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信じたい

シロヒナシロヒナ

すれ違い気味なフリンズさんと蛍ちゃんのお話です。別作品とのつながりはありません。 前作への反応ありがとうございます。 ところで本文書くのもなんですけど、表紙描くのがとても楽しいです。

1

 夜明かしの墓を訪れたイルーガからその話を聞いた時、フリンズは思わず自身の耳を疑った。

「坊っちゃま。……今、なんと言いましたか?」
「ですから、この前旅人さんが僕のところに来てフリンズさんの夜回りの担当日を聞いていったんですよ。わざわざ僕に聞きにくるくらいだから、中々捕まらない君と確実に会うためだと思ったんですが……」

 目の前にいるはずのイルーガの声がどこか遠く聞こえる。

 ――確実に会うため?

 以前は巡回中に偶然旅人――蛍と出会すことも多かったが、ここ最近は全くと言っていいほど、自分は彼女の姿を見ていない。そもそも彼女はフリンズに用があるときは夜明かしの墓を訪れるはずで、しばらくはその訪いすらなく、それを残念に思っていたのだが。

 嫌な予感に固まったフリンズの様子を見て、訝しげな表情をしたイルーガに声をかけられ、我に返った。

「フリンズさん? どうかしましたか?」
「いいえ、なんでも。ちなみに坊っちゃま、それはいつ頃の話ですか?」
「ええと、そうですね……たしか、ひと月ほど前です。そう、ちょうど君が夜回りの担当だった日ですよ」
「ありがとうございます。そうでしたか……でしたら確かに、彼女は僕の居場所を知りたがって坊っちゃまを訪ねたのでしょう」
「そうですか、会えたのかどうか気になっていたんです」

 力になれてよかった、と言って笑うイルーガだが、フリンズにとっては全く良くない。なぜなら、蛍の姿を見かけなくなったのがちょうどそのひと月ほど前だったからだ。
 ここまで証拠を揃えられて、もはや嫌な予感は事実となってしまったようだ。

 蛍に、避けられている。

 その事実にかなりの衝撃を受ける。

「……弱りましたね」
「あの、やはり何か悩みでも? それとも僕は何か変なことを言ったでしょうか」

 思わず漏れたフリンズの呟きに、イルーガが少し心配そうに反応した。

「いえ、そういうわけでは。ただ彼女が僕の居場所を尋ねたように、僕も彼女の行方を知りたいのですが……心当たりが浮かばなくて。僕も彼女に用ができたのですが、最近は会えていないんです」
「まさか、夜回りの日以来会えていないんですか? ……そうか、彼女はしばらく君に会えなくなるかもしれないから、僕に居場所を聞いてまであの日会おうとしたんですね」
「そうかもしれません。……彼女は多忙な冒険者ですから」

 何か合点がいった様子のイルーガに対し、実際はその真逆なのだがそれは言わないでおく。
 蛍に用ができたのは事実だ。嫌われるようなことをした心当たりはなく、むしろ好かれるよう、少しでも距離を縮められるよう振る舞ってきたつもりだったのだが。
 とにかくまずは会って謝罪し、できるなら自分が避けられている理由を聞きたい。そのためにも彼女に会えそうな場所の情報が欲しかった。

「旅人さんに会えそうな場所ですか……。そうだ、ここ三日程でファルカさんには会いましたか?」
「ファルカさんですか? いえ、お見かけしていませんね」
「そうでしたか。西風騎士団が順次モンドへ帰還を始めているでしょう。その見送り兼、慰労会と称して宴席を設けるそうで、知り合いに声をかけて回っていたんですよ。フリンズさんのことも招待したがっていました。それに、旅人さんは西風騎士団の栄誉騎士ですから彼女もきっと参加するはずです」
「そうなんですね。ありがとうございます、イルーガ坊っちゃま」
「どういたしまして。旅人さんに会えるといいですね」

