「前回までのあらすじ……私稲荷崎高校二年ミョウジナマエ!トラックに轢かれそうになったかと思ったら、なんとびっくり!異世界転生しちゃってた☆けど、記憶を思い出す前の自分がヤバヤバな女の子だった上に、ハーレム狙いの夢主ちゃんから敵視されちゃってさぁ大変!しかもこの世界、メシマズの世界線だったみたい!?唯一の友達であるトモちゃんに転生を打ち明けたらその料理を食べてみたいって!美味しいものを共有できるのは嬉しいからお菓子を作って持って行ったら、なななんと!嫌われているはずのバレー部宮治にそれを食べられちゃった!えっ、また食べたい!?それなら勝手に作って~!なのにレシピを渡そうとしたらレシピは一家相伝だから結婚する、相手に合わせろってどういうこと!?これからどうなっちゃうの~~~!?……ってことやな」
「ノリノリなご説明ありがとうなトモちゃん!!!」
昼休み、文芸部の部室で手に持っていたパックジュースを潰しながら机に叩き付ける。ストローから吹き出したのはジュースとは名ばかりの砂糖水。誰か美味しいフルーツジュースをください。
いや、そもそも砂糖水なのにパッケージがなんでリンゴ?詐欺じゃん!お陰様で騙されて買ったわ!!しかも申し訳程度にフレーバーつけてあるのが腹立つ!!やっぱりめちゃ甘なだけだし!
「それもこれもトモちゃんのせいだぁ!」
「なんでやねん」
うわぁあんと机に突っ伏すと横から辛らつな突っこみが入った。手厳しい。
「そもそも一家相伝って何!?だから黒焦げの激マズ料理かデロデロ茹で料理しか広がらないんじゃん!!料理番組をやれ!!!全国に広めろ!!」
「そう言われてもなぁ、昔からそういうもんやし、レシピ渡すんイコールプロポーズみたいなとこあるからなぁ。『君の作った料理を毎日食べたい』みたいな」
「それ向こうでもあるやつ~~~!!」
「共通点あったやん」
ははっとトモちゃんが笑う。いや、こっちは笑い事じゃないんですよ。
「そもそも治くんだよ!あの人なんであんなにノリノリなの!?」
「食べる事が好きっちゅうんもあるんやろうけど、会ったこともない人と結婚考えるなんてよっぽどアンタのお菓子が口に合ったんちゃう?私も食べたかったわぁ」
「文芸部の売り上げと引き換えにしたやつの言葉じゃねーのよ」
てへぺろ☆とおちゃらけるトモちゃん。唯一の友達じゃなかったら絶許絶交待ったナシだったんだからな!!
「まったく…」
「ごめんて」
まぁいい、もう食べられてしまったのは仕方ない。問題はこれからどうするかだ。なお放課後までの猶予は2時間ちょい!
「どうすればいいと思う!?」
「もう結婚しちゃえば?」
「回答が雑過ぎる!」
オラびっくりしたぞ!
「他に何かいい案は無い!?というか一家相伝以外にも私の覚えていない暗黙の了解的なルールがこの世界にあるかどうかだけでも教えて欲しいんだけど!」
「そう言われてもなぁ、それを当たり前として生きてるからなぁ。パッと思いつかんわ」
うーん、それもそうか。実際違うところを見ないとわからないよね。私もご飯の時間までメシマズの世界線だって気付かなかったくらいだし……。
「気付いたら教えるわ」
「お願いします……マジで……ガチで……」
「そんで?放課後はどうするん?」
「逃げ」
「られると思う?」
「だよねぇ……」
トモちゃんに食い気味で不可判定されてがっくりと肩を落とす。そうなんだよね、私の席一番窓際だし、治くん廊下側の一番後ろだから捕まる気しかしない。
机に突っ伏してのの字を書いていると、トモちゃんが呆れたようにため息をついた。
「はぁ。ほな、可愛そうな友達にこの天才トモちゃん様がひとつ案を授けたるわ」
「っっっトモちゃん様!!!」
「ふっふ、あのな……」
放課後、ホームルームを終えた私は急いで鞄を肩にかけ、教室を出ようとした。
トモちゃんから案は貰ったが、作戦が作戦だけに治くんが諦めてくれるかどうか、可能性は半々。ダメだった場合を考えて、逃げられるなら先に逃げたいところ。一応試して、逃げられたらその方がいいもんね!
