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天才、方向性を間違える 5

呉羽ユズリハ呉羽ユズリハ

“楽するため”に魔法陣を極めた女の話。

 戦闘でも日常でも規模がおかしくなったアモン・リアス。 
そんな彼女のために、なぜか教師が3人も投入されることに。

 なお本人はやる気がない。 
 教師陣はだいたい被害者。
 ===== ※注意※ 登場人物多数のため、各々のタグ付け省略させていただいてます。 予めご了承ください。

あの後、入間くんに招待されサリバン家へやって来た私は、
目の前にいる二人を見て、萎縮する羽目になっていた。

「……ご無沙汰しております。  

___サリバン様、オペラさん」

まず初めに相手に一礼して、額に両手を添えて膝から頭を下げる。そして次に、今度は制服のスカート裾を軽く持ち、そして姿勢を正し丁寧に膝からゆっくりと丁重に腰を落とす。普段行わない作法をしたせいで膝が悲鳴を上げていると、隣からかなり熱烈なの視線を感じた。ちらりと横を向けば、入間くんが驚いたような顔をしているのが見える。

(……“礼儀作法知ってるんだ”って顔してるな?)

あまりにも失礼すぎる。これでも一応アモン家の人間だ。最低限の礼儀くらい身についているわ。というか、身についていないと母親から延々と説教される結末になる。それはさすがに勘弁。と心のツッコミを入れながら、私は静かに二人の反応を待った。そして、すぐさま表情を明るくしたのは、サリバン様だった。相変わらず圧の強い笑顔だ。

「久しぶりだねぇ〜! リアスちゃん!」

あぁ、目が眩しい。
これが光属性……

その横では、オペラさんが静かにこちらを見つめていた。

「はい。お変わりないようで、安心いたしました」

そう笑顔を返しながらも、内心では全然安心していなかった。なにせ片方は13冠。もう片方は、実質サリバン家最強戦力。怖いものは怖い。この人達の敵になれば、色んな悪魔が加担し襲撃する可能性がある。その引き金にもなりうる可能性が増えたことでより私は隠密行動が苦手になっていた。本当に入間くんの存在が末恐ろしい。

「ふふ、相変わらず硬いねぇリアスちゃんは〜」

「サリバン様相手に砕けられる方、早々いないと思いますけど」

思わず本音が漏れた。久しぶりの再会であり現時点で私は不調だという状況であるのに、無駄口を叩く気力はあるらしい。鋼の心臓でも持ってるのかよと自分でツッコミするほどであった。すると、入間くんが横で吹き出しそうになっていた。

「入間くん?」

「い、いや……なんか、アモンさんでも緊張するんだなって……」

「するわ」

もちろん即答だった。彼は私をどんな目で見ているのか本当に気になって仕方がない。逆にサリバン様方相手に身が固まらない方がおかしい。するとオペラさんが、ほんの僅かに目を細めゆるかに微笑んだのが見えた。

「ですが、以前よりは落ち着いていますね」

「……そうですか?」

「えぇ…前はもっと、“今すぐ帰りたい”顔をしていました」

「オペラさん、記憶力良すぎません?」

思わず遠い目になった。過去の私を許して欲しい。だって昔はそんなにサリバン様が偉い方だとは思わなかったのだ。そんな余裕のない私の姿を見て、サリバン様は楽しそうに笑い声を上げるのだった。

__ご飯まで、入間くんの部屋で待っててね。

入間君の部屋に招待された私は、呑気に彼と雑談していた。

「アモンさんって、おじいちゃんと知り合いだったの?」

___おじいちゃん。

その呼び方が許されるの、魔界で入間くんだけなんだよなぁ〜と思いながら、入間くんの話に耳を傾けていた。祖父と孫コンビ、破壊力高すぎる。なんて内心で密かに萌えながら、私は入間くんの質問へ答えた。

「…昔からね」

入間くんの部屋で自席確保のため、魔法で作り出したソファへ軽く体重を預け、私は指を折っていく。魔法でソファを召喚した件については入間くんはもう見慣れているようで、驚く素振りすらもなかった。なんだ君は適応能力高すぎないか

「その他にも、アスモデウス家。アザゼル家。ナベリウス家とは結構関わり深いよ」

「へぇ〜〜〜」

アモン家は、魔術分野に特化した一族だ。

だからこそ、幼い頃から英才教育を施したい家系。高度な魔術知識を求める悪魔。特殊な術式制御を学ばせたい上流階級。そういう連中は、最終的にアモン家へ辿り着く。【魔術を深く学びたいなら、アモン家を頼れ。】この言葉は魔界では常識だった。