 有益な情報に感謝して、彼に心からの礼を述べる。フリンズの心境が少し持ち上がったのを察したのか、イルーガがほっとした表情をした。

 そのままクリフサイド・キャンプに戻ると言ったイルーガを見送った。
 そして、彼の背中が見えなくなったところで、早速ファルカを訪ねるために西風の砦へとフリンズは足を向けた。

2

 ファルカに誘われ、宴会会場であるフラッグシップを訪れた蛍は、目の前の光景を見て自らの失敗を悟った。ここひと月ほど蛍が避け続けて、けれど片時も忘れられなかった蒼い姿を見つけてしまったからだ。
 回れ右をして帰りたい気持ちを抑えつけ、怪しまれない程度にフリンズの様子を伺っていると、この宴席の主催者であるファルカに声をかけられた。

「よく来てくれたな、栄誉騎士! さぁ、お前の席はこっちだ」
「ありがとう、ファルカさん。みんな、ようやくモンドに帰れるんだね」
「ああ、お前が助力してくれたおかげでより早く片が付いて、皆感謝している。話したがる団員も多いだろうからな。労いの意味も込めて、そこそこに相手してやってくれるか」

 そんなやりとりをしながらファルカに案内された席は、蛍の内心を知ってか知らずか隅のフリンズとは離れた店の中央のテーブルで、少しだけ安心した。だってあの人の近くに座るなんて、想像するだけで心臓がどうにかなってしまいそうだった。

 もうだいぶ前から、蛍はフリンズに片想いをしている。
 それがいつからなのか正確には覚えていないが、細やかな気遣いを見せてくれる姿が、落ち着いた声が、穏やかな微笑みが、気づけばどうしようもなく好きになっていた。
 でも告白する勇気もないし、そもそも蛍にとっては初めての恋で、どうしていいかわからないというのが本音だった。
 それに何より、下手に想いを告げて彼から拒絶されるのは怖かった。だからひっそりと想うだけにしようと思っていたが、顔を合わせるとどうしても平静で居られず、聡い彼に恋心が気付かれてしまうのではと心配になった。
 結果、気づけばフリンズと会うこと自体を避けるようになってしまっていた。
 だがやはり、会えるものなら会いたいと思っていたので、近くに彼が居るとなると目は自然と引き寄せられてしまう。久しぶりに見るフリンズはやっぱりかっこいいな、などと思ってしまい、何を考えているんだと頭を振ってその考えを振り払った。

 蛍の視線に気がついたのか、ふとフリンズがこちらを見た。
 久しぶりに会ったためか、蛍を見て少しだけ目を見開いた彼は、しかしすぐにほっとしたような穏やかな微笑みを浮かべた。それがなんだか嬉しそうに見えて、顔が熱くなりそうで慌てて目を逸らす。
 やっぱり彼の前では平静でいられない。

 その後はもうフリンズの方を見ることができなかったが、ずっと彼の物言いたげな視線を感じていた。
 気づいていないふりをし続けたが、周りからは流石にどこか蛍の様子はおかしく見えたらしい。何やら少し心配そうな顔をしたファルカに声をかけられた。

「どうした? あまり気分が良くなさそうだが、場に酔ったのか?」
「あ、えっと……そうかもしれない。少し外の空気を吸ってくるね」

 上手い言い訳が浮かばなかったため、そういうことにして少し席を外そうとした。すると、何故かファルカも一緒に立ち上がった。

「あー待て待て、俺も一緒に行こう。栄誉騎士の実力は知っているが、レディを夜の街に一人で放り出すわけにもいかない」
「でも、ファルカさんはまだまだ飲み足りないでしょう? 私についてたら、その間に他のみんながお店のお酒を全部飲んじゃうかも」
「なんだと!? それは困るな……」
「なら、僕がついて行きましょう」

