Novel1 years ago · 4.4k chars · 1 pages

既読と未読

こんぺいとうの妖精こんぺいとうの妖精

一向に既読のつかないLINEの話

翌日、仕事に向かう高明くんを見送って私も活動を始めたわけだけれど、何だかものすごくバタバタした。役所に行ったり引っ越し前に手配していた荷物の荷解きをしたり、やることは山ほどあったからだ。
急な引っ越しって、どうしてこう慌ただしいのだろう。いや、まあ、今回は自分の寝室を整えればいいだけだからそれでも普通よりはかなり楽なはずなのに。疲れたけど、今日中にはネットで色々足りないもの買っちゃわなきゃ。ぐったりとソファに寝そべってスマホから通販サイトを眺めていると、ポコンとLINEの通知音が響いた。

『久しぶり。ずっと連絡してなくてごめんね。ちょっとバタバタしてて』

由衣ちゃんからだ。思ったより早く返事がきた。よかった、とホッと息を吐く。この感じだと、連絡がなかったのはただただ本当に忙しかったのかもしれない。そんなことを考えているうちに、もう1つ吹き出しが増えた。

『私も結月に会いたいし、落ち着いたらまた連絡する』

『了解』と、スタンプを送る。社交辞令の可能性もあるけれど、「会いたい」のフレーズに思わず頬が緩んでしまった。『私も会いたい!楽しみにしてるね』なんて、当たり障りない返事を送信して、トンと画面をタップする。
トーク一覧の1番上にあるのは、たった今やり取りしたばかりの由衣ちゃんのアイコン。その下に、最近連絡を取った友人達や、色々な公式アカウントなんかの通知。すい、と指を滑らせる。画面を下へ下へとスクロールしていって、ようやく出てきたアイコンの1つを指で叩いてトーク画面を開く。

「やっぱり、既読ついてない……」

はあ、と思わず溜息が出た。最後にメッセージを送ってから、もう数日経っている。けれど、ステータスは送ったときの「未読」のまま。1番新しいものだけじゃなく、もうずっと前から。いつからだったっけ、と何となしにメッセージを遡ってみる。ええと……あ、これかな。結構前だと思ってはいたけれど、何だかんだかなり時間が経ってしまったらしい。

設定しているアカウントの表示名は「ヒロちゃん」。

高明くんの弟、私にとってははとこのヒロちゃん。仮面ヤイバーが大好きで、ヤイバーみたいな正義の味方に憧れていたヒロちゃんは、大学を卒業した後高明くんと同じ警察官になった。けれど何年か前に転職すると知らされて、それ以降は全然連絡が取れなくなってしまった。ヒロちゃんとのトーク画面には、私から送ったメッセージばかりが未読のまま積み重なっている。

『転職先のお仕事どんな感じ? 落ち着いたらまたご飯行こう~』

1番古い未読は、転職したと聞かされて1ヶ月後くらいのこのメッセージ。なかなか返事がないのを珍しいなと思いはしたものの、まあ転職したばかりって忙しいよねとそんなに気にしていなかった。

『元気? 来月のGWってどこか空いてる?気になるお店見つけたから予定合いそうだったら飲みに行きたい!』

それからはきっと忙しいのだろうとしばらく連絡は控えていて、更に1ヶ月後に送ったのがこれ。全然既読がつかなかったから、もしかしたらヒロちゃんのお仕事は連休関係なくてイラッとさせてしまったのかも、なんてちょっと焦った記憶がある。

『ソピッツのライブのチケット譲ってもらった! ヒロちゃん好きだったよね? よかったら一緒に行かない? 東都ドームで9/12の土曜の18:00からだって』

更に数ヶ月後。このあたりから、さすがにちょっとおかしいと思い始めた。まあ、私と一緒にご飯と言うのはヒロちゃんにとってはそんなにテンションが上がらないだろうから、返事が面倒なのもわかる。でも、好きなバンドのライブとなれば話は別だろう。ヒロちゃんなら、絶対行くって言うと思ったのに。

『マーくん結婚するらしいね! しかもあの××ホテルだって! ヒロちゃんは出席できそう? 仕事忙しい?』

そこからは、何となくメッセージが送りにくくなってしまって。親戚の冠婚葬祭に関してとか、最低限の連絡だけに絞るようになった。でも、その間何度かあった結婚式や法事にもヒロちゃんは1度も顔を出さなかった。あの景光くんが欠席の連絡さえないなんて、っておばさん達が不満半分心配半分と言った様子で話していたのを聞いた記憶がある。

『どうしよう。家燃えた』

そして、先日の火事の夜に寝つけなくて不安になってつい送ってしまったメッセージがこれ。数ヶ月ぶりの連絡だし、今見ると自分でももう少しワードチョイスどうにかならなかったのかと思うけれど、すっかり気が動転していてそこまで気が回らなかった。

『たまたま東京に来てた高明くんと会って、高明くんの家に住ませてもらえることになった』
『水曜日に長野に引っ越すことになったよ』

家燃えた、で終わらせるのもどうかと思ったので、一応これに関しては追って報告もした。何と言っても高明くんとヒロちゃんは2人きりの兄弟なわけだし、言っておくべきだろうと思ったから。2人は仲が良いから、高明くんの話題なら反応あるかな、なんてちょっと期待もしていたのだけれど。