すると、何かが気になったのか入間くんが恐る恐る聞き返した。

「え、ナベリウス家って……」

「我らが陰湿教師のところ」

「え、カルエゴ先生!?」

予想通りの反応に、私は思わず笑ってしまう。
てか、陰湿教師っていう単語だけで通じるの笑うわ。入間君悪口言ってんの気づいてるのかな?とも思った。

「先祖代々、ナベリウス家とアモン家って仲悪くてね〜」

「…………」

「目を合わせるだけで戦争始まる勢いだったらしいよ」

「こわっ!?」

入間くんが本気で引いているのが分かった。でも事実だから仕方ない。

「だから今期、“平和だね〜”って言い合ってた」

「そ、そうだったんだ……」

納得していいのか分からない顔で、入間くんは曖昧に頷いた。

その様子を見て、私はふと昔の話を思い出す。【ナベリウス家とは距離を取りなさい】幼い頃から何度も聞かされた言葉。逆に向こうも、同じような教育を受けていたらしい。おかげで顔を合わせる度に空気が悪かった時代もあったとか。だが、今代に関しては、妙に均衡が取れている。まぁ、カルエゴ先生も大概“面倒事嫌い”だしな。

そんな事を考えながら魔茶へ口をつけると、向かい側からじーっと視線を感じた。

「……入間くん?」

「いや、その……」

入間くんは少し困ったように笑った。

「アモンさんって、思ったよりちゃんと“お嬢様”なんだなって……」

「どういう意味?」

「普段とのギャップがすごい!」

「失礼すぎるでしょ」

即座にツッコミを返すと、部屋内に笑い声が広がった。そしてしばらく経った後、入間くんは別の話題を持ち出した。

「でも、なんでランクをわざと下げてるの??」

入間くんから向けられた質問に、私は思わず瞬きをした。

(あ、そこ聞くんだ。)

正直、入間くんは“踏み込まない優しさ”を持ってるタイプだと思っていた。だからこそ、その質問は少し意外だったのだ。

(てか、わざとランク下げてる事もバレてるし…)

私は魔茶が入っているカップを揺らしながら、ゆっくり息を吐いて物思いに更けた。

【位階昇級試験】

悪魔の力量を測るため、学校側が用意した特別行事。
試験で結果を出し、位階を上げることこそ、悪魔学校生徒の本分。

そして一年生に与えられる機会は七回。

そのうち、既に五つが終了している。

――召喚式。

嫌々ながら参加。

――飛行レース。

翼を出すのも、“飛ぶ”という行為自体も面倒だったため、転移魔法で瞬間移動。

――処刑玉砲。

“多忙”を理由に不参加。

――師団披露。

師団未所属。
ついでに手伝いもなし。

当然、昇級なし。

――週末テスト。

複数教科で平均点を取得。

ただし、魔術基礎、並びに魔植物分野だけは満点。

今振り返ると、酷い荒れ様だ。そりゃカルエゴ先生も頭抱えるか。特にロビン先生とダリ先生は、「飛行レースなのに飛ばない悪魔は初めて会った」とか、野次を私に告げてはげらげらと笑っていた。なぜかその行動にムカついたけど、逆鱗に触れるまでの感覚までは至らなかった。

「うーん……」

私は少しだけ考えてから、肩を竦めた。

「別に“下げたい”訳じゃないんだよね」

「え?」

____実際に、ランク1にはなりたくない。

食堂のランク1のご飯が食べたくないだけであるが

「ただ、“上げる理由”が今のところ無いだけ」

私がそう答えると、入間くんはきょとんとした表情を浮かべた。きっと彼の中でそんな感情や感覚はなかったのだろうか。不思議そうな顔色で見つめる彼に、思わず苦笑するしかなかった。

「位階ってさ、“期待値”でもあるじゃん」

「期待値?」

「この悪魔はこれくらい出来ますよ〜っていう指標」

だからこそ、位階が高い悪魔ほど周囲から求められる。

結果。責任。役割。

全部増える。

「でも私、面倒事嫌いだし」

「うっ……なんか納得した」

「でしょ?」

私はソファへ沈み込みながら話を続けた。

「あと、位階が高いと“観察”されるんだよね~~

“アモン家の娘”ってだけでも十分目立つのに、これ以上、“優秀”って認識されたら疲れちゃうわ〜〜」

「…………」

「だから今くらいが楽なの」

それが本音だった。低すぎず。高すぎず。

“少し変わってる問題児”。

___その程度の立ち位置が、一番動きやすい。

___一番 暗躍しやすい。

「でも、魔術のテストは満点なんだよね?」

「あれは好きだから」

即答だった。好きな分野だけは、どうしても手を抜けない。それがアモン・リアスという悪魔の厄介なところであり、形作っている感覚だった。すると、彼は少しだけ考えるような顔をした。

「……なんか、アモンさんって」

「うん?」

「“本気を出したら怖そう”だよね」

「今さら?……むしろ今まで何だと思われてたの」

「___怠惰な変人……?」

「正解」

そう私が即答すると、彼から、ふっと小さな息が漏れる音がした。

……いや、全然隠せてませんけど?

