それは、何の変哲もない日であった。
「アモン」
「うぃーす」
アブノーマルクラスに所属しているアモンと呼ばれた女子生徒は、今日も今日とて担任のカルエゴに対して生意気な返事をしていた。
そんな彼女は遅刻常習犯であり、授業態度も悪い。授業中は机の上には教科書を出さず、筆箱も出さない。
ただ椅子に座り、教師の手の動きや視線の動きを観察しているのみで、身についているようには全く感じられない。まだ居眠りしていない点は許容範囲であるが、そんな無気力な行動が多い女に対して周りは、【常にやる気のない女悪魔】という認識でいた。
しかし、ある日、滅多に自分から声をかけることのないカルエゴが珍しくアモンに自ら声をかけた。その光景を見ていたジャズやリードも眺めては「こりゃ、めずらしい」と目を開けて驚いている。由緒ある威厳のある王の教室を手に入れた後も、アモンの様子は変わりなく自由気ままでマイペース。更には、周りとは一線置こうとする異質さがある女。そうカルエゴは認識していたし、意図的に周囲と一線起きたがる体質なのだろうと察していた。
「放課後、教室に残っているように」
「いやん、なになに愛の告白宣言でもされちゃう??」
「なわけあるか!」
アモンの軽率な求婚にカルエゴが即答でツッコミするがこれは学園内では定番である。だからなのか、彼らの毎回恒例のやり取りを見て、周りも思わず苦笑いを浮かべた。
「もう、一瞬のルーティンだよな〜」
「だよな〜、あのやり取りが無いとむしろ落ち着かねぇ」
「アモンちゃんはいい子なのにね」
「発言が軽率なんですよ」
なんて周りから冷ややかな視線を向けれている女であるが、そんな女に対して、入間の中で何か腑に落ちていなかった。
(アモンさんの、足元に……魔法陣…?)
アブノーマルクラスに所属しているアモンは他の生徒達とは異なる魔法の出力方法をしている。それは、【魔法陣を用いてでの魔術発動】であった。
入間が悪食の指輪を通してでの発動。
モモノキ教員のような魔力操作がしやすいように、
杖などの物を通して発動するタイプもいれば、
アスモデウスのような直感型で単発で魔術を発動するタイプもいる。
しかし、アモンは
攻撃・防御・回避・治癒など
全ての魔術発動を魔法陣を用いる。
そのため、周囲からは発動に時間がかかるノロマだとか、飽き性の悪魔にとって高精密で習得に時間のかかる魔法陣に魅力を感じないだとか、様々なことに言われ続けた女悪魔であるが、本人は何の抵抗もなく、なぜか毎日色んな人に求婚している。常識に左右されない。そんなところがアブノーマル入りになった理由だ。
(…そういえば、アモンさん。
いつも魔法陣が足元にあるな…)
入間とアモンは仲が良いかと聞かれれば曖昧であるが、
お互いはお互いを観察し尊敬しあっていた。
「お前に合わせたい教師がいる」
「え、先生からサバトのお誘い?」
「シバくぞ」
しかし。カルエゴはアモンに警戒心を持っていた。立場上、教師と生徒という関係であるが、その中でも歪な感情を持っている両者にとって、お互いは天敵とみなしていた。
「放課後、即帰宅ぜずに教室に残れ」
「は、めんど」
「めんどって言いよった〜〜」
「ほんと、怖いもの知らずかよw」
「流石、年中反抗期」
「それなのに、なぜ求婚するのかが分からん」
「理解不能」
カルエゴからの指示にも関わらず何でもかんでも文句を言える彼女は、アブノーマルの中で群を抜いてカルエゴにたてつくことができる恐れ知らずの生徒として、クラスメイトからそう認識されていた。
「入間くん、使い魔召喚シール 常備しててね」
「えっ!?」
「させるか」
しかし、いくらなんでも担任であり高位階の悪魔に反感しても、言われたことを従順に従う姿は、まだまだ若かった。
その後、時間は流れ、人気がなくなった教室で、アモンは椅子に腰掛けたまま足を揺らしていた。無論足元には入間も目にした魔法陣が展開されている。
「で、誰なんです?サバト相手」
「粛に。第一サバト相手ではないと何度言ったら分かる。貴様の記憶力は皆無か」
「いや〜〜。そこまで褒められてもカルエゴ先生との急な結婚生活は無理ですって、諦めてくださいよ」
「1回、表出ろ」
質問するのに全く聞く耳を持たない女にカルエゴが何度目か分からないため息を吐く。そして、いつも通り低い声で一声するカルエゴを、横目にアモンは呆れていた。
アモンにとっては、急にその日の放課後に残るように言われ、何時に来客が来るのかも本人に伝えられずまま、要件を言われずただ待たされるばかり。要するに暇なのだ。
「なら、来るまでケルベロスと遊ばせてくださいよ〜」
「暇だからという理由で、
ケルベロスを娯楽相手にするな!
