっと・・・
に、俄かの差し込みが。
ち、ちょっと、あー、失礼しますぅーー。」
乱暴に席を立つと荒々しく扉を開けて駆けていく。
開け放たれた扉の向こうを、裳をたくし上げ尻に手を当てながら走る元姫の姿が見える。
「あっははは。
さすがあいつの作った薬だ。これほどまでに効くとはな。
さあ、帰るとするか。雀、馬車を回してくれ。
明日が楽しみだなぁ。」
「皇帝陛下。
此度、我が娘を皇弟殿下の妃に召し上げてくださいますこと
誠にありがたく嬉しく存じます。
荔との縁組みは我が国にとって大きな誉れにございます。」
「はて、朕はそのような報告は受けておらぬが・・・。
まあ良い。順を追って話そうではないか。」
「は、はぁ。
私はてっきり娘の婚姻の話かと喜び勇んで参りましたが。」
「お互い国を統べる者同士、国防の話をしようと思うてな。
最近、隣国諸国では国境付近の豪族や貴族たちが
野盗に襲われ金品を奪われたり、
婦女子が拐かされておるのは知っておろう。
由々しき事態と思わぬか。
荔も他人事ではないと気を揉んでおる。
不思議なことに、そちの国だけは被害が出ておらぬ。
何か特別な手立てを講じておるのか
聞かせてもらいたくてな。」
「そのことでしたら、我が国は軍備に力を注いでおります故、
蟻の子一匹国境を越えることは適いません。」
「さようか。それは頼もしいことであるな。
人材は国の宝である。
そなたの国の軍人は宝に相違ないのう。」
「お褒めに預かり恐悦にございます。」
「だが、慢心は禁物じゃぞ。」
「?」
「主上、入っても宜しいかな。」
国王の後ろから声がかかった。
「ははは、もう入っておるではないか。
これは我が国の軍師で羅漢と言う者だ。
そちと話がしたいと言うてきてな。」
荔の羅漢と言えば、周辺の国々で知らぬ者はいない。その軍師が自分に何用があると言うのか。悪い予感に思わず唾を呑み込んだ。
「儂の調べでは、野盗のやり口はそこらの破落戸と違って
訓練を受けた者の所業のようでしてな。
お主の国だけ襲われないのも腑に落ちぬ。
そこで儂は荔の国境に住む貴族や金持ちを避難させ、
代わりに配下の軍人を住まわせ、住民に成りすませ
時を待った。
まんまと網にかかった奴等は思った通り軍人だったな。
こちらも軍人と分かると、あっさり投降しよったわ。
泣いておったぞ。
盗っ人をするために軍人になったのではないとな。
お主の命令に仕方なく従ったものの
軍人の矜持はずたずただそうだ。
国の宝に酷い事をさせるものだなぁ。」
「い、言いがかりも甚だしい。
無礼にも程がある。
一国の王として荔に強く抗議しますぞ。」
「ははは、一国の王と申されたか。
そちはもう王ではないぞ。
先ほど新政権が樹立したそうだ。」
いつの間にか部屋に入ってきた皇弟は愉快げにそう告げた。
「こ、これは、月の君。
何かの間違いでしょう。
それより、昨夜は娘にお通い下さったそうで
いま娘はどちらに?
もしやまだ寝所でしょうか。」
「は?
そちの娘なら昨夜からずっと厠に籠もっておるぞ。
私に良からぬ薬を盛ろうとしたようだが
誤って自分が服用したようでな。
つくづく愚かな女だ。」
「で、でたらめを言うな。
何もかも作り話だ。
さてはお前が吹き込んだな。」
隣に立っている羅漢に掴みかかろうとして逆に足を払われ盛大に倒れ込んだ。
「調べはついていると言ったろう。
お前ら王族の無策な政のせいで国費が逼迫し
軍人を野盗に仕立て近隣の国を襲わせた事、
荔と縁組みをして援助を取り付けようとした事。
全て明白だ。証拠もわんさと上がっておるわ。
だが、そんな事は儂にとってどうでもいい。
何より、儂の可愛い娘を脅迫したばかりか
意識がなくなるほどの暴力をふるったのを
到底許すことは出来ん。
お前の阿呆な娘には、それ以上の目にあって
もらいたい。どんな仕打ちがよいかのう。
選ばせてやっても良いぞ。」
「ひいぃーー。
む、娘のした事は謝ります。
もちろん賠償もさせてもらう。
いくら払えばいい。
へ、陛下。
陛下からもお口添えを・・・・」
「朕に言われてものう。
それにそちはもう国王でもない。
ただの一文無しの草臥れた爺じゃ。
さきほど皇弟が申したであろう。
なぁ、瑞。」
「はい、いかにも。
ただ残念ながら父娘とも他国の者のため
荔の法律で裁くことが出来ません。
厳罰に処したいところですが。」
「そ、それでは、お許しいただけるので。」
「新政権から身柄の引き渡しの要請が届いております。
今後の国交の観点からも速やかに応じるつもりですよ。」
「だ、そうだ。
さぁ、この者を連れて行け。
娘も厠から引きずり出し、纏めて送還せよ。」
「国へ返すのだけは止めてくれぇ。
奴等に責め立てられるのは嫌だぁ。
頼む。お願いだ。この通りだぁ。」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして叫ぶ男は両脇を羅漢の部下に拘束され引き摺られていった。
「羅漢、世話になった。
国境の危険を未然に防いでくれて礼を言う。
あらためて後日、朕から褒美をとらせよう。」
「左様でございますか。
おたくの坊ちゃんがさっさと動かないから
儂がしたまでですよ。
叔父貴と娘が危ない目にあっていると言うのに
阿呆な女一人あしらうのに時間がかかりよって。
褒美をいただけるのであれば、坊ちゃんを
うちの可愛い娘に近づけんでくださらんか。」
「羅漢、まあそう言ってやるな。
こいつも初めは猫に悟られぬうちに終わらせようと
苦心したようだぞ。」
「ふんっ!
