Novel1 months ago · 9.2k chars · 1 pages

もう大丈夫だと思って離れようとしたらとんでもない目にあった話

真酒魔炉ちゃん真酒魔炉ちゃん

本当はもうちょっとヤンデレの作品になる予定でした。 ルーキーランキング、デイリーランキング、女性に人気ランキングに入ってたみたいです! 純粋に嬉しいです。ありがとうございます。

「銀時のこと、頼みましたよ」

ある月が綺麗な夜、縁側に座った先生は私を呼んで、頭を撫でながらそう言った。
優しい目、頭に触れる大きな手も優しくて、幸せなひと時をかみしめた。

「いやぁよ。アイツ生意気だしすぐ悪口言ってくるしサボるし役満の悪ガキだよ。私じゃ面倒見きれないって」
「はは、銀時は君になついていると思いますけどね」
「うそー⁈ そんなわけないよ。最近なんか晋助と小太郎も一緒に悪いコトしてさァ……このままだと非行少年まっしぐらよ。盗んだバイクで走り出しちゃうよ。窓ガラスたたき割って大爆走よ」

ひとしきり銀時の悪口を言って、先生と笑いあった次の日。
先生は突然現れた笠をかぶった黒い鴉たちに連れ去られた。
先生を追いかけようとして頭を打たれ膝をついた銀時の背中を見て、私は昨日の先生の言葉を脳内で反芻した。

『銀時のこと、頼みましたよ』

先生はこのことを予見していたんだろうか。自分を助けるために銀時は自らを犠牲にすると。
____そして、いざというときは仲間のために己の心を殺すのだと。

戦地から帰って来て、私の目の前に立ったのは目の奥を黒く濁らせた銀時ただ独りだった。
晋助も小太郎も、別々の道を歩み始めたらしい。
さんざん先生に悪口を言ったのに、もう3人が並ぶ背中が見れないのだと悟れば胸がじくじくと痛んだ。
先生を切り捨てたことを一言詫びて、どこかへ旅立とうとする銀時の手を掴む。

また、先生の言葉が脳内で反芻する。

『銀時のこと、頼みましたよ』

濁った眼、冷たい手。
私は彼がまた心の底から笑える日まで、ずっと彼のそばにいることを先生に誓った。

だけど、私は彼に何をしてあげることも出来なかった。
というか、彼は私が援助しようとしてやったことをことごとく拒絶した。
私が買ってきたご飯には手を付けないし、ならばと直接お金を渡しても全部懐の中に帰ってきている。寝所を用意しても、夜になればどこかへふらりと消え、帰って来るかは彼次第。
言葉も交わさず、私はただ背後霊のように彼の後を付いて回る日々。

頼みましたよ、なんて、どうすれば良いか教えて貰ってないよ先生。
彼の心の傷は私では癒せない。それどころか、ずっと松陽先生と一緒にいた私がここにいては、余計に彼の罪悪感をえぐり続けるだけではないのか。
それでも、彼をもう独りにはしたくなかったんだ。

月日は流れ、銀時はかぶき町に流れ着き、お登勢さんに拾われて万事屋を始めた。
私以外の人が差し伸べた手なら取るんだと、単純に驚いた記憶がある。それと同時に、やっぱり私じゃダメなんだと思い知った。

気付けば、銀時の周りに人が増えた。
沢山の事件や依頼を解決していくうちに、銀時の周りには沢山の人が増えた。
一人だった万事屋は三人と一匹になり、彼らに救われていく人達を沢山見た。
彼のゆく道に困難は数多く待ち構えていて、大切なモノを守ったり、大切な人を失うこともあったり……それでも、出会った人達と共に前に歩み続けた彼の背中を追い続けた。