…ほぅ…来たか」
最後の一言と同時に、教室のドアが開いた。
カルエゴと同じ身なりの、背丈、威圧感。
アモンは即座に察した。
あぁ、この人は私を【教育】させる気だ
「アモン」
「…うぃ」
「貴様の能力は特殊だ。
よって単独指導は行わん。」
教室に入ってきたのは、3名の教員。
・イポス・イチョウ
・ムルムル・ツムル
・イフリート・ジン・エイト
「うわぁ、そりゃまた豪華だね〜」
この空間にいるのは、
ランク「7」の教員3名、
ランク「8」の教員1名。
そして、問題児生徒1名。
周りから見れば一触即発なムードであるが、
問題児であるアモンは気楽そうに笑った。
「…多忙な先生達のスケジュールを独り占めできるなんて光栄だね。」
「そんな戯言など直ぐに言えなくなるぞ」
「それはそれでありがたいね。
面白くないことは一切興味無いんで助かるわ〜」
そう女は笑った。そんな中、カルエゴは互いに紹介させる猶予さえ与えずにアモンに指示を出す。
「…まずは、イポス教員と実践だ」
「えぇん、急に??」
その場に居た戦術学のイポス・イチョウは目の前にいる女悪魔が不思議で仕方なかった。彼とアモンは関わりは少ない。廊下で会えば挨拶を交わす位であり、職員室で会う頻度も決して高くは無い。しかし、イポスはあのカルエゴから一人の生徒を教育するように言われ、この場に来たわけなのであるだが、少し歪な気配を感じた。
以前からカルエゴは、アブノーマルクラスと仲良しというのは聞いていたが、ここまで番犬であるカルエゴ相手に意見を述べる生徒や反論的な生徒は見たことがなかったのだ。
そして、更にはアモンの足下には魔法陣が描かれている。担任のカルエゴは見慣れているのか特に話題することもなく、平然とした様子で会話している。
「多分だけど、イポス先生と私って相性悪くない?」
「だから、呼んだんだ。
いい加減、趣旨を察しろ」
「じゃあ、イフリート先生も?」
「あぁ、貴様が野垂れ倒れ込んでいる所を見たくてな」
「うわ、極悪……じゃあ、ムルムル先生は?」
「貴様の性格改善だ」
「え、それストレートに性悪って言われてる?」
「当然だろう」
2人の繰り広げられる内容を聞いては、特別教師として呼ばれた3人は苦笑いを浮かべるしかなかった。しかし、この場に突然来た3名の名前や戦闘スキルを把握している点について、意外とこの女悪魔は、自分以外の情報を見ているのだろうとお互いに把握していった。
そして、その日から特別授業が始まった。
別日の放課後。
「へぇ〜〜、イポス先生って戦術学教師なの?」
首を傾げながら問いかけるアモンに、
イポス・イチョウは、穏やかに頷いた。
「ああ。
君の戦術は少し特殊だからね。
君なりの戦い方を、一緒に組み立てていこう」
「助かる〜」
気の抜けた声。だが視線だけは、しっかりと相手を見ている。そんな様子にイポスは周りとは違うナニかを感じ取った。
「アブノーマルクラスって、
野心家で好戦的なタイプが多いからさ〜。
すぐ戦闘始まるんだよね」
「なるほど」
イポスは小さく頷いた。
やはりアブノーマルクラスは他クラスと違い血の気が多い生徒が在籍しているのらしい。しかし、その中でもアスモデウス、サブノック相手にも凌駕するこの才能は、学園内でもトップレベルにランクインしている。