 ずっと聞きたかったけど今は聞きたくなかった声が会話に混ざってきて、思わず蛍は固まった。恐る恐る振り返ると、離れたところにいたはずのフリンズが立っていた。

「ライトキーパーとして、夜の独り歩きは推奨できませんからね。それに僕も少し休みたいと思っていたんです。ファルカさんも、それならどうですか?」
「お、いいのかフリンズ。お前が一緒なら安心だ」
「光栄ですね。では蛍さん、行きましょうか」

 蛍がまごついている間に話がまとまってしまい、フリンズがこちらに向き直ったかと思ったら、ごく自然に手を取られた。
 瞬間思考が停止し、先ほどとはまた別の意味で身体が硬直する。咄嗟に顔を伏せたので見られてはいないはずだが、絶対赤くなっていると思う。
 そんな蛍を見て、フリンズが僅かに表情を曇らせたことには気づかず、促されるままにフラッグシップを後にした。

3

 店を出た後、蛍を連れてナシャタウンが見下ろせる小高い丘の辺りまで来た。街中よりは落ち着いて話せるだろうと思いここまでやってきたが、彼女は相変わらずフリンズの方を見ないままで、返事以外に言葉らしい言葉も発していない。ただ居心地悪そうにしながら、フリンズに捕まったままの自らの右手をちらちらと見ていた。

 先ほど手をとった時も、過剰なほどの反応をしていたが、……やはり僕に触れられるのは嫌なのだろうか。
 そんなことを考え逡巡したものの、結局手を離してやれないまま、彼女に向かって口を開いた。

「……こうでもしないと貴方と話す機会を得られなそうだったからとはいえ、まずは無理やり連れ出すような強引な手段をとったことを謝罪します。ですが、僕も余裕がありませんでした」

 フリンズの言葉に、弾かれたように蛍が顔を上げた。随分久しぶりに見る気がする琥珀の瞳がまん丸く見開かれている。心なしか青ざめた彼女が何か言葉を発する前に、一息に尋ねた。

「そろそろ、そんなにも僕を避ける理由を教えてくれませんか?」

 ひゅっ、と息を呑んだ音がした。
 フリンズの問いかけに、いっそう縮こまった蛍は口を開いたり閉じたりしていたが、結局言葉は発さないまま再び俯いてしまった。
 ……我ながら、未練がましい問いだったか。
 目が合えば即座に逸らされ、触れれば過剰なほど身を固くする。そしてフリンズに遭遇しそうな日を避けて行動する。……それはもう、そういうことなのだろう。
 好いた相手だからこそ、何かしてしまったのならば謝罪を伝えたかったが、ここまでの反応を見るに充分だった。静かな諦念を感じながら、握っていた小さな手を離す。もう触れることはないのかもしれない。

「……いえ、申し訳ありません。僕とはもう関わりたくないのであれば――」
「違う!」

 ずっと黙っていた彼女が、突然大きな声を出した。顔を上げた蛍は、何故だか今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 そんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに、彼女相手には失敗ばかりしていて、つくづく自分に嫌気が差す。

「ごめんなさい……」
「蛍さん」
「違うの。本当にごめんなさい……フリンズは何もしてないの。ただ、私が、勘違いしそうになって」
「勘違い、ですか?」
「フリンズが、優しくしてくれるたびに、その……両想いなんじゃないかって……」

 消え入りそうな声で告げられた言葉に、思考が止まった。あまりに都合が良すぎて、自分は夢でも見ているのかと疑い始める。

「もしかしたらって思うたびにそんなわけないって考え直して……でもどんどん好きになっちゃって、だから、会うのが苦しくなって」

 だが、続けられた言葉は間違いようがなくフリンズへの好意を表すもので。予想しなかった展開に、回らない思考のまま辛うじて問いかけた。

「だから……僕を避けてたんですか?」
「私の自意識過剰で、傷つけてごめんなさい……。でも、片想いのままでいいから、フリンズのこと好きでいることは……許してほしい……」

 ここにきてフリンズは、蛍の言い回しにようやく違和感を覚えた。どう言うわけか、彼女は自分の片想いだと思い込んでるらしい。
 これまで自分はずっと蛍への好意を行動で示してきたつもりだったのだが、まさか、それが伝わっていない?