どうやら笑いを堪えているらしいが、私は内心でツッコミを入れながら、改めて入間くんへ視線を向けた。中性的で小柄。けれど、相手の領域へ踏み込む覚悟だけは、誰よりも強い。怖がりなのに逃げない。

むしろ、自分から相手の懐へ入り込もうとする魔界では稀有な存在。

(……この子、全部包み込むつもりなのか?)

ふと、そんな想定外の考えが頭を過った。

「でも僕は……」

入間くんが、小さく呟く。

「アモンさんが、もっと輝いてるところみたいな」

「…………」

あまりにも真っ直ぐな言葉に胸が苦しくなるのが分かった。だからこそ、少しだけ返答に困るのが自分でも分かるし、重ねて”らしくないな”とも思った。私は視線を逸らすように魔茶へ口をつけ、それから軽く肩を竦めた。

「……まず貴方は、収穫祭に向けての準備が先じゃない?」

「ごもっともデス……」

分かりやすく肩を落とす入間くん。でも、この時間は彼が私のために作った時間。
そんな彼の反応と事実が、いかにも彼らしくて、愛らしくて笑顔がほころんでしまった。

「収穫祭は、入間くんにとって、”必ず”いい経験になると思うよ」

「え……?」

「魔植物の知識が少なくても別にいいもの。

ギャンブルみたいに、“採れそうなもの”を片っ端から確保するのも、立派な戦略だし、

それに貴方、“危機察知”だけは異常に高いでしょ」

問題児クラスに仲間入りしたあの日から、彼はどんな境遇に襲われても身のこなし方が自然で、意識的というより本能で動いているような気がした。本能で動くということは、それほど経験してきたってことであり、何度も命の危険を痛感する時間も長かったってこと。この子は、私よりも苦しく怖い生活を送ってきたのだと、私の勘が働いていた。

「恐ろしい魔植物がいても、

魔獣に襲われても、

もし、最悪な状況になっても

__なんだかんだ、貴方は生き残るよ」

それは励ましというより、半ば確信に近かった。入間くんは弱者か強者と言われれば、強者ではない。けれど、“生き延びる”ことに関してだけは異常に優れている。サバイバル能力においては群を抜いているのはずっと観察していたから察していた。

危険察知。
回避。
適応。

それら全てが、彼の中で無意識に噛み合っている。

(一体、なにがあなたを”そう”させたのか…本当に興味深い。)

「だからまぁ。ほどほどに励めばいいのよ」

そう私が言うと、入間くんは分かりやすく表情を明るくした。
そしてそのまま、キラキラした瞳でこちらを見つめてくる。

……なんだこのキラキラオーラ。

圧がすごい。

「なんだか、お姉さんみたいだね!」

「……それは光栄なのか〜〜?」

私は微妙な顔をしながら、ふと思い出したように口を開く。

「でも、リードくんには“兄”だと思わないのよね??」

「リードくんは絶対に弟」

即答だった。
しかも一切迷いがない。

「意思が固いね〜〜」

思わず笑ってしまった。でも、その反応が妙に可愛かった。張り合ってる時点で、完全に弟扱いなのだ。きっとジャズくんも問題児クラスの中ではこんな感覚なんだろう。そんな事をぼんやり考えていると、入間くんが再びこちらを見つめた。

「ねぇ、アモンさん」

「んー?」

「特別教師が三人もいて、大変じゃない?」

「…………」

一瞬、空気が止まるのが分かった。彼はずっと腑に落ちなかったのだろう。心の底から納得していないのが声色から伝わってくる。彼の事情ではなく私の事情なのに、彼はさっきから私の事ばかり考え込んでいるのらしい。本当に優しい子だな。そして、私はゆっくり瞬きをした後、入間くんは続けて言葉を紡いだ。

「アモンさんだけ三人も配属されて、リードくん達も“流石に不公平すぎる!”ってデモ起こしてたんだよ」

「うわお、初耳」

それは本当に知らなかった。というか、そのメンバー絶対面白半分で騒いでるだろ。

「でも結局、何も変わらなくて

むしろ、『アイツの心配をする余裕があるなら、己に時間を使うんだな』って一蹴されてた」

あ〜〜。

それ絶対カルエゴ先生だ。

言い方に一切の容赦がない…
本当にあの悪魔らしい。

「でも、実際、私に教師が三人付いてるって言っても、内容バラバラだしよ」

一人は戦術。

一人は精神面。

一人は魔術制御。

むしろ方向性が違いすぎて、統一感がない。

(毎回その人にあった対応しないといけないの、正直ダルいんですけど。)