ふと気づいた時には、彼の背中はたくましく、大きく。
そして、彼の隣には、何物にも代えがたい大切な仲間が。

もう、それは先生にも届いたのだろう。
もう、私はいなくても大丈夫なのだろう。

崩れたターミナルから帰還した彼を見た時、「よく頑張った」って、思わず抱きしめてしまった事ぐらいは許してほしい。

__先生。私、銀時のこと独りにはしなかったよ。まァ、ちゃんとできてたかわかんないけど。

そして、____その日私は、自分が生きる意味を見失った。

スナックすまいるに皆集まって、楽しくどんちゃん騒ぎをしている喧騒の端で、誰にも気取られずちびちびとお酒を煽る。
銀時の周りには家族がいて、真選組がいて、柳生家がいて、吉原のみんながいて、お妙ちゃん、さっちゃん、つっきー、美人のお相手も勢ぞろい。

みんな、彼が守った笑顔だ。

それを見たら何だか満足してしまって、私は一人席を立って店を出た。
夜風が気持ちいい。ああ、きれいな満月だ。

ふわふわとした心地よさのまま、気の向くままに歩きはじめる。
もう家には帰らない。このまま、タンポポの綿毛みたいにどこまででも行ってみようか。と、お酒でタガが外れたままに歩き出して、かぶき町を離れても歩き続けた。

……さーて。ここはどこなんでしょーか!!

いやあの、お酒飲みすぎててどこまで来たかわからなくなったとか、そんなんじゃないんです。
普通に町を出て15分ぐらい歩いたところで、人攫いに捕まりました。

いやあァァァーー!!!生きる意味見失ったとか言ったけど、死にたいワケじゃないィィィー!!!
変なオッサンに売り飛ばされるとかもやだし!!人体実験とか解剖とか臓器売買とかもやだし!!!
何だってんだよ神様!私もそこそこ頑張って生きてきたと思うよ?自分の役割一個終わらせてさてこれからどう生きようか!ってとこなのに、その結果がこの仕打ちィ!?
うぇーん。こんな年増誘拐してどうすんのさァー!もー私これからどうなっちゃうの。

目隠しをされて口にタオルを詰められ、手足を縛られている状態で、何かに乗せられて移動していることだけはわかる。
速度感があんまりわかってないんだけど、車?船?まじでナニ?

私を攫った奴なのかどうかはわからないが、見張りとして近くに二人いる事だけはわかる。
暴れてもどうにもならないことは理解しているから、とにかく大人しくしているふりをしながら、この状況をどうにかできないものかと思考を張り巡らせる。

「ホントにこの女で合ってるのか」
「ああ、間違いねェよ」

見張りの会話が聞こえてくる。
ええ~、私ご指名で誘拐されてんの?マジで何で?
悪いことした記憶もないし、狙われるようなことした記憶もないし、懸賞金がかけられるようなことしてないし。
あーもう全く動けないや。きつく縛りすぎなんだよコノヤロウ。やっだもう涙出てきた。

「ははっ、可哀想な女だな」

え、なんか突然ディスられたんですけど。喧嘩なら買うから縄ほどいてくんないかなァ!!

「全くだね、あの男の__」と、男が口にした瞬間大きな爆発音がして、転がされている面が傾いたのを感じた。

え、なに!?と思う間もなく、床を滑って壁に打ち付けられる。ガタガタと色々なものが倒れたり崩れたりする音がして、私の周辺でも吹っ飛んできたモノが壁に打ち付けられて壊れ、破片が飛び散っているようだ。
もう!見えなくて怖さ100倍なんですけど!!ホラゲーの一万倍怖いし絶叫マシン大好きな人ならこりゃ大満足だろうね!って言ってる場合じゃない!これマジ死ぬゥゥ!!誰か助けてェェェ!!!