だが、そんなことを知る由もないアモンは自由気ままに平然と生活しては授業や教師への素行がかなり悪い。それが教師陣にとって不服なのらしい。職員室で、「もしアモンがやる気を出したら」と、そう考えるのがブームな時もあったらしい。
次第に、アモンとイポスが一定の距離を開け、
互いに目の前にいる相手を見ては、
瞳をそらさない時間が流れた。
「私は周りと違って、“構築型”だから、
しっかりと、私に合う方法、教えてくださいよ?」
「……」
そして、次にイポスは、
以前から展開されているアモンの足元をじっと見つめた。
(1年生にして、無口頭魔術を使えるのか。)
展開された二重の円形の魔法陣。
どれも教科書では記載されたことがないであろう構成に、見たことがない記号を用いられている。オリジナルなのだろうか。
これからどんな魔術が展開されるかも不明瞭な中で、
戦術学を担当のイポスは思わず笑みが溢れそうになった。
(やはり、この子。
____かなり手強そうだ。)
その思考が回る、その瞬間。
「……イポス先生」
「あ、はい!」
イポスが反射的に背筋を伸ばし、
自然と振り向いた先には、
ナベリウス・カルエゴの姿があった。
「手加減は不要です。」
一瞬だけ体が強張るが、
言い放たれた言葉を、即座に理解する。
「……承知しました」
そのやり取りと同時に空気が変わる。
(……ほう?)
それは“授業”ではなく、
ほとんど“試験”に近いものへと。
その空気感を肌で感じたアモンが愉しそうに笑った。
「きゃは」
軽い声でありながらも、女の足元に展開されている魔法陣は次第にゆっくりと範囲を拡大している。
「優しくしてくれないってことだよね?」
問いかけるようでいて、質問でもない。
ただの事実確認。
ただそれだけなのに、他生徒からは感じられない空気感。そして、今からでも破壊可能という強者の眼差し。
「……ああ」
イポスが頷く。
その視線はすでに、
“教師”ではなく、”分析者”のものに変わっていた。
あのカルエゴが直談判でアモンに手合わせするように招集し、そして、1人の生徒に対して3名の特別教師を付けた。
さすがに教師統括のダリも1人の生徒に対して「過保護過ぎないか」と意見を述べていたが、まだ、サシで戦う前なのに分かるこの戦闘に対する気質にイポスは圧に押されていた。
__コレを生徒のままにしておくのは勿体ない。
そう思考を凝らしていた。
「君の戦い方を、正確に把握する。
”壊れない範囲で”だが」
「うわぁ~~、壊れる前提なんだ」
くすり、とアモンが嘲笑うように微笑んだ。
「先生、安心してよ〜。
____壊れる時は、自分で選ぶから」
その言葉を聞いてもなお、カルエゴは何も言わなかった。それはある意味、【その言葉を否定しない】という認識にも捉えられた。
「先生が、私の能力をどこまで聞いてるか知らないけどさ〜」
アモンは、軽く首を傾げる。
「――私、負ける気しないよ?」
その言葉に、イポス・イチョウはわずかに目を細めた。
これハッタリではなく事実。
長年の経験がそう告げていた。
「強気でいられるのも、今のうちじゃないかな」
静かな返答であるが、だがその声には、
明確な“測る意思”が込められていた。
興味なさそうに肩をすくめるアモンであるが、
イポスに向けて言い放った。
「そ……なら、私に勝てたら、求婚してあげる」
「は!?」
(この生徒は今何を言った?