まぁ結果は予想通りだったのだけれども。
「どこ行くねん。レシピの人に会わせてくれ言うたやん」
「ずみ”ま”ぜん”」
扉から出る寸前で後ろから襟首掴まれてまさかの空中散歩。こんな空中散歩は嫌だ。そしてヘルプ!いい感じに喉が締まってます。
もちろん襟首を掴んでいるのは治くんだ。私が動くのを止め両手をあげて降参ポーズをしたらやっと下ろしてくれたけれど、なかなかに遠慮のない締まり方であった。こいつはガチだぜ。
「ええっと、レシピ貰うなら結婚するからその相手に会わせて欲しい……だっけ?」
「おん」
「それなんだけどね……実はその人、治くんとは結婚できないの」
「は?なんで?俺もうレシピ貰う気満々やったのに?俺をその気にさせといて、断る?どんな理由で?」
「語弊~~~」
いやめっちゃ語弊がある~~~。それ私に言っちゃうと私がその気にさせたみたいじゃん~。いや実際レシピ渡そうとしたの私だけど、一家相伝とか知らなかったし、しかも教室の入り口付近で私の両腕掴んで揺さぶってるから周囲からも私がその気にさせたみたいに誤解されてるじゃんヤダー!ほら廊下のあちこちから聞こえるよ!
『治くん、あの子に遊ばれたらしいで(ヒソヒソ)』『あの子バレー部にいつも迷惑かけとるガチ勢やん(ヒソヒソ)』『もうバレー部関わらないって噂あったのになぁ(ヒソヒソ)』『治くん趣味変わった?(ヒソヒソ)』って!
治くんも私の評判知ってるよね!?嫌われが加速する!しかもキミの名誉のためにもならん!やめてあげて!(切実)
「納得いく理由説明してもらわな諦めきれん!!」
「だ、だからそれは……」
ちらりとトモちゃんを見ると、トモちゃんは真剣な目でこっちを見返し頷いている。
「お!おばあちゃんなの!!」
「へ?」
「わ、私のおばあちゃん!!もう高齢だし、旦那さんもいるから結婚できないって!!」
「……おばあちゃん」
「そう!」
「年齢差までは考えとらんかったわ……」
「だよね!」
DA☆YO☆NE☆
私の発言に流石の治くんも納得してくれたのか、悔しそうな顔をさせて腕を緩める。
ホッと胸を撫でおろしトモちゃんを見るとサムズアップしてくれている。トモちゃん、私やったよ!!
やり切った感が心を満たしてトモちゃんに笑顔を返そうとしたその瞬間、何故か弱まったはずの治くんの手が再度ぎゅうっと私の腕を掴んだ。
「ほな、あんたでええわ。今日からオレの婚約者やから明日から弁当な。頼むわ」
「は?」
ナニヲイッテイルンダコイツァ???
ぽかーんとする私に、治くんはまるで何事もないかのように言った。
「やって一家相伝やもん、あんたもあの味継承するやろ?」
「えや、えと」
ええとぉ?相伝というかそもそも私が作ったというか。相伝の必要がないというか。
「つまりあんたと結婚すれば俺はまたあの料理を食べられる。Q.E.D証明完了や!」
にっこぉ!と後光がささんばかりに治くんが微笑む。うん、いい笑顔。だけどね。
「な……」
なんでじゃあ~~~~~!!!
「無理無理無理無理!!!」
「もう決めたし」
「決めたし、じゃないんだよ!無理!」
「お前、往生際悪すぎやろ。知っとったけど」
「黒歴史掘り起こすのはやめたげて!!!バレー部には関わらないって言った!!」
「ええからほら、わがまま言わんと帰るで」
「え、ちょっ、なんで一緒に帰る感じになってるの!?婚約者感出すな!私はトモちゃんと、トモちゃぁん!!!」
親友に手を伸ばすと、彼女は自分の席に座ったまま両手をあげて大きい〇の形を作った。
「ええって♡」
「なんでじゃあああああ!!!トモちゃんコノヤロウ!覚えてろ!!」
「はっはっは、悪役やなぁ」
治くんに肩を抱かれ、強制的にずるずると連行されていく私。
やばい、まずい。このままでは本気で治くんの夢主になってしまう。私はシメイさん枠のはずなのに!……!はっそうだ!!