つもりだったで娘に何かあっては遅いですからな。
儂、帰る!」
あまりの不敬な態度に凍りつく周りの官たちをよそに羅漢は欠伸をしながら出て行った。
ぼんやりと目が開くと見覚えのある天井がある。
(ここって・・・・)
意識がはっきりしてくるにつれ自分の左手が誰かの両手に包まれているのが分かる。
「目が覚めたか。
俺が分かるか。」
そう言えば元姫に殴られ気絶したなと思い出す。どうやら殺されずには済んだようだ。
「はっ!
壬氏様、養父は?
養父は無事ですか。」
「ああ、心配ない。
お前のことも雀が救ってここまで運んできた。」
「そうでしたか。
お世話をおかけして申し訳ありませんでした。」
「謝るのは俺の方だ。
またお前を巻き込んでしまった。」
「あ、そう言えば壬氏様
お身体は大丈夫でしょうか。
そ、その・・・効き目は相当なものだったかと・・・」
「ああ、その事か。
お前が調薬させられていたのは雀から
事前に知らされていた。
だからあの女の気を逸らせている間に
茶器を入れ替えた。
あの時の取り乱し様は
なかなかの見物だったぞ。
ただ、奴等の悪巧みを調べるのに時間がかかってな。
軍師殿が動いてくれなかったらどうなっていた事か。
まあ、俺も主上も散々嫌みを言われたがな。」
「オッサンが働いたんですか。」
「ああ、軍師殿のおかげであの国の新政権からも
周辺の国々からも礼を言われ、
荔の評価は天井知らずだ。」
「あのやろう。
私の事を泳がせておいて。」
「お前が無事で本当に良かった。
ふふっ。
なあ、聞きたかったんだが、
なぜ下剤だったんだ。
お前は媚薬を作れと脅されたんだろう?」
「壬氏様がそれ以上色気を出したら
死人が出ますから。」
「本当は俺が妃を娶るのが気に入らなかったんじゃないのか。
なあ、どうなんだ。」
「・・・・・・・・・」
「言え。」
「知りません。」
「言わないとこうだぞ。」
掛布が捲られ足首を掴まれると、足の裏を擽られた。
「きゃ、きゃはは。
やめて、やめてぇ。
変態。やめろー。
病人に何てことするんです。
あー、頭に響くぅ。」
「言うまでやめんぞ。」
「ひゃぁ、言います、言いますからぁ。
・・・・・・・・・・・・・
・・胸・・が・・・ざわつきました・・
壬氏様があんな女とそういうことになるかと思うと・・・」
猫猫はそこまで言うとふいっと顔を背けた。表情は見えないが耳が赤い。壬氏は猫猫の耳元に顔を寄せると、かぷりと耳朶を甘噛みした。
「つっ!
何するんですか。」
「お前が妬いてくれたのが嬉しくてな。」
「妬いてなんかいません。
自惚れないでください。
本当に壬氏様が下剤を飲めばいいと思ってました。
だって・・・だって・・・
放ったらかしにされて・・・・
なんにも話してくれなくて・・・・・
会っても知らん顔だし・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最初っから話してくれたら良かったのにぃ・・・
壬氏様なんか、壬氏様なんか、大っ嫌いです。
あっちへ行ってください。」
猫猫は頭からすっぽり掛布を被ると肩を震わせ声を上げずに泣いている。
「すまなかった。」
壬氏は掛布の上から猫猫の頭を撫で続けた。
しゃくって波打っていた掛布がやがて穏やかな規則正しい動きになった頃、そっと覗くと頬に涙の筋を残して眠っている。その横顔が愛おしく再び顔を近づけ頬ずりしようとすると、猫猫が寝返りを打った。何やらムニャムニャと呟いている。「寝言か。」と思ったら今度ははっきり聞こえた。
「今度こそ下剤盛ってやる!」
壬氏は思わず腹の辺りを擦ると苦笑いをこぼした。
完




















姫 厠からの連行って。。。垂れ流し? オムツ❓ある意味体罰ですね😆 猫猫はもっと怒ってもいいのに。可愛いなあと思いました。 生薬をたくさん強請ってあげましょう。 国のためとはいえ、養父と自分は酷い目にあったのですもの。 羅漢爸爸カッコいい‼猫猫を連れ帰れば良かったのに!