生徒が教師相手に求婚だと?)
戦闘意識が一瞬だけ、逸れたその瞬間、
アモンの背後に、五つの魔法陣が浮かび上がる。
重なるように、しかしそれでいて
それぞれが独立して回転する異質な構造。
(なんだこの構成は……)
色やマークの異なる五つの魔法陣が各々で独立して回転しており、その回転に関しても、右回転もあれば、速度を落として左回転しているのも存在している。
どんな理論でなにが構築されているのか。
そして、何が発動条件なのか未開拓な中で、
魔法陣は徐々に存在感を高めている。
そして、アモンが前に腕を振り下ろしたと同時に、
イポスは即座に判断し、迎撃のために構えるはずだった。
「……?」
動かない。
地面に縫い付けられたように、一歩も動かない。
せめて、”招集”をと思えど、
振り下ろしている腕も動かせず、無の状況が続いた。
「……は?」
初めて、生徒相手に明確な困惑が浮かんだ。
(なぜ、魔法が使えない。
なぜ、手足が動かない…!?)
「先生、ダメだよ〜」
すぐ背後から声が聞こえる。
「生徒相手に 気、抜いちゃさ〜」
イポスは振り返るよりも早く、
距離を詰められていることに察した。
「しかもさ〜、”見かけ”だけの魔法陣で、
あそこまで驚くとか…まじ笑える」
五つの魔法陣は、未だ背後で回っている。
これほど強い存在感を放っているのに、“何もしていない”。
囮。
要するに、
視線誘導。
その間に、相手の“動作を止める”?
学園に入学して間もない生徒が、
ここまで教師相手に太刀打ち出来ている??
なぜ、なぜ一体ここまで。
「……」
そして、イポスは次第に理解する事になる。
(…思考ごと、誘導された……?)
「まじ、生徒を舐め腐ってるよな〜」
そして、その一言で空気が、冷えた。
沈黙が流れたが、次の瞬間。
イポスの口元が、わずかに緩んだ。
「……なるほど。今のは、見事だ」
その言葉で空気が変わった。
先程まで嘲笑っていたアモンも黙ってイポスの言葉に耳を傾けていた。それでも魔法陣の動きは作動しており、存在感も魔力反応も、先程までと何も変わらないままであった。
(この子は、抑圧しているだけ)
「君は“攻撃していない”。
だが、“負けさせる”ことはできる」
その言葉を聞いた瞬間、
アモンの表情が、わずかに揺れた。
「ふーん。ちゃんと見れるじゃん〜〜」
そして、アモンは一歩、イポスへ近づく。
「イポス・イチョウ先生。
これから会う回数も増えるだろうし、
改めて自己紹介を。
___私の名前はアモン・リアス。
アブノーマルクラスの中で
一番“勝ち方を選べる”悪魔だ 。
入間くん達と違って、
目の前の敵に”情を送る”なんて
生ぬるい概念ないから、そこん所よろしく」
彼女は、物事を選ばせるセレクターであった。
◾︎前日譚
それは収穫祭に向けて各生徒に向けて特別教師の割り振りをしていた最中であった。アブノーマルクラス生徒一覧の資料を見て、カルエゴが目を止めたのは、【アモン・リアス】という女悪魔であった。
そこに書かれている内容は、
どれも一見すると“軽い”内容であった。
――出会った悪魔に対して頻繁に求婚行為を行う
――興味を失えば即座に関係を破棄
――感情の振れ幅が極端(0か100)
「くだらん。」
小さく吐いた言葉であるが、
資料の表面だけ見ればただの軽薄な問題児。
だが、カルエゴの視線はその下の一文で止まっていた。
――魔法陣による魔術発動を常用
悪魔における魔術発動は、
基本的に”単発”か、”媒体”を通してでの発動が主である。
特別に使用している訳でもなく、
常用にしている魔界では稀な人材。
魔法陣ともなると、
・発動までに時間がかかる。
・構築に精密さを要する。
・実践向きではない。
・隠密に欠ける。
様々なデメリットが挙げられる中で、
この女は攻撃・防御・回避など、全てを魔法陣で行う。
あのマイペースで面倒くさがり屋な女が、
わざわざ手間のかかることをして、
意図的に全魔法 統一して魔法陣での展開にしている。