「治くん!」
「なん」
「私よりもっと料理上手な人いる!!」
「……お前、逃げるにももっと上等な嘘つけや」
治くんの眉間に皺が寄り、私の発言が信用されていないことが分かった。
だがしかし!私は閃いてしまったのだ。私が転生シメイさん枠であのバレー部マネージャーが夢主枠だとするのならば、彼女もきっと転生者!元の世界の味覚を持っているはずだ!!
「ホントホント!バレー部マネージャーさんめちゃ料理美味いから!!食べたことあるよね?」
「いや、ないな」
「えっ」
おかしい。
もしマネージャーさんが転生夢主なら元の世界の味覚を持っているはずだし、料理くらい出来るはずだ。ただ単に機会がなかっただけ?それとも隠してる?どうして!?メシマズ世界で美味い料理作れるなんてチート能力、総愛されを狙うなら使わない手はないだろうに。
「で、でも!絶対絶対絶対美味しいはずだから!!マネージャーさんに頼んでみて!!私に頼むより絶対いいから!!」
「……ホンマかぁ?」
「うん!!」
だって彼女は愛され夢主。どうして料理で彼らを懐柔しなかったのか不思議だけれど、そんなの知ったこっちゃない。レシピを使わないでキャラ攻略に励むなんていっそ清々しいくらいの夢主根性じゃないか。夢主根性ってなんだ。
いやそんなことはどうでもいい。私はシメイさん枠ないしモブ枠として、原作キャラに関わらずに見守れたらそれでいいのだ!
「あれ?治?何してるの?……その子……」
そんなことを考えていると、ちょうどいいタイミングで夢主が現れた!マジグッドタイミング!愛され夢主は空気も読む!!
「おお、お前か。いや実は……」
「じゃ!私はお役御免ってことで!アデュー!」
「あ、おい!待て!」
待てと言われて止まれるか!
治くんの手が緩まったところでばっと彼の腕から抜け出すと、私は脱兎のごとく駆けだした。途中で振り向いてみるけれど、幸いにも治くんは夢主さんに引き留められて追ってこなかったようだ。
「……ふう、一命をとりとめたぜ……」
気分は国家スパイ。マジで(胃が)キリキリする5秒前。MK5(違う)。
その後は自宅に戻り、気が抜けてそのままへろへろとベッドにバタンキューした。
ここ数日想定外にいろいろあって疲れた……けどとりあえず何とかなりそうだし、良かった良かった。
◆
次の日にも特に治くんからのアクションは無く、安心していた私は二日後、教室で前の席に座った治くんに笑顔で追い詰められていた。いやホント、笑顔が怖いって意味わからないねははは。なんで???
「お、治くん?」
「おん」
「な、何か御用でしょうか……」
じいっと私を見つめて(睨んで)いた治くんは、私の言葉を聞いてやっとその重い口を開いた。
「おん。……実はな、アンタの言葉信じて昨日アイツに弁当作ってきてもろたんよ」
「おお!」
まさかの好展開!
だというのにどうして治くんの顔はこんなに怒っているのでしょうか。え、額に血管浮いてるのに笑顔なの本当になんで?
「ホンマ、昨日は大変な目に合ったわ」
「た、たいへんな、目、とは」
おっと、ごりっごりに嫌な予感がしてきたぞ。
聞けば、治くんは私の言葉を信じてマネさんにお弁当を頼んだらしいのだが、そのお弁当がとんでもない代物だったそうなのだ。
見た目はまぁ黒焦げになれているから普通だったようなのだが、その匂いと味が最高に酸っぱくスパイシーな出来だったのだとか。そのせいかどうか知らないが、午後はトイレを離れられず、夕飯も満足に食べられなかったという。それってもしや腐っていたのでは???