__なんて言葉は絶対口にしない。

__絶対墓場まで持っていく。

そう心から決意していた。

「あと単純に、“監視役”も兼ねてると思うよ」

「監視役!?」

「そりゃそうでしょ」

私は当然のように言い切った。

「問題児クラスの中でも、クララちゃんの次に私って“何するか分からない枠”だし」

「否定できない……」

入間くんが遠い目をしている。
やっぱりこの子、意外と失礼な一面があるよな?

「でもまぁ」

私は少しだけ考えるように視線を上げた。

「三人とも、“私を変えよう”としてる感じはあるかな」

「変える……?」

「“もっと周囲を頼れ”とか、

“一人で完結するな”とか、」

そこまで言って、私は深いため息を吐いた。

「……魔術師に対して、一番難易度高い課題出してくるんだよ」

私は軽く肩を竦めながら笑った。

「だから、安心して。なんならむしろ、結構楽しんでるから」

そう言うと、入間くんは安心したように表情を緩めた。

(マジでこの子の笑顔、精神安定剤すぎる。)

悪周期の時と態度が違いすぎて、温度差で風邪ひきそうになるレベルだ。
だが次の瞬間、入間くんは、少しだけ不安そうに眉を下げた。

「でも……今日、一日中足元に魔法陣なかったし」

「…………」

「転移魔法も使ってなかったよね?それって、やっぱり疲労が溜まってるからじゃ……」

本当によく見てるなぁこの子。
私は一瞬だけ目を細め、それから呆れたように息を吐いた。

「あら、貴方。

レディに同じことを二度も言わせるつもり?」

「えっ」

「本当に大丈夫よ。
強がって“大丈夫”って言ってる訳じゃないから」

私は、はっきりと言い切る。
そして、少しだけ感じ悪そうに微笑んだ。

「むしろ今は、どうやってカルエゴ先生の顔面に一発お見舞いしてやろうか考えてる最中だから」

「はは……アモンさんらしい」

困ったように笑う入間くん。
その反応が妙に可愛くて、私は少しだけ口元を緩めた。

「むしろ、稽古してほしい時は言ってね」

「いやいや!?」

入間くんが慌てて両手を振る。
このまま拒否されると流石に狼狽えるぞ、おい。

「疲れてるのに、そんなこと頼めないよ!!」

「あら?」

私は不思議そうに首を傾げた。

「でも、貴方の“オトモダチ”はしてるよ?」

「……え??」

きょとんとした顔。もしかして、彼は秘密にしていたのか?
隠していたなら申し訳ないのだが、あいにく私は性悪なのでね。思わず目の前の彼の反応に、私は小さく微笑んだ

「貴方の“矛”になる可能性を秘めてる子だからね」

その瞬間、脳裏に、真っ赤な炎と共に叫ぶ声が蘇る。

__“入間様に頭が高いぞ!”

__“未来の魔王となられるお方なのだからな!!”

アスモデウス・アリス。

真っ直ぐで。

不器用で。

けれど、誰よりも忠誠心の強い悪魔。

私は、そんな彼の姿を思い浮かべながら、小さく目を細めた。

それはきっと、その未来を、少し楽しみにしているだけの悪魔だから。

___未来の魔王。

___その隣で燃え続ける“矛”。

そして、その光景を、どこか遠くから眺めている自分。

案外、悪くない未来かもしれない。

入間side

アモンさんは、不思議な悪魔だ。

何事にもやる気が無さそうで動くのも嫌い。考えるのもとても面倒臭そう。実際、本人もよく「だるい〜」とか「帰りたい〜」とか言っている。でも、だからといって、“何もしない”訳じゃない。授業だって、遅刻することはあっても最終的にはちゃんと来る。課題も、文句を言いながら提出する。

それに、_先生達との距離が、妙に近い。

高位階悪魔の先生相手でも、アモンさんは全然臆さないのは本当に凄いなって思う。もちろん最低限の礼儀は守っているけれど、どこか自然体なのだ。だからなのか、高位階悪魔へ話しかけに行った生徒が緊張で固まっていると、アモンさんはいつの間にかその場へ現れて助言している。