その点において、カルエゴは不思議で仕方なかった。
__合理性にかけている。
近くを通りかかった魔術基礎を担当のモモノキへカルエゴが声をかける。アモンが授業として魔術基礎を受講していることは把握していたが、コイツにとっては基礎すぎて欠伸が出るほどつまらないはずだ。
彼女が好むのは、自分が楽になる方法。
1年生で習得する技では今のアイツに何も楽にはなれないはずだ。そう認識していた。
「モモノキ先生」
「は、はい!!」
「魔術基礎の授業で、アモン・リアスについて
何か知っていることがあれば情報提供を願います」
「!…アモンさんですか。」
「何か?」
「いいえ。
前から不思議だったことがありまして…
1年生で覚える簡易魔法があると思うのですが、
チェルーシルやラファイア などの基礎魔術が、
”全て魔法陣を通して発動している”んですよね」
「は?」
「しかも、無駄がないんです。
授業態度は……正直、良いとは言えませんが
でも、教えたことはその場で再現できるんです
だから最初は、影で努力しているのかと……」
(……違うな)
その言葉を聞いたカルエゴは、
改めて考えさせられた。
これは努力ではなく、
魔法陣へ展開する形で理解しているのだと。
「モモノキ先生」
「はい!」
「報告感謝します」
「は、はぁい!!」
これは応用ではなく、意図的に魔法陣へ置き換えている。
魔法陣を魔術発動の手法の1つではなく、前提として取り扱っている。魔法陣は可視化されるため、敵からも読まれやすく対策もされやすい。
例え、罠として設置することができても、
構築の難易度が高く少しでもズレがあれば、
失敗に落ちいたり、
中には自分目掛けて被爆する時だってある。
なのに、コイツはわざわざ高難易度である
魔法陣へ出力を変えている。
____周りに合わせず、常識にとらわれない姿。
「やはり、面倒な個体だ。」
カルエゴの中で、違和感が確信へ変わった。
■後日譚
そのたった一人の特別授業のために招集された、三名の教師がいる。過去を遡っても異例中の異例の事態に、自然と話題はその生徒へと向く。
「イポス、あの子と手合わせしたんだって?」
軽い調子で話を振るのは、ムルムル・ツムル。
その声音は穏やかだが、興味は隠せていない。
「で、どうだった?」
問われたイポス・イチョウは、
少しだけ考える素振りを見せてから口を開く。
「……確かに、魔法陣を使用して魔術を発動していた」
淡々とした報告であるが、
一息置いて合わせて情報共有をする。
「また、フェイクの魔法陣も混在していた」
「へえ…ブラフか」
ツムルが楽しげに目を細める。
「それだけなら、問題はない」
イポスの声が、わずかに低くなる。
「構造も、理論も、一定だった。
だが、”なぜそう展開されるのか”が分からない」
その発言を聞いた瞬間、空気が、ほんの少しだけ変わった。ランク7に至るバビルス教師でさえ解析が難しい魔術操作に魔力反応。これは、魔法陣で使用しているからなのか。
「……やっぱり、魔法陣使う子なんだ」
腕を組んだまま呟いたのは、イフリート・ジン・エイトであった。警備教師である彼は、生徒の詳細までは把握していない。だからこそ、その一言には純粋な驚きが滲んでいた。
「そうなんだよ」
イポスが話を続ける。
「足元に、二重の魔法陣が展開されていた」
「二重か」
ツムルが、くすりと笑い、
「やるねぇ」
イフリートも関心した。
「いや、問題はそこじゃない」
即座に否定。
そして、イポスの目が細くなる。
「更に、追加で
動きの異なる五つの魔法陣を背後に展開していた」
「ほう」
自然とイフリートの眉が上がった。
「だが、その全てが“フェイク”だった」
沈黙が一瞬流れ、空気が止まった。
イポスの言葉を聞いてムルムルが素で聞き返した。
「……は?……全部?」
「全部だ」
その反応を見てやはり自分の思考は周りと一致していた。周りと常識が同じであったことをイポスは安心する羽目になる。フェイクなら一つでも十分なのに、構成が異なる分を5つも?