 だとしたら、それは。

 あまりにも致命的なすれ違いに内心頭を抱えながら、フリンズはそっと少女に近づいた。
 おそらく恥ずかしさと情けなさで、ぎゅっと目を閉じて頑なにフリンズと目を合わせようとしない蛍の頬に手を添える。これ以上片想いだと勘違いを続けさせないための伝え方など、一つしか思い浮かばなかった。
 蛍が相変わらず固く目を閉じているのをいいことに、その小さな薄桃色の唇へ、躊躇いなく自らのそれを重ねた。

4

 触れた感触は軽かったのに、それにとてつもない衝撃を受けた蛍は思わず目を開けた。
 焦点が合わないほど近くで、蛍の反応を伺うように鬼火のような瞳がじっと見つめていた。

「なんで……」
「もちろん、貴方が好きだからです。他に理由があると思いますか?」

 未だ衝撃で動けない蛍に、淡々とフリンズが告げた。

「嘘……」
「嘘ではありませんよ」
「……じゃあ、夢?」

 とてもじゃないが、現実だと思えない。ずっと恋してた相手も自分のことが好きで、しかも急にキスされた、なんて。

「信じられないなら、もう一度しましょうか」

 目の前の妖精がなんだかとんでもないことを言ってる気がするけど、きっと夢だから。幸せだなって思った瞬間に突然終わっちゃうのだ。
 フリンズが元々近かった距離を詰めようとするのを感じて、蛍は目を閉じた。夢だろうとやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。だけど、どうせなら今はこの幸せな時間に浸っていたかった。
 一拍のあと、再び唇が重ねられた。
 こんな夢を見てしまって、起きたらまたフリンズのことを避けてしまいそうだ。そんなことを思いながら目が覚めるのを待った。

 ……。
 一秒経ち、二秒経ち。
 おかしい。まったく目が覚める気配がない。不思議に思って目を開けると、心なしか楽しそうな顔をしたフリンズがこちらを見ていた。

「目は覚めそうですか?」
「……あの」
「なんでしょう?」
「その、もしかして……夢、じゃない?」
「ええ。そのようですね」

 フリンズの笑みが深まった。

「え……えええーーーー!?」

 ようやくこれが現実だと認識した蛍は思わず悲鳴を上げた。
 夢だと思っていたからまだ平静でいられたのに、その、もう、二回も。
 嬉しいやら恥ずかしいやらその他色々、感情が渦巻いて処理しきれず、顔を覆ってその場にしゃがみ込む。

「うう……」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない……もうだめかもしれない……」
「今日の貴方は忙しいですね」
「誰のせいだと……」
「ふふ、僕のせいですか? でも、ようやく伝わりました」

 蛍の傍らに膝をついたフリンズが宥めるように頭を撫でてくる。その声に安堵が滲んでいて、思わず指の隙間から彼の顔を盗み見た。
 蛍の視線に気づいたフリンズは、一度微笑んでから真剣な顔をした。釣られて蛍もしゃがみ込んだままだった姿勢から、少しだけ居住まいを正して座り直した。
 蛍がきちんと話を聞く体勢をとったのを確認したフリンズが、ゆっくりと口を開いた。

「蛍さん。……改めて、僕は貴方が好きです」
「……うん」
「ですから、今後は僕を避けないでいただけると。……さらに言うなら、貴方も僕が好きだと言うのなら、貴方を恋人と呼ぶ権利が欲しいです」
「……私でいいの?」