『その質問なら、まず結論から話した方がいいよ』

『カルエゴ先生、今機嫌悪いから回りくどい説明すると怒られると思う』

『マルバス先生、それ言い方怖すぎ』

そんな風に、さり気なく仲裁へ入っていくのんだ。しかも驚くことに、”移動教室の時間を使って”まで行うのは本当に意外だった。僕から見てアモンさんは、“他人に興味なさそう”だと思っていたからだ。でも実際に観察していると分かる。

___アモンさんは、ちゃんと周囲を見ている。

誰が困っているか。誰が委縮しているか。誰が空気を悪くしそうか。
全部理解した上で、“必要最低限だけ”手を貸している。

多分、本人は無意識なんだと思う。

「面倒事を増やしたくないから」

きっと、アモンさんならそう言うのだろう。でも僕から見れば、それは十分優しい行為だと思っている。
それに、アモンさんは、“誰かの努力”を笑わない。

どれだけ不器用でも。どれだけ弱気でも。どれだけ失敗しても。『で、次どうするの?』って、当たり前みたいに続きを聞いてくれる。だからかな、問題児クラスのみんなが、なんだかんだアモンさんの近くへ集まるのって…あの人自身は、“仲間とか苦手”って言ってるけど。きっともう、とっくに…周りからは“仲間”だと思われてると思う。

___私が入間くんの言葉になる。

そう宣言された時、魔界での生活が今まで以上 負担が軽減された気がした。僕は人間で急で魔界で過ごすことになって、ご飯も魔界の常識も分からないまま、周りは頭に角や背中に翼、人間界では見たことがない動物も植物も多いのに、その言葉を聞いた途端、心がひどく安堵したのを今でも思い返せる。

__困ったことがあればアモン様に。

__大丈夫、あの子は根は優しくて強いから。

オペラさんとおじいちゃんが信頼を寄せる相手。
そして、今日分かったことがある。なぜアモンさんが歩いた道や進む道がより輝いているのがやっと明確になった。

怠惰に見えて、誰よりも誠実に積み上げてきた日々が、
彼女の道をこんなにも眩しく照らしているのだ。

それでも、やっぱり僕は…

もっと表舞台で輝いている姿がみたいと思うよ。

陰で努力しているあなたを知っているからこそ、その光景を誰よりも誇りに思えるんだ。

一方その頃職員室でムルムルは、プライベートでも仲の良いイポスにそう告げていた。

「___なに?

アモンさんに本気を出させたい?」

同じ特別教師である彼らにとって、自然と話題は弟子のアモンの話になるのは必然であった。カルエゴが目を光らせている生徒。それは紛れもなく事実であり、将来の有望株の1人という結果をいとも簡単に繋ぎ合わせていた。だがしかし、当の本人は入学してから1度も本気を出したことがなかった。

例え経験も実力が上であるイポスやイフリートが相手であっても、悠々とした態度でいるのは、まだ本当の自分に向き合えていない証拠なのだとムルムルはそう考え着いたのだ。案外ムルムルは観察眼が鋭く、アモンの意表を突くのが上手かった。

「本気か」

イポスはそう何かを諦めながらそう告げた。何事にも気力を出さない女は、正直何を考えているか分からない。だからこそ、危うさがあり本質を暴きたいという悪魔としての好奇心がある。実際にイポスもアモンという悪魔について、少々気になっている所もあった。

「むしろ、あの血筋は、

本気にさせてはいけないタイプだろう」

それはまさに魔界の均衡が揺らぐ可能性があるからであった。アモン家は天性より魔力に愛され魔術に愛された家系。その上、そんな家系を敵に回せば何に襲われるか溜まったものでは無い。

_先生が、私の能力をどこまで聞いてるか知らないけどさ〜

_私、負ける気しないよ?

つい先日イポスは、アモンからそう言われたばかりである。イポスとしては大事な生徒に傷を与えてはならないと配慮した結果であるが、アモンから見れば、”子供だからという理由で舐められた態度を取られた”と受け取られてしまっただけであり、大人から見れば匙加減が難しかっただけなのである。

「…で、なんでそう思ったんだ?」

イポスはそうムルムルに尋ねた。以前までアモンについて話題を出すだけでも聞く耳を立てようとしていた教師もいたのだが、ほぼ毎日のように話題が飛び交うようになってから、むしろお疲れ様ですと同情を向ける眼差しに切り替わっていた。特にマルバスとモモノキが主であるが。

「…アモンさんって…なんか素じゃない感じがするんだ」

「そうか?

この前の手合わせの時は活き活きしていたが?」

特別訓練初回。アモンはその場でイポスと手合わせするようにカルエゴから依頼され、怠惰を名乗っている悪魔にしては案外動けることを見せた女は、イポスから将来性がある生徒だと判断されていた。だが、ムルムルは何が腑に落ちなていなかったのである。

「…まだ、俺が警戒されている可能性があるかもだけどさ、

なんか、線引きされてるっていうの…?