「え、足元の魔法陣は?」
「それも、フェイクだな」
「…うわお、意味が分からん」
率直な感想。
だが、それはこの場の全員の認識でもあった。
「極めつけは、”本命”の魔法陣を、一切見せなかった」
静寂。
そして、ツムルの笑みが、少しだけ深くなる。
「……それ」
ぽつりと呟く。
「もう“魔術”じゃなくない?」
「だよな」
イポスが短く同意する。
「カルエゴ卿が生徒相手なのに対し、
“手加減なしでいい”と許可した理由が分かった気がする」
その言葉に、今度はイフリートが口を開く。
「つまり、“手加減でやられる相手じゃない”ってことか」
「おそらく」
イポスが頷く。
「なら、試してみよう」
炎のような魔力が、ほんの僅かに揺らいだ。
「倒せるかどうか」
その一言で、空気が切り替わる。
「いいねぇ」
ツムルは、それを見て楽しそうに笑った。
「壊れるか、壊せるか。
ちょうど知りたかったところだよ」
静かに、物騒な言葉を落とした。
「でも、その子のランクは”2”らしいよ」
「は!?」
その言葉にイフリートは更に目を見開かせて驚いた。
ランク2の生徒にあのカルエゴが3名の特別教師をつけ、更には魔法陣で魔術を展開する高度なテクニックを持っている生徒だ。そんなレベルの高い悪魔が、ランク2で収まるわけがない。
「え、それどこ情報?」
「カルエゴ先生から直接」
イポスの言葉に、2人は絶句した。
アブノーマルクラスはただでさえ2人組に1人の教師を付けて特訓させている。あのアブノーマルクラスのトラブルメーカーである入間も元々はロビンが一人で教えるはずだった。
それなのに、なぜかあのカルエゴが
ここまでして、1人の生徒に”教育”をしようとしている。
「初めは、監視や管理かなと思ったんだけどな。
わざわざ、”育てる”つもりで動いているみたいだ。」
「……面倒なことになりそう」
そうムルムルは呟いた。
「もうなってるだろ」
すかさずイフリートは言い返した。
最後に、3名は再びあの日の事を思い出していた。
突然、カルエゴから呼び出された3名。そして、1人の生徒のプロフィールが記載された資料を各々に渡しては、カルエゴはこう言い放った。
__これから、とある生徒を育成してください。
__それと同時に、先生方にも課題を出します。
__”物事を選ばせるセレクター”に、
__【敗北】を選ばせるように。
↓↓↓
需要があるか分からないが設定。
◾︎ アモン・リアス
ランク:2
魔術に特化している名門・アモン家に誕生した一人娘。しかし、なぜかアブノーマルクラス入りになったため、親子揃って頭を抱える。
気まぐれで惚れやすく、出会った相手に軽率に求婚しては、興味を失えばあっさりと関係を破棄する奔放な性格を持つ。一方で他者との距離感には明確な一線を引いており、過度に踏み込むことはない、物事の線引きがしっかりしているタイプ。
魔術はすべて魔法陣によって発動する特異なスタイル。
発動に時間を要する反面、構築精度は極めて高く、単純な攻撃では破壊が困難。また複数のフェイク魔法陣を併用することで、戦闘における認識を攪乱することが得意。
戦闘評価に対して実際の勝敗結果に乖離が見られることから、戦いにおいて“結果を選択している”可能性が指摘されており、教師陣からは要観察対象とされている。彼女にとって魔法陣とは、戦闘手段ではなく「選択」を行うための基盤。
教師曰く、「こんな生徒がいてたまるか。」
◾︎ナベリウス・カルエゴ
ランク:8