「……やっぱりこれ、ブロックされてるのかな……」

さっきより深い溜息が出る。認めたくなかったけれど、薄々その可能性には気付いていた。いくら忙しくても、さすがに「家燃えた」に対して何も反応がないと言うのは考えにくい気がする。「ヤバいね」の一言とか、びっくりした顔のスタンプすらもつかないと言うのは、たぶん……メッセージ自体を見ていないのだ。もしくは、見たけど反応したくないくらい嫌われている。どっちにしても、悲しい。

同い年で、同じ東京に住んでいる親戚。となればやっぱり親しみも湧くもので、友達の多いヒロちゃんにとっては違ったかもしれないけれど、少なくとも私にとってはヒロちゃんは1番仲の良い男の子だった。

私もまだ小さかったので詳細を知ったのはずっと後になってだったけれど、小学校低学年の頃のヒロちゃんは結構大変な状況だったらしい。ヒロちゃんと高明くんのご両親が殺されてしまって────それ自体、当時の私は「事故で亡くなったのだ」とだけ聞かされていた────学校行事で留守にしていた高明くんと違って、ヒロちゃんはその現場に居合わせてしまったのだと言う。そのショックで上手く話せなくなってしまったこともあり、環境を変えるために東京に居る親戚に引き取られた、と言うのがそもそもヒロちゃんが長野を離れた経緯らしかった。
当時の私は────高明くんには今もだと言われそうだけど────能天気でちょっとアホの子だったので、そんな状態のヒロちゃんと会わせるのはやめておいた方がいいと大人達は考えたのだろう。

「ひさしぶりなのに、結月ちゃんふつうに話してくるからびっくりしたよ。ぼく、ちょっとキンチョウしてたのに」

なので、私がまたヒロちゃんに会うようになったのは、ヒロちゃんがすっかり明るさを取り戻してからだった。
幼稚園の頃は高明くんを巡ってよくケンカしていたけれど、東京にはそもそも取り合う高明くんが居ない。プリピュアか仮面ヤイバーかで争うこともなくなった私達は、たまに会えば仲良くポケモンで遊べるようになった。
お互い携帯を持つようになってからはよくメールや電話で連絡を取っていたし、中学生になって1人で電車移動できるようになってからは結構会っていたと思う。何かあれば相談できる頼れる男友達、と言うのが私にとってのヒロちゃんだった。

からの、LINEブロック(たぶん)と言う現状である。泣きそう。

それまでは結構頻繁にやり取りしていたし、「さっき可愛い野良猫見つけたー」みたいな些細なことでも返事が来ていたから、たぶん未読スルーが始まる直前あたりに私が何かヒロちゃんに「こいつとの付き合いはもう無理だ」と思われるようなことをやらかしたのだろう。
確かに、まあ、ヒロちゃんが優しいのをいいことに結構甘えていた自覚はある。学生時代バイト先のお客さんに気に入られて困ったときは迎えに来てもらったり、付き合っていた人がちょっとストーカーっぽくなってしまったとき助けてもらったり、彼氏に振られたときは愚痴に付き合ってもらったり。新しい家具の組み立てとか、バレンタインのお菓子作りを手伝ってもらったりとか……うん、ちょっと思い出しただけでも結構色々やってるな。決定的な何かがあったと言うよりは、長年の積み重ねで限界が来たのかもしれない。ヒロちゃんは優しいから「いいよ」って言ってくれたけど、内心ではうんざりしていたのかも。でも、できればいきなりブロックする前に何か言ってほしかった……いや、そんなのは私のわがままかもしれない。やんわり言ってもらっていたのに気付かなかった可能性もありそうだし。
さすがに考えすぎな気もするけれど、もしかしたら、親戚の集まりに来ないのも私が居るせいだろうか? あの温厚で好青年を絵に描いたようなヒロちゃんをそこまで怒らせたなんて、親戚中から「一体何をしたんだ」とざわつかれそうだ。と言うか、高明くんに知られたらたぶんまずい。大事な弟にそこまで嫌われている女とか、「やっぱり同居はやめにしましょう」なんて言われてもおかしくない。そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。

「高明くん。おかえりなさーい……」
「……私の顔に何かついていますか?」
「ううん。何でもないの」

まじまじと見すぎたせいか、怪訝そうな表情をする高明くんに笑って誤魔化す。
高明くんとヒロちゃんはきっと今も連絡を取っているだろうし、事情を打ち明けて高明くんに仲介してもらう、と言うのもできなくはないだろうけれど……あの優しいヒロちゃんがLINEをブロックするなんて、たぶん私はよっぽどのことをやらかしたのだ。原因がよくわかってないまま謝ったところで逆効果だろうし、高明くんに理由を聞いてもらうと言うのも違う気がする。とりあえず、何かどうしても連絡を取る必要があるときは代わりに高明くんに連絡してもらおう……。
部屋に向かう高明くんの背中を見送って、手元のスマホを操作した。もう1度ヒロちゃんのトーク画面を開き直して、『引っ越し無事に終わったよ』とメッセージを打つ。たぶん今回も既読はつかないだろうけれど、やっぱり何となくヒロちゃんには報告しておきたい気がしたから。もしかしたらそのうちヒロちゃんの気が変わってブロック解除してくれる可能性もゼロではないし。……そんな日が来ればいいのだけれど。

「何が原因だったのかなあ……」

ヒロちゃんが許してくれるかどうかはわからないけど、そのときはちゃんとヒロちゃんの話を聞いて、誠心誠意謝ろう。

— End —

Comments 2

星羅10 个月前
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多華子1 年前
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Sakuria
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