カルエゴ先生やバラム先生との距離感と、

俺の距離感違うっていうか」

「そりゃ、カルエゴ先生やバラム先生は

問題児クラスと授業での接触が大きいじゃないか。

オレでさえ、

廊下や職員室出会うので普通なのに、

……お前は何を求めてんのさ」

イポスが呆れながらそう零した。

確かにカルエゴとバラムは問題児クラスとの接点が多い。

まずカルエゴから見れば、担任であり入間の使い魔、そして、オペラの後輩。数々の肩書きが問題児クラスとの関係を強くさせている。そして、一方バラムは、カルエゴの元同級生であり、オペラの後輩。無論、空想生物学を選択している生徒も多い。その点からか懐ついている生徒も多かった。

「…なんか、自分の心に蓋をしているっていうか。

欲とか本音が見えないんだよ。

なんか、魔界に疲弊しているような、

”活力のない瞳”なんだよな」

ムルムルは何かと察していた。彼女の中で本音はまだ隠されており、まだ見える段階まで到達していない。そして、魔界に疲れている。そんな裏の顔まで、ムルムルはたった数回の面会で気づいていた。

「それが、お前の課題だろ」

「裏のね」

アモンの特別教師に配属された3人は、一人一人裏課題が出されている。無論、その期間は収穫祭前日まで。頭を抱えるのは生徒だけではなく教師も同様であった。

「おやおや、あの子の話かい?」

2人の話に食いついたのは、教師統括のダリだった。悪ノリが出来るダリであるが、意外とアモンからは軽率な発言や態度はされておらず、いつも矛先がカルエゴになっていることについてかなり前から気になっているようだった。

「…まだ、不審がられてる感じが拭えないんですよね〜」

「カルエゴ先生はなんて?」

「”一時的だ”って言葉のみでした。」

「じゃあ、大丈夫だよ」

アモン家とナベリウス家は先祖代々仲が悪い。顔を見るだけで戦闘体制になり、いつか国でも滅ぼすんじゃないのか、と憶測が立てられるほど、互いに仲良くする気力すら感じなかった。だがしかし、それが均衡が破壊されつつある。

「…アモンさんの本気って…どうやれば…」

ムルムルは頭を捻らせていた。本音も欲も見えない女悪魔の本心を暴くという指示は、到底困難に近かった。精神医学教師のムルムルは、精神干渉の魔術面は特化している。だからといってアモン家に発動しようとして、魔力や魔術に愛されているアモン家に敵対されれば、もうその場で魔界での人生は終わる。

それぐらいの大きな分岐点だった。

「悩んでますね。」

そうモモノキは、ムルムルの姿を見て心配そうな瞳で見つめていた。近くにいたロビンやオリアスもその姿を見て同情していた。アモンは何事にも無関心で無気力。そんな悪魔にやる気を出させる方法に心当たりのひとつも浮かばず、もういっその事、親を呼んだ方が早いのでは?とぶっ飛んだ思考を凝らす物もいた。

「…アモンさんって問題児クラスでの裏筆頭って呼ばれているんですよね?」

「えぇ。確か。」

ふいにロビンがモモノキに話しかけた。
新任であるロビンは他の教師に比べ生徒の距離が近く、またどんな相手を目の前にしても対応を変えない朗らかな性格をしている。だからこそ、生徒関連の情報収集はロビンを軸に稼働していた。

「それは何でなんですか?」

「…確か言語化出来ない生徒の補助だとか……」

「なら、それ程周りのことを見れている子なら、
お願いすれば本気も出してくれるんじゃないですか?」

「そんな簡単に…」

「いや、その話一理あるよ。」

「え?」

急に教師統括のダリが同意したことにより職員室の一部の時間が止まった。アモンは教えることは下手と自称しているが、実際に困っている悪魔が居れば手を差し伸べるし、短い時間の移動教室の時間まで惜しんで、悩み解決に当てることもある。だからこそ、アモンを慕う悪魔は多いし、学園外でもファンもいる。

「…でも、アモンさんが本気出す時は事前で教えてね。とても面白そうだもん」

そうダリは笑みを浮かべた。

そして、その職員室での騒ぎがあってから、占星術教師・遊戯師団顧問であるオリアスは、師団一員である問題児クラスの1人、シャックス・リードに話を聞くことにした。ロビンに特訓を付けられていると聞いたのだが、意外と根性は見せているようだった。