 こんなに真っ直ぐに告げられているのに、片想いだと思っていた時間が長すぎたせいか。まだ素直に応えられない蛍に、嫌な顔一つせずに、フリンズは首肯いた。

「はい。貴方がいいんです」
「……私も」

 私も、貴方のことが好き。

「貴方の恋人に、して欲しい」
「ええ、喜んで」

 返事とともに蛍の手をとったフリンズが、そのまま指先に口付けを落として来たので、声にならない悲鳴を上げてしまった。

「なんでいきなりき、き、きす」
「おや、先程もしたのに? 恋人に対する態度としておかしいものではないと思いますが。それに、言葉で伝えるよりも貴方にはこちらのほうが効果的のようですし」

 平然と告げるフリンズに、恋していた時から傍にいるだけでどうにかなりそうだったのにこれが普通になるのか、と蛍は少し気が遠くなった。とはいえ嫌なわけではないので、結局はこう答えるしかなかった。

「お手柔らかに、お願いします……」
「善処しましょう。ですが、早く慣れてくださいね」

 笑いながら言ったフリンズに手を引かれ、一緒に立ち上がる。だいぶ長居をしてしまった。

「戻りましょうか。ファルカさんが心配しているかもしれません」
「そうだったら申し訳ないね。それに、そういえばファルカさん、フリンズとお酒飲むの楽しみにしてた」
「なら付き合って差し上げなければいけませんね。……個人的なお礼も兼ねて」

 確かに、今日蛍がフリンズときちんと話せたのはファルカのおかげだ。蛍からも後で絶対何かお礼をしようと思った。

「お礼と言えば、僕はイルーガにも何か返したほうがいいかもしれませんね」
「イルーガ? 何かしてくれたの?」
「ええ。僕が貴方に避けられていると気づくきっかけをいただきました」
「うっ……」

 まさか、蛍がフリンズの夜回りの担当日をイルーガに尋ねたことだろうか。二人がどんなやり取りをしたか知らないが、もしかしたら、蛍も後でイルーガにお礼やお詫びをするべきかもしれない。
 そんなことを考えて若干気がそぞろになっていると、隣のフリンズが笑った気配がした。

「大丈夫ですよ。僕ももう気にしていませんし、イルーガもこれといった迷惑は感じていないようですから」

 宥めるように告げて、蛍を立ち上がらせるために掴んだ手を握り直してきた。ほっとするのと同時に、繋がれた手を見て改めて想いが通ったことを感じて嬉しくなった。

 そのまま手を繋いで、ゆっくり並んで歩いていたつもりだったがフラッグシップまではすぐだった。
 そろそろ離さなきゃ、と少しだけ寂しく感じるとともに、この期に及んでまだ夢なんじゃないかという不安がこみあげてきて、思わず蛍は足を止めた。隣の彼に視線を遣ると、フリンズは静かに蛍の言葉を待っているようだった。

「フリンズ。……その」
「大丈夫ですよ」

 具体的なことは何も言わなかったが、フリンズには伝わったようだった。蛍を安心させるように微笑んでから、そういえば、と呟いた。

「僕はこのあとはファルカさんに付き合いますが、貴方の今日の宿はフラッグシップですか?」
「うん、そう。いつもの部屋」
「なら今日は僕も隣の部屋を借ります。そうして、明日の朝一番に貴方に会いに行きましょう」

 そうしたら、夢ではなかったと信じられるでしょう?と柔らかく言う彼に、胸がいっぱいになる。蛍が何を不安がっているかなどお見通しだったようだ。

「……ありがとう」
「どういたしまして。とはいえ僕も、せっかく想いが通じたのだから貴方の近くで夜を過ごしたいと思ったのが本音です。……まぁ、部屋に戻れるかはわかりませんが」

 確かに、酒豪のファルカに付き合ったら部屋に戻るどころではなく、フラッグシップのカウンターで朝を迎えることになりそうだ。

「とはいえ、それも良いでしょう。では、……また後ほど」
「うん」

 繋いでいた手を離す。少々寂しくはあるけれど、もう不安は感じなかった。
 今日最初にフラッグシップの扉を潜った時とはまったく違う明るい気持ちで、蛍は賑やかな店内への扉を開いたのだった。

— End —

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