「クソ…!何があった」
「ヤツが来た!!」
「ッ…!ヤツが…!!」
「それだけじゃねェ、アイツら、全員で乗り込んできやがった!!!」

えっナニ!?ヤツって誰!?アイツらって誰ェェ!!?てか誰でもいいから助けてェェェ!!!
火事場の馬鹿力で身をよじっていると、少しずつ縄が緩んできたのを感じる。おしおし、このままやればいける!
焦りはありつつも慎重に、少しずつ緩めていく。あともう少しで…!と思った瞬間に、首に腕が回ってグイッと引っ張られた。

「来い!!こうなりゃテメェを人質に逃げてやる」
「んグゥ…!!」

ただでさえ息がしにくい状況なのに、首が閉まって苦しい。
抵抗も出来ないままに、引きずられてどこかへと連れていかれる。
頭がぼうっとし始めて、本気で死を覚悟したその瞬間、ドス、という音と共に男の腕が離れていって……

「ソイツは、テメェらが触れていい女じゃねーんだよ」

低く重い、そんな彼の声を聞きながら、私の身体は崩れ落ち、意識は深い闇の底へと落ちていった。

「……っ」

ビクリ、と身体が痙攣して、一気に意識が浮上した。
ゆっくりと目を開き、辺りを見れば、今私は病院にいるのだと思う。
助かった…と安堵するとともに、繋がれた管やマスクに気づいて驚いた。私はただ誘拐されていたのではなく、それなりに重傷を負って危篤の状態だったらしい。

ああもう、ちょっと冒険したかったぐらいのつもりが、とんでもない目にあっちゃったなァ。
てか動けないんですけど……おーい、誰かぁ。お医者さん呼んでェ!
その時、ガラガラと戸が開く音がして、思わず目を閉じる。
あらら?なんで狸寝入りはじめちゃったの私?

近づいてくる人が一人なのはわかるけれど、誰なのか足音では判別がつかない。
その人はベッド横の椅子に座って、私の顔を数秒覗き込んだ後、手を握ってその存在を確かめるように何度か力を入れたり抜いたりを繰り返した。

「なァ、お前はいつんなったら目覚めるんだ」

その声を聞いて、この手の主は銀時なのだと認識する。
節くれ立った男の手、先生とは違う、力強さを感じる手だ。
あの日からロクに言葉を交わしていないのに、私に向かって話しかけてくれていることに緊張する。やば、手汗出てないかな。

「お前が言ったんだろうがよ。『ずっと一緒だ』って」

そう言えば、あの日銀時の手を掴んでそう言ったなぁ。てかよく覚えてたな、私なんてさっきまで忘れてたよ。

「あんだけずっと引っ付いてきて、飽きたら俺を置いてどっか行くってのかよ」

いやいや、飽きたとかないから。ただ、先生との約束は果たせたかなって思ったから、もう私いなくても大丈夫かなっていうのはただの事実じゃん。

「いや、違ェな。俺ァ知ってんだよ。お前が俺の見てないとこで何してたか。どんだけ俺のために身ィ削ってきたか」

そんな…先生との約束を果たすのに必死で、身を削ったつもりはあんまりなかったんだけどな。

「……俺と一緒が嫌んなったか」

その声は絞り出すように少し震えていて、彼の気持ちがわからなくなった。

握られた手が痛い。
またうっすらと目を開ければ、銀時は私の手を両手で掴み、それを額に当てて俯いている。

今は私が、彼を苦しめている。それを理解した瞬間に、サッと血の気が引いた。
やっぱり、私はもう彼のそばにいるべきではないのだ。

「……銀さん、そろそろ行きましょう」
「また明日くればいいネ。明日こそ、きっとまた笑ってくれるヨ」

いつの間にか、新八くんと神楽ちゃんも来ていたらしい。
その二人の声を聞いた銀時はおもむろに立ち上がり、私の手を優しくベッドの上に戻して病室を後にした。
ドアが閉まる音を聞いて目を開いた私は、そのまま起き上がってベッドから抜け出した。
どこか遠くへ行こう。彼がもう私を思い出すことの無いように。私に苦しめられることの無いように。

彼には大切な人がいる。仲間がいる。家族がいる。もう、大丈夫だ。

「さよなら」

『万事屋銀ちゃん』
その看板に別れを告げて、笠を深く被り直して歩き出す。

「待ちなんし」
「……何でしょう」

電柱の陰から、見知った顔に声を掛けられる。
思わず顔を隠すように、笠のふちを持って下げた。

「先刻病院から一人の女が抜け出したそうじゃ。ぬし、何か知らんか?」
「いえ、私は何も」

病室抜け出したのがバレるのは時間の問題だっただろうけれど、まさかツッキーが探しに来てくれるなんて……!?
驚きで一瞬声が震えそうになったけれど、平静を保って彼女の横を抜けようとした。