「あれはホンマ辛かったで。飯食うのが好きな俺でも辛い。捨てるのは主義に反するから食ったけどマジであり得ん。めっちゃ酸っぱいし、そのくせ口の中でこうぐにゃっと……」
「あーそれ以上の感想は遠慮しておきます」
マズい飯の解説なんて聞きたくないんだよなぁ!冷や汗を垂らしながら首を振ると。治くんはより一層顔に笑顔を張り付けて机越しに身を寄せてきた。自然、私の身体は後ろに下がるが、治くんはより一層身体を傾けてくる。
放課後とはいえ、教室の中での出来事なので当然周囲にクラスメイトがいる。私と治くんの言動はチラチラと全員から注目されている。なお、トモちゃんは治くんが近づいて来て早々に部活だと言って離脱していった。察知能力がすごい。
「っちゅうわけで、口直しにこの間の菓子作って持って来てや。弁当でもええで」
「は?いやいや……作らないですけどっ!?」
いやいや、なんでそうなった?
考え事をしている間にどうやら良からぬ方向へ話が展開していた。視線を逸らし秒で拒否すると、治くんの手が私の顎をぐっと掴んできて視線を強制的に合わせられた。
「知っとるか?人間の平均寿命65歳で飯を食う機会は7万1,175回しかないねん」
「ヒャイ」
「お前がマネの飯のが美味いから食べてみろ言うたせいで俺は二食無駄にしたんや。わかるか?これがどんなに大変な事か。しかも食うたもん吐いたんやで?この俺が」
「ショレハヒドイ」
「せやろ?それにな、俺はもう16年生きとるから残りの人生食事できる回数はもっと少ない!!」
めっちゃ力説されて納得してしまう。治くん食べるの好きだし、一生のうちに何回食べれるかとか計算したことありそうとは思ったけれども、あまりに具体的!
そんなご飯大好き治くんの楽しみの内二回を私の提案で潰したとなると確かに根に持たれても仕方ないけれども……っ。
っていうか平均寿命65年!?やっぱりメシマズ世界線のご飯は身体に悪い!!!はっきりわかんだね!
料理の8割焦げてるもんな~、納得。
けどお弁当を作ってくるのはな~……。
「お、治くん、お弁当ならうちが作ろうか?」
――勇者がいた。いや、救世主と言ってもいい。顎を掴まれたまま固まっている私を見かねてクラスメイトの一人が治くんに提案してくれた。いや、彼女の様子を見るにどちらかと言えば私がダシにされた感あるな。ハッ!キュピーン!閃いた!女の勘だが、この子はきっと治くんに惚の字!
「……そらありがたいけど、自分、料理できんの?」
「お、お母さんに習ってるから基本的な料理なら少しは出来るよ!いつも自分の分のお弁当作ってるから!」
「ほぉん……ほな頼もか」
私の顎からやっと手が離される。強めに掴まれていたから顎の感覚がおかしい気がする。も~腕力ゴリラじゃん。というかこの子に作ってもらえるなら私はお役御免だよね!神はいた!!
「良かったね治くん!これで美味しい料理が食べられるね!」
「あ”?何安心しとんねん。お前も作ってくるんやで」
「パードゥン???」
今なんておっしゃいました???
ほら、女の子もわけがわからず『えっ?』って困惑した顔してるじゃん。
あれ?今治くんこの子にお弁当頼むって言ってたよね?え、どういうこと?
「二食無駄にさせた分詫びろや。吐き出された俺の飯に謝れ」
「暴君かな?」
「それに弁当なんてなんぼあってもええねん。朝練終わった後でも、部活前でも食えるしな」
「豚かな?」
「失礼な奴やな。けどいつもの猫なで声でキッショい事言ってくるよりよっぽどええわ。ほな、悪いけど二人とも頼むわ」
「治ー、部活遅れるー」
「今行く。ほなな」
そう言うと治くんは彼を呼んだ角名くんと一緒に鞄を持ってさっさと部活に行ってしまった。残された私たちはポカーンである。いや、自由か?
「私、負けないから」
「え、あ……うん」
救世主女子からキッと睨まれた。唐突の宣戦布告。なんで無条件降伏受け入れてもらえないの?私何も悪い事してなくない???
混乱を極めつつ、ひとまず帰宅の途に就く。
それにしても、どうしたら治くんは諦めてくれるのか。そもそもうちの家庭の料理はメシマズなんだから……。
「あ」
ピコーン!思いついた!私天才では!?