「…ん?お嬢のこと?」

どうやらアモンは一部の生徒からお嬢と呼ばれているようだった。まぁアモン家の一人娘の令嬢であることは間違いないのだが、どこか自分の意思に揺らぎがない真っ直ぐな軸にはどこか目が見張るものが感じられた。そのあだ名を聞き、オリアス自身も直ぐに腑に落ちた。

「そうそう、お宅のお嬢さんについて」

「…それは情報収集って面で?」

「まぁ、そんなとこ」

軽く返事をするオリアスであるが、オリアス本人もアモンについては知らないことは多い。ただいつも聞こえてくるのは教師陣の愚痴。しかし、それに対抗するかのように生徒からの手厚い支持率の高さ。これには気味が悪い事情があるとオリアスは感じていた。実際に問題児クラスの筆頭は入間なのに対し、その問題児クラスのエースがアスモデウスやサブノックではなく、無気力で有名なアモンという女悪魔であるということが不思議だった。しかし、アモンはランクが低い生徒であるが、周りからの尊敬や憧れの眼差しは力強く、オリアスからも目を見張るものがあった。

「…お嬢に関することは、簡単には教えられないな〜」

リードはいつもの調子で笑いながらそう答えた。まぁ、賭け事が好きなリードにとっては、問題児クラスの勝負師を名乗る以上、簡単に情報を抜かれたくはないという意地もあるのだが。案の定応えないリードを目の前にして、オリアスは軽く質問を投げかけた。

「それは、君らのエースだから?」

「うーん…それも少しあるけど」

オリアスの質問を聞いたリードは顎に手を当てた。演技ということではなく、本当に考えているのらしい。

「お嬢、自分の話されるの好きじゃないから」

「は?」

オリアスは思わず聞き返した。あんなに目立つ行動をしているのに噂しない方がおかしい。そう提言しても良いほどであった。問題児クラスに隠れた異分子。1年にして高等魔術の使用をし、モモノキやムルムルがアモン相手に魔術発動することを躊躇するぐらいには、他生徒と違う土台にいることを悟らせるそんな女悪魔だ。

そして、オリアスは次第に眉をひそめた。

「アモン・リアスだろ?」

「そうだよ?」

「魔界中が知ってるアモン・リアス?」

「そうだって」

「史上最年少魔術師の?」

「だから、そうだってっば!」

「本人が自分の話をされるの嫌がる?」

「…嫌がるよ」

リードはあっさり頷いた。その様子に、オリアスの方が混乱する羽目に至った。基本、魔界には目立ちたがりが多い。名声を手に入れるため、権力が欲しいから。そして更には注目が浴びればより最高な環境が整う。それらを欲するのは悪魔として自然なことだ。ましてやアモン・リアスほどの知名度を持つなら尚更。普通なら自慢して回っていてもおかしくない。

「なんで?」

「んー」

オリアスの純粋な質問にリードは少し考える素振りを見せた。
そして言葉を選ぶかのように丁重に話し出した。

「お嬢ってさ」

「うん」

「褒められるの嫌いじゃないんだよ」

「だろうな」

「でも”期待される”のは嫌いなんだよ」

その言葉にオリアスが固唾を飲んだ。
空気を察しながらも、リードは珍しく真面目な顔を浮かべていた。

「有名な話とか天才とか言われても、『へぇ〜』って感じだけど
周りが勝手にハードル上げ始めると、めちゃくちゃ面倒そうな顔するんだよね〜

ここはアスモデウスとはちょっと違う系統だね」

それは何となく想像できた。今のアスモデウスは多少賞賛したところで、「入間様以外興味がない」と呈する男だ。右から左に内容が流れていく感覚と思っていたのだが、アモンの場合は違う。必ず耳に入れた情報は、1回”取り入れる”。本当にその情報は正しいのか。鵜呑みにしていいのか。その情報を取り入れた自分はどう判断するのか。そんな思考回路を挟む女だった。

「だからさ…お嬢の話をすると、

大体お嬢が知らないところで期待値だけ上がるじゃん?

それを本人が一番…嫌がるんだよね」

オリアスは少し考え込んだ。

教師たちから聞くアモン像。

生徒たちから聞くアモン像。

その二つが妙に噛み合わない理由が少し分かった気がした。

教師たちから見れば、アモン・リアスは危険な天才。
常識を疑い、検証し、時には魔界の理論そのものを覆そうとする。

だが、生徒たちから見れば、ただのクラスメイト。
甘い物が好きで、頻繁に授業をサボろうとして、面倒くさいが口癖で、それでも困っている時には必ず助けてくれる。

「……なるほど」

リードの話を聞いたオリアスは小さく笑った。

「君たちが守ってる訳か」

「守る?」

リードは首を傾げる。そして数秒後。
首を横に振りながら口角をあげた。

「あー、違う違う。守ってるんじゃないよ。

__お嬢が嫌がることをしないだけ」

その言葉に、オリアスは妙な納得を覚えた。

それは忠誠でも崇拝でもない。ただの【信頼】だ。バビルス1年生にしては固く結ばれている絆と呼べるに親しい関係であった。だからこそ、教師陣が頭を抱える問題児でありながら、アモン・リアスは、問題児クラスの生徒たちから異様なほど慕われているのだろう。そして、リードは机に頬杖をついたまま、ぽつりと呟いた。