「待てと申しておる」

私の行く手を阻むように立つ彼女から逃げたくて、一歩後ずさる。

「笠を取りなんし。顔も見せず行くつもりでありんすか」

あーバレてる!!てか、バレてない訳が無かった!!見つかった時点で詰んでた!!
普通にツッキーは友達だし、私のこと心配してくれてるのかもしれないけれど、でもこの町を去ると決めたからには別れを惜しむつもりはない。
ごめんね!と心の中で叫んで、笠をツッキーに向けて投げつける。それに彼女が気を盗られた隙に、180度向きを変えて走り出した。

「猿飛!!逃がすなァ!」
「言われなくても!はぁっ!!」
「なっ……!!」

逃げた先にはさっちゃんが待ち構えていて、足元が納豆のねばねばで動けなくなってしまった。

「うそ……!」

足を上げようと試みても、ネトつくそこは動きがいつもの100倍ぐらい遅い。

「なんでこんなこと」
「何でってアンタねぇ!」
「落ち着け猿飛。事情があるのじゃろう」
「はー?何よ?私わかってますって良いオンナアピールのつもりぃ~?」
「そんなつもりはありんせん」

私を置いてきぼりに二人でやんやと口喧嘩を始めた二人を横目に、念のためと用意していたものを懐から取り出し地面に叩きつける。

「煙玉!!?」
「なんでそんなモン用意してんのよ!」

二人がひるんだすきに靴を脱ぎ棄ててまた走る。
直に地面に足の裏がつくと結構痛いし走ってられたもんじゃない。でも、止まる気はないからそのまま意地で足を動かし続けた。

それにしても、何かおかしい。
私を追う人間は何人いるのか、行く先々で町の人達が私を見るや否やどこかに走り出したり、電話を掛けたり。
挙句の果てには百華や御庭番衆全体が私を探している様だった。
今は空き家に身を隠して何とかやり過ごしているが、ここも見つかるのは時間の問題だろう。
ほんとなんで、こんなことになってんの?私、この町出ようとしただけじゃん!?なんか国家転覆レベルの犯罪やらかしたっけ!?

格子付きの小さな窓から外の様子を確認すると、目に入ったのは柳生家の方々。そして、お妙ちゃんが率いるすまいるのキャバ嬢たち。

「九ちゃん!そっちはどう?」
「いや、見つからなかった」
「まさか、もう町を出ちゃったのかしら」
「それは無いよ。かぶき町の外は既に固めてある。町を出ればその時点で見つかっているはずだから」
「そうね。もう一度探してみるわ」
「うん。頑張ろう」

う、うそでしょ……じゃあもうこの町出れないじゃん……
って、なんでみんなそんなに私のこと探してるの!?あいや、もしかしたら超ド級の犯罪者が別でこの町に出現して、それを追いかけているのを私が勝手に間違えているだけだったりする?
うん、そうであってくれ。だって私がそんな追いかけられるって意味わかんないもん!!

その時、遠くからサイレンの音が聞こえて、スピーカーから沖田くんの声がした。
「え~、もうとっくに逃げ場はありやせんぜ~、観念して出て来なァ、__」
最後に言ったその名前は確かに私のもので、絶望の淵に立たされた気分だった。

百華、御庭番衆、柳生家、キャバ嬢だけじゃなくて、真選組もォォォ!!!?
そして、みんなが探している相手は私であることが確定した。なんてこったい。

とにかく、この周辺は数が多い。どこか別の所に移動しよう。
裏口からこっそりと抜け出して、周辺を確認して民家の隙間や路地裏を抜けていく。大通りは完全にアウト。裏道も知ってる内の殆どのルートは見張りがいて潰されている。
くそ、ホントに八方塞がりじゃないか……