アブノーマルクラス担任。陰湿かつ極悪で有名な教師で、他クラスからは恐れられている。しかし、当のクラスは問題児だらけで統制が取れず、日々振り回されている苦労人でもある。休もうとすれば、とある生徒に使い魔召喚されるし、
ケルベロスは他人に懐くなどと、かなり不憫な一面も多い。
現在、アモン・リアスの特別授業のために3名の臨時講師を招集。その影響で、他教師からの苦情や相談が増え、当の本人は呑気に居眠りをしているため、ため息の回数が増加中。
日々求婚してくるアモンには好意はないが、魔術の才能だけは認めており、アブノーマルクラス内でも特に警戒している。学園内で暴れている輩や暴れ足りない戦闘狂の相手をアモン1人にさせている。
また、最近アモンからサボテンを贈られ、自室の棚に保管している。
◾︎イポス・イチョウ
ランク:7
戦術学教師。理論と実践を重んじる現実主義者。生徒の“戦い方”を見抜き、最適な運用へ導く指導に長けている。温厚で面倒見は良いが、戦闘になると容赦はない。勝敗だけでなく“過程”や“選択”を重視するタイプ。
アモン・リアスの特別講師の一人。
彼女の戦闘を分析した結果、「彼女が抱く勝ち方ではないと勝利を掴めない」特異性に気づく。その性質に強い興味を持ちつつも、“本人が納得しなければ敗北にならない”点を面倒だと感じている。
アモンに対して、今後の成長が楽しみだと思っている。
なお、魔術操作や魔術理解に特化しているため、魔術が不安定な生徒の解決策や、改善策を生徒目線からのアドバイスをもらいに行くこともしばしば見受けられる。
更に、機嫌が悪い時のカルエゴとの間の緩和剤になる時もあるため、非常に役に立っているらしい。
◾︎ ムルムル・ツムル
ランク:7
精神医学教師。悪魔の中では他人に優しく寄り添えるタイプの穏やかな悪魔。生徒の感情や思考の癖を読み解くことに長けているが、己の感情の起伏は激しい。たまに息切れしてる。他人に基本的に強引に干渉は少ないが、興味を持った対象には深く踏み込む。楽しげに見えて、核心を突く言葉を選ぶタイプ。
アモン・リアスの特別講師の一人。
後日、家系能力の【鑑定色】により彼女の内面に“焦操”の感情を確認し、強い関心を抱く。表向きは性格改善だが、裏では“本質の解明”を目的としている。
アモンに対して、あの子がもっと真面目に授業受けたり、何事にもやる気を出していたら、学校の秩序が変動すると色々勘づいている。もし今後本人のやる気が出たら、生徒会師団と同じ存在になりうるため、どのように性格改善しようか頭を抱える事にかる。
また、いつの間にかアクドルのアクスタやポスターを物々交換するほど仲良しになる。
◾︎ イフリート・ジン・エイト
ランク:7
警備教師。近接戦闘と実戦対応を担当する現場主義者。理屈よりも“通用するかどうか”を重視するタイプ。奔放的な性格だが、戦闘における観察眼は鋭い。相手の弱点や前提を見抜き、容赦なく崩す。
アモン・リアスの特別講師の一人。
魔法陣に依存した戦闘スタイルを問題視し、“前提そのものを破壊する”訓練を実施。その結果、彼女を一度完全に崩壊させるが、それすらも成長の起点として楽しんでいる。
アモンに対して、
魔法陣で魔術発動している生徒を初めて会ったため当時は驚愕する羽目になった。しかし、その後、学園内の不審な魔力反応や、魔術使用があれば直ぐに連絡が届くため非常に業務に役立っている。後日、教師統括のダリに直談判に行くなんて未来もある。実は、特別教師の中で、1番アモンに色んな感情を渦巻く。
続きは、ロノウェが紙吹雪にしました。
