妙案を思いついた私はウキウキスキップで自宅の門をくぐったのだった。
◆
次の日、私は二つのお弁当を持って登校した。当然一つは私のお弁当。もう一つは治くんのお弁当だ。ただし、治くんのお弁当を作ったのは私の母である。
「久しぶりにお母さんのお弁当が食べたいの♡」
と母に頼めば、二つ返事で引き受けてくれた。愛。
お母さんはこれが私の分だと思っているので、治くん用と考えると少し小さいけれど、まさかクラスメイトに料理を強要されていますなんて言えないし、言ったとしたらどんな苛めを……?って心配されちゃうもんね。治くんは救世主女子からもお弁当貰うわけだし、私のお弁当が多少小さくても問題ないでしょ!
昼休みになり、治くんが救世主女子からお弁当を受け取っているのを見て、私も弁当を取り出す。二つ机に並べると、治くんがひょこひょことやってきた。
「ん」
手を差し出され、母が作ったお弁当を渡すと、治くんの周囲にほわぁとお花が飛んだ幻影が見えた。
うっ、なけなしの良心が疼くっ。
「じゃ、じゃあね」
用は済んだとばかりにトモちゃんといつも食べている文芸部の部室に行こうとすると、ガシッとその腕を掴まれた。
「どこ行くん」
「え、ご飯、に……」
「一緒に食わんの?」
「へ?」
それどんなオプションですか???返品出来ます?
治くんの後ろを見れば、救世主女子もスタンバっている。え、何?品評会でもするの???お弁当の?
「わ、私はいいかな……」
「ええから、今日くらい食うで」
「え、ちょっと!」
治くんに腕を引かれ教室を出る。引き摺られるようにして歩いていると、救世主女子もすぐ隣にやってきた。ふんっと顔を逸らされて治くんの隣に並んだ彼女は、どうやら私の事が邪魔だと思っているみたい。奇遇だな、私もだよ。
連れてこられた空き教室で治くんの前の席に女の子が座る。私は腕を引かれるまま治くんの隣に座った。うう、ちょっと腕が赤くなってる。ゴリラめ。
「ほな、いただきます!」
治くんは待ちきれなかったのか早速救世主女子のお弁当を開いた。
「おお!美味そうやなぁ!」
「ホンマ?いつもより少し頑張ってん」
そう言った彼女の弁当を見る。黒焦げの野菜と多分肉。真っ黒のご飯。
……うん、OISHISOU☆
ちらりと隣を見れば、彼女のお弁当を本当に美味しそうに食べる治くん。はぇ~すごいな、あれを美味しそうに食べられるのが凄い。本当に食べるの好きなんだなぁ……。それとも見た目がアレなだけでめっちゃ美味しいとか?
ちらりともう一度彼女の作ったお弁当を見る。
……黒。
どう見ても治くんの才能の結果です。本当にありがとうご(ry
「味はどうかな?」
「おん、結構美味いわ」
「ホンマ!?良かったらまた作ってくるし、言ってな!」
「おん」
がつがつとお弁当食べる治くんに安心したのか、彼女もお弁当を広げ始める。
……え、待って、この中で私お弁当食べられなくない?
だって、治くんのお弁当は母に作ってもらったが、私のお弁当は正真正銘私が作ったものだ。真っ白いご飯にだし巻き卵、唐揚げにほうれん草のソテー、ついでに煮物まで入っている。つまり、メシマズの世界線の方々からすると、”生”扱いされそうなお弁当なのである。
え、どうしよう。どうする?治くんだけならまだしも救世主女子までいるところで出したらクラスのみんなにバレない?完全に変人扱いコース待ったなしじゃない?