路地の隙間から人の少ない通りに出た時、私の目に映った光景は。

「この人!見てないアルか?」
「すみません。今人を探してるんです。もし見かけたらここに連絡してください」

私の人相書きを配りながら、一人一人に声を掛けていく新八くんと神楽ちゃん。
二人の必死な様子に、最初はきょとんとしていた人もみんな「任せてくれ!」と笑顔を見せている。

「「ありがとうございます/ネ!」」

二人の声が重なって、あたりの空気が一致団結していく。
なるほどこうして、町全体はもう二人の味方ということだ。
見つからないようにまた身を引っ込めて、人のいない裏通りを歩いていく。

どうすればいい。誰にも見つからないように、この町を出るには……
その時目の前に、懐かしい顔が現れた。コイツなら助けてくれるかも、と直感で思って声を掛ける。

「小太郎…!よかった、お願い助けて…!」
「……とにかく話を聞こうではないか」

私を追う人の声が聞こえて、小太郎の方を見れば、彼は私についてくるように言って走り出す。
さすが逃げの小太郎の名は伊達じゃない。人がいない所、見つからない所を熟知していて、人のいない廃屋まで案内してくれた。

「それで、どうしたと言うのだ」
「いやそれが、何があったか私にもわからないの。突然みんなに追いかけられて……」
「そうか……本当に心当たりは無いのか?」
「ないよ」

私がそう言いきれば、彼は目を閉じ少し沈黙して、そしてゆっくりと口を開いた。

「ならば問おう。なぜ逃げたのかと」
「なぜって……」

『追いかけられたから逃げた』
それは事実だけど、そもそも後ろめたいことが何もなければ逃げなくて良いのだ。
じゃあ、私は何から逃げようとしたのか。

「そもそも、お前は病院に入院していた筈だ。目覚めたという報せも貰っていない内に退院までしているとは思えんが、何故ここにいる」
「それは……その」
「何から逃げようとしたんだ。話してくれ」

真っ直ぐな瞳に見つめられて、自分自身でも何をしようとしたのか改めて考え始める。

「私は……」

先生との約束を守って、銀時のことを見守り続けた。
私がいなくなっても、銀時の周りには支えてくれる人の存在が沢山あることを確認した。
ここまでくれば、私が手を離しても銀時は生きていける。

「だから、私は……」

銀時の前から去ろうと思った。
私の存在が、やってきたことが、銀時が未だに罪の意識を抱える原因なのだとしたら、私はここにいるべきではない。
何よりそれは、銀時を任された私がやって良いことではないし、彼を苦しめている私を私が許せない。

「だから、逃げた」
「……そうか」

最後まで静かに聞いてくれた小太郎は、ふう、と小さくため息を吐いた。

「一つ確認するが、先生との約束が無ければお前は銀時のそばにはいなかったのか」
「……そんなのわかんないよ。でも、先生の約束が無ければあの時銀時の手を取れなかったかもしれないとは思う」
「そうだな。約束が背中を押したのは事実だろう。なら、銀時のことをどう思っているんだ」
「そんなの、決まってる」

先生がある日拾ってきた、生意気で意地悪なクソガキ。
先生のことが大好きで、仲間の事を大切にできる、嫌いになれないヤツ。
先生を切り捨ててでも仲間を守った、ひとりで駆け抜けていく夜叉。
やるべきことを見つけられず、何でもやることにして町に根を張り始めたプータローのマダオ。
自分の身を犠牲にしても、自分のプライドへし折っても、人のために大切なものを守り続けた万事屋。
守ったもののぶん、沢山の人に囲まれて愛されて、この町にいなくてはならない存在となった、一人の男。

