SIDE:フェルディナンド
ローゼマインとヴィルフリートのお披露目の日が近づいてきたある日。
「ヴィルフリート様の教育はその後順調ですか?」
「半年以上前に、ジルヴェスターとフロレンツィア様に教育が大幅に遅れていることを伝えて、危機感は煽っておいたが、ヴィルフリートが変わったという話は聞こえてこないな。むしろ聞こえてくるのは今日も逃げ出したらしいといった話ばかりだ…」
「それでは、お披露目もかなり厳しそうですね…」
「ああ、直前に演奏する上級貴族と同程度の演奏ができれば御の字というところだろうな」
「だから、少しでも見劣りしないよう領主の子ではないわたしの演奏順が最後なのですね…」
「ああ、一応私の養女ではなく、公式ではジルヴェスターの養女ということになっているしな…」
「なるほど……当日を迎えるのが怖いですね……」
「さもありなん。無様な演奏をすれば、即廃嫡もあるのだが、ジルヴェスターにもヴィルフリートにも危機感が無さすぎるのが問題だ」
SIDE:ローゼマイン
「新たなるエーレンフェストの子を迎えよ」
フェルディナンド様の声が響き、大広間の扉が開かれ、ヴィルフリート様を先頭に入場する。
原作みたいにヴィルフリート様はエスコートしてくれないし、歩くのが早すぎて、息が苦しくなってくる。
__ゔぅ、優雅に歩きたかったけど、何とか気を失わずに着いていくので精一杯だったよ。明らかにヴィルフリート様の教育不足な様子を見てフェルディナンド様の眉間に皺ができているね…。貴族の笑顔を貼り付けてるけど、明らかに怒ってるよぉ。
まずフェルディナンド様によって4名の洗礼式が執り行われ、その後にお披露目が行われた。下級貴族のフィリーネから順番に舞台に上がり、フェシュピールの演奏を行う。
__小説で読んだ通り、フィリーネもローデリヒもあまり上手ではないね…。下級貴族や中級貴族ならこれくらいでも許されるレベルってことなんかぁ。多分初めてフェシュピールを触って2~3日目の麗乃と同程度。麗乃はピアノ経験があったし、上質の楽器を与えられていたとはいえ、想像していた以上にレベルが低いかも…。
そして、段々と身分が上がるにつれて、達者になっていくのも原作通りだった。
__フェシュピールの音の響きからして全然違うし、グレゴールはかなり上手やね。教育や楽器の差でここまで変わるもんなんやなぁ。
さすが上級貴族といえるグレゴールの演奏が終わり、ヴィルフリート様の番になった。
ビョイ~ン
あまりに間の抜けた1音目が鳴った瞬間、フェルディナンド様の眉間に渓谷ができた。
__これは酷い……酷すぎる……。最も教育費をかけられて、最高級の楽器を与えられているはずの領主候補生の演奏が、下級貴族のフィリーネ以下とかありえへんやろ…。わたしが手を貸さないだけで、原作でグレゴールより少し下手だけど、見劣りはしない程度と言われるくらいには成長できる素質はあったのはずやに、原作よりも早い時期に教育遅れを教えてこれとか、ジルヴェスター様もフロレンツィア様も何やってたん…。集まった貴族たちの顔も固まってるし、さすがのジルヴェスター様も頭抱えちゃってるし、これは廃嫡決定かなぁ…。
ヴィルフリート様の演奏が尾を引いていたためか、フェルディナンド様が事前に阻止してくれていたからか、小説にあったジルヴェスター様がわたしを聖女として紹介するくだりはなく、何とも言えない恐ろしい空気の中、わたしの演奏に移った。
演奏するのは、火の神ライデンシャフトに捧げる歌だが、例のアニメソングを編曲したものではなく、フェルディナンド様がわたしにフェシュピールを与えてくれた日にお手本として弾いてくれた思い出の曲だ。
__新曲を披露するのはフェルディナンド様とのコンサートまで行わないことにしたんよね。フェルディナンド様も自分だけが新曲を演奏できるという優越感に浸ってご機嫌やし、わたしは極力目立ちたくないし…。
手首に着けたフェルディナンド様にもらった祝福防止のお守りに軽く手を添えて、直前の演奏で乱れた心を落ち着かせてから、演奏を始める。
ピィーン~♪
「青く高い空……」
直前が酷すぎたのもあって、極力目立たないように、グレゴールより少し上手に聞こえるくらいに調整して演奏したのに、演奏後には割れんばかりの拍手に包まれた。
__観客が複雑そうな顔をしていたのは、同じ領主候補生のはずなのに……という動揺?やっとまともな領主候補生が現れたという安堵?……なのかなぁ…。
お披露目➝授与式→子供部屋というのが従来の流れだが、ヴィルフリート様の大失敗があり、わたし達領主一族は授与式の後、緊急会議を行うことになった。議題はもちろんヴィルフリート様の処遇だ。
「ヴィルフリート、さすがに私でもあんな演奏をした其方を庇うことはできない。其方を廃嫡とする」
どうやら、ライゼガング系貴族から、わたしの洗礼式での殺害未遂事件と今回のお披露目失敗のダブルコンボで、「即廃嫡にしろ!」「あんな次期領主などありえない!」という声があまりにも大きく、「大袈裟だ」「子供なのに可哀想だろう」が口癖だったジルヴェスター様もその声に抗うことはできなかったらしい。
フロレンツィア様も無表情だけど完全に諦めたという様子だ。
ヴィルフリート様(廃嫡になるならこれからは呼び捨てでいいのか…)も、いつもは優しい両親に見放されたことで、事の大きさをやっと理解したのか、落ち込んでいる様子だ。
「父上、母上、フェシュピールが上手く弾けなかっただけで廃嫡など厳しすぎます!」
__あっ、ちゃんと理解してなかった……
「ヴィルフリート、半年以上も前からお披露目で失敗しないようフェシュピールをよく練習しておくようにと言っていただろう。今日の演奏は半年前から全く上達していなかった。
それに、廃嫡は今日のことだけが原因ではない。其方はローゼマインの洗礼式でローゼマインに大怪我をさせた。その件でライゼガング系貴族は激怒していると其方にも伝えただろう。その上でお披露目での失態が重なり、もうアウブである私でも庇いきれないのだ」
__ジルヴェスター様も言っただけで、ちゃんと確認していなかったんやね……。
「……あの……廃嫡になると私はどうなるのでしょうか?」
「受け入れ先は今から探すが、今日の様子だとライゼガング系貴族家に受け入れてもらえる望みは薄いだろう。おそらく、ヴェローニカ派かフロレンツィア派貴族の養子になる。其方はもう領主候補生ではなくなるということだ。シャルロッテやメルヒオール、ローゼマインに仕える身分となる。自分がしでかしたことの意味をよく考えるように…」
「そんな……」
__ヴィルフリート、今になって後悔して泣いても無駄やよ。むしろ白の塔侵入のトリプルコンボになってないだけマシ。
今ならまだギリギリ受け入れ先が見つかるやろうから、早めに廃嫡になって良かったんやないかなぁとか思ってしまうわたしは心が冷たいんかなぁ…。
その後、ヴィルフリートはフロレンツィア様がフレーベルタークから連れてきた側近(上級騎士)に引き取られたのだった。
























本当に無能な第一婦人とその夫も息子も!!だけど第一婦人の罰ないのはへんでしょうねぇ!!