「お嬢に一番効果的なことはね」

オリアスは黙って続きを待つ。
リードは窓の外を見ながら、どこか懐かしそうに笑った。

「__期待しすぎないことなんだよ」

その言葉に、次第にオリアスは目を細めた。

【期待しない。】

それは教育者としては少々聞き捨てならない言葉だった。

「随分と冷たいな」

「そう?」

リードは首を傾げる。

「だって先生達、お嬢に会う前から期待してるじゃん」

「それは当然だろう。あれだけの才能があるんだから」

「ほら、もう始まってる」

呆れながら言い放たれたリードの意見に、オリアスは思わず言葉に詰まった。

「お嬢ってさ、昔からそうなんだと思う」

_天才。

_アモン家の後継者だ。

_期待してる。

_お前ならできる。

周囲は自然とそう言う。

「でも、誰も『やらなくてもいい』って言わない」

それはいつもの彼の様子を知っている悪魔であれば到底想像がつかないほど静かな声だった。遊戯師団の仲間として、同じ教室で過ごしてきたクラスメイトとしてリードなりに見てきたものがあるのだろう。

「お嬢さ…本当は面倒くさがりなんだよ」

「それは知ってる」

「めちゃくちゃ怠け者だし」

「それも知ってる」

「できれば昼寝して生きていたいタイプ」

「それも知ってる」

「なのに___周りが放っておかない」

確かにそうだ。教師たちも世間も、アモン・リアスを放っておかない。
何かを期待し、何かを求める。それが当たり前のかのように。

「だからね。期待すると逃げるんだよ」

「逃げる?」

「うん」

・転送魔法。
・授業の居眠り。
・無気力な態度。
・求婚ごっこ。

思い返せば妙な行動ばかりだった。

「全部、ちょっとした抵抗なんだと思う」

オリアスは納得した。
教師たちが見ているのは、“才能を持ったアモン・リアス”
生徒たちが見ているのは、“アモン・リアス本人”その違いなのかもしれない。

「だから、今の先生達じゃ好かれないんだ」

リードは悪びれもなく言い放った。

「おいおい…教師全員失格みたいな言い方だな」

「でも事実じゃん?」

「……否定できないのが嫌だな」

「だから、もし向けるのであれば、期待以外の感情も向けてやってよ。

あれでも、バビルスの1年生の1人なんだからさ」

そうリードは慈悲深い笑みでそう一言零した。

そして、同時にリードは思い返していた。

あの怠惰で有名なアモンから問題児クラスのエースとしてメッセージをもらったことがあった。
それは王の教室を手に入れるため、リードがオリアスとのゲームに勝利し、興奮と達成感で胸をいっぱいにしていたあの瞬間。その様子を見ていたアモンが、珍しく歩み寄ってきたのだ。歩くことも好まない女が自らだ。

『リードくん。

君がしているのはね、ただの遊びじゃないのよ。

状況を読む目と、勝負どころを外さない勘。
あれは、あなたの立派な武器でしょう。

だから、軽く考えないで。
君が本気を出せば、問題児クラスはもっと強くなるんだから』

あの時の言葉には、思っていた以上に深い意味があった。

無駄な時間を嫌うアモンが、
わざわざ自分に向けて告げた言葉。

それは、彼女なりの“信頼”だったのだと、今なら分かる。

__安心してよ、お嬢。

__信頼には信頼で返すからさ。

その想いがリードの中で強く根付いていた。

【※次回予告※】

『おじいちゃん。僕アモンさんに自分が”人間だ”ってこと打ち明けたいんだ』

『そろそろ、天才少女相手に本気を出しましょうか』

『ししょー、寝取られる』

の3本でお送ります

— End —

Comments 9

すてら10 小时前
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レイ3 天前
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(
( .. )5 天前
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ルカ6 天前

続きをお待ちしております!

月雲6 天前
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翔希7 天前

一気読みました率直に好きです。 この作品を生んでくれてありがとうございます!!!!

すゞ7 天前
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ゆき。7 天前
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L
lilac7 天前
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Sakuria
Where every work blooms
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