「大好きだよ」

あの時銀時の手を取ったのは先生の意思なのだとしても。
それからも一緒に居続けたのは、今彼のそばを離れようとしているのは、私が彼のことを愛しているからだ。

「そうか」

小太郎は安心したように笑うと、私の肩を掴んだ。

「え、なに___」

そのまま後ろに強く押されて、ふらりとよろめいた身体を誰かが抱き留めてくれる。ああ、この手は__

「手荒な真似をしてすまないな。…もう二度と離すなよ」

小太郎は私の背後にいる彼に向かってそう言うと、廃屋を出て行った。
二人ぽつんと残されて、気まずいようなそんな気がする。

「あの、銀時…?」

背中に感じる体温。回された腕の力。
逃げようとしてもびくともしないその拘束は、誘拐犯のそれよりもずっと重く、逃れられない熱を帯びている。

「二度と離さねーよ」

耳元で、少し掠れた銀時の声が響く。
その重さに、背筋がゾクりと震えた。彼がこんな風に、剥き出しの感情をぶつけてくることなんて、今まで一度もなかったから。

「銀時、苦しいよ……。それに、私がいたらアンタはずっと、過去のことを引きずるでしょ」
「引きずって何が悪いんだよ」

遮るように、彼は私の肩に顔を埋めた。

「引きずって、苦しんで、泥水啜って、それでも前向いて歩いてこれたのは、お前がいたからだろーが。先生との約束? そんなもん知るか。……テメェが俺に世話焼いて、背後霊みたいに後ろついてきたのは、先生に言われたからだけだったのかよ」

「それは……」

「……俺が拒絶したから、傷ついたか。悪かったよ。でもよ、あの時の俺ァ、お前に優しくされる資格なんてねェと思ってたんだ。先生を切った俺のこと、恨む気持ちがあるんだろって決めつけてな。……それなのにお前は、俺がどんなに突き放しても、無理矢理にでも俺の傍に居座りやがった。……それで今更、お前がいなくなっていい訳ねェ。勝手に行かせてたまるかよ」

銀時の手が、私の服をぎゅっと掴んだ。
かつての頼りない悪ガキの手じゃない。引きずってきた過去も、今守るべきものも、全部抱えてきた大きな手。

「かぶき町中が動いたのはな、神楽や新八が頼んだからじゃねェ。……お前に救われた奴らが、お前を友達だと思ってる奴らが、お前の居場所はここだって、全員が確信してるからだ」

新八くん、神楽ちゃん、お妙ちゃん、真選組の面々。
彼らが必死に私を探していたのは、単なる捜索願いじゃない。
私がこの街で、彼に寄り添いながら刻んできた足跡を、みんなが認めてくれていた証拠。

「……先生との約束は、もう終わったのかもしれねェ。けどな、俺とお前の約束はまだ始まってもいねーんだわ」

銀時はゆっくりと私を解放すると、正面から私の両肩を掴んだ。
その、濁りの消えた真っ直ぐな瞳に見据えられる。

「約束しろ。次は先生のためじゃねェ、お前自身のために、俺の隣にいろ」

その瞳に映る私は、ひどく情けない顔をして泣き笑いをしていて。
もう迷う必要なんてどこにも無かった。

「……生意気。すぐサボるし、お金ないし、糖分バカだし、本当に手のかかる……最高の悪ガキなんだから」

私がそう言って笑うと、銀時は一瞬呆気にとられたような顔をした後、ふっといつもの意地悪そうな、でも温かい笑みを浮かべた。

「ああ、そうだよ。だからよ……一生かけて、俺の面倒見やがれ」

差し出された、節くれ立った大きな手。
あの日、戦地から帰ってきた彼の手を取った時よりも、ずっと確かな熱を持って。

私はその手を、今度は自分の意思で、二度と離さないように強く握り返した。

— End —

Comments 12

きゃめるん9 天前
Sticker
はにわ13 天前
Sticker
紫音21 天前
Sticker
箱鳥23 天前
Sticker
花桜みっこ27 天前
Sticker
E
E.nono28 天前
Sticker
ぺりこ1 个月前
Sticker
のりぞう1 个月前
Sticker
5
56koro1 个月前
Sticker
琥珀1 个月前
Sticker
H
Hako1 个月前
Sticker
1 个月前
Sticker
Sakuria
Where every work blooms
Click anywhere to skip