そわそわしていると、治くんが彼女のお弁当を食べ終わって私の(母が)作ったお弁当に手を伸ばした。
お弁当の蓋を開けた治くんがまるで検分するようにじいっと料理を見ている。多分お菓子とだいぶ違う印象を受けたから不思議に思っているのだろう。
それでもお腹が空いていたのか、治くんはお弁当を食べ始めた。
食いつきはいいし、幸せそうにも見えるものの、覇気は少ない。多分期待していたものではなかったからだろう。
「ごちそうさん」
「おそまつさまでした」
結局私はお弁当を食べないまま治くんたちとの食事は終わった。食べないことに違和感は持たれなかったようで良かった。
「それじゃ、先に教室戻るね」
「治くん、明日もお弁当作るよ。何食べたい?」
救世主女子が私の言葉を遮るように話しかける。治くんも「そうやなぁ」なんて言って私をフルシカトだ。美味くない料理を作る女子はいらんってか。母ドンマイ。
とはいえ、私にとっては母グッジョブである。これで今後治くんに悩まされることはない!スキップしながら文芸部の部室に向かうと、なぜかそこには鍵がかかっていた。
「あれ?今日はトモちゃんここじゃないのかな?」
メッセージを送ってみると、どうやら委員会があったらしい。残念。
文芸部の鍵は流石に持っていないので、人のいなそうな教室を探して食べる事にした。教室で食べるには見た目がこの世界の料理と違いすぎるもんね。
お昼休み終了まであと15分。何とか食べきれそうだ。
「いっただっきまーす!」
ガラッ
お弁当を広げて両手を合わせた瞬間、教室後方のドアが開いた。
入ってきたのは治くん。
えっなんでここに!?
「スマン、箸入れ返すん忘れとった」
お弁当箱に入っていたお箸ケースをどうやら律儀にここまで持ってきてくれたらしい。机の上に置いてくれてよかったのに!!
私は急いでお弁当に蓋をすると立ち上がり、なるべくお弁当から遠い位置で冷や汗をかきながら治くんから箸を受け取った。
「あ、ありがと~!」
「おん。およ?飯ここで食うてたん?」
「あ、うん。私人前であんまりご飯食べたくなくて……」
「ほぉん。……なぁ、弁当見せて」
「ほぇ!?ななななんで!?」
「ええやん。取らんし」
「だ、ダメダメダメ!絶対ダメ!失敗作だから!あっちょっと!!」
引き留めようにも治くんはずかずかと歩いて机の方へ行ってしまう。
いや空気読め~~!!夢主ちゃんくらい空気読んで~~~!!!!
慌てて治くんの先回りして弁当を腕の中に囲い込む。
「ダメ!」
「そんなに嫌なん……」
ひと際強く言うと、やっと治くんは引いてくれた。
――と思っていたのは私だけだった。
「隙アリ!」
緩んだ私の腕の中からバッとお弁当箱を奪われる。上にあげられてしまえば私の手はもう届かない。
「ちょっと!返してってば!」
「ええやん、ちょっとくらい。ケチ」
「ケチでいいから返して!」
「少し見るだけやって」
「あっああ~~~!!」
「およ?」
ぱかっとお弁当の蓋を開けた治くんは首を傾げる。それもそうだろう。この世界でこの料理の見た目は”生”判定なのだ。
「ホンマに失敗作やったんやなぁ」
そう言うと治くんは唐揚げを持ち上げしげしげとそれを眺める。
「そうだよ、だから早く――」
パクッ
「ヒュッ」
「!」
治くんが持っていた唐揚げを口に含んだ瞬間、私は彼の瞳がさっきお弁当を食べていたときとは比べ物にならないくらいに輝いたのを見た。それもそうだろう。何故ならここはメシマズ世界線。そして彼が今食べたのは、私が作って、冷めても美味しいと自画自賛した手作り唐揚げ。冷えても肉汁が感じられる一品。
私が何を言えずにいる間にも、治くんの手は止まらない。咀嚼も止まらない。次々に彼の口に放り込まれる私のお弁当。そして減っていく私の昼食。
あっという間に彼の手にあったお弁当箱は空になり、残されたのは未だ机の上にある下段のお弁当箱に入っているご飯だけ。
「あ……あ……」
マズい、マズいマズいマズい!
脳内で警報が鳴り響く。思わずカオ〇シみたいになってしまったが許して欲しい。だってメシマズ二次創作だって何百回も読んだ私だよ?この後の展開が読めすぎる。
ゆっくりと振り返った治くんが私に視線をロックオンした。瞳が雄弁にそれを語る。
治くんはお弁当箱を見た後私を見て、もう一度お弁当箱を見てそれを近くの机に置いた。そしておもむろに私の両手をぎゅっと掴んだ。
「結婚しよ!」
「嫌です!!」
誰か助けて!




























