「変だと思ったんだ。お兄さん、お姉さんが火事に巻き込まれたかもってあんなに心配してたのに、1度もスマホを見ないんだもん。もしかしたら、お姉さんから『避難してるから大丈夫』って連絡が来てるかもしれないのに。……まるで、お姉さんから連絡が来るはずないって初めからわかってたみたいだね?」
そこからは、怒涛の展開だった。コナンくんと、「阿笠博士」と呼ばれていた子供達の保護者によっての推理ショー。そして、彼らによって私にとって驚きの事実がどんどん明らかにされていった。
一連の放火事件の犯人はトモくんで、それは今日の火事の予行演習とカモフラージュを兼ねていたこと。確かに、私がこうして火事に巻き込まれなかったからこそ、あのスマホが私のものだと証言することができたけれど、そうでなければさっき話に出ていたように放火犯がどこかから投げ込んだと言うことになっていたのかもしれない。その場合、まさか自宅を放火するわけはないとトモくんは容疑から外れていたのだろう。
信じがたいことだけれど、どうやら知らないうちに私は恋人から命を狙われていたらしい。
「くそ!」
トモくんは勿論否定したけれど、動かぬ証拠も見つかってしまった。今回、火事の原因となった私のスマホを爆発させるための遠隔装置。指紋は拭きとることができても、犯人なら警察に発見されることを考えると現場の近くに捨てるのは躊躇うものだろう。これまでは後日じっくり処分すればよかったけれど、トモくんが犯人なら今日はまだ処分する時間がなかったはずだと言う阿笠さんの推理通り。小さなリモコンのようなものが、トモくんの履いている靴下の中から出て来たのだ。言い逃れできないと観念したトモくんは、ワナワナと震えて私を睨んだ。
「結月!お前、今日はハーブティーを飲まなかったのか!?」
「えっ? の、飲んでない。ポット倒してこぼしちゃったから……」
「ああ、くそ、全くお前らしいよな! どうして、今日に限って!」
頭を抱えるトモくんに、私は戸惑った。どうして今、急にハーブティーの話が出てくるのだろう? トモくんが私に掴みかかることを警戒したのか、佐藤刑事が私を庇うように1歩前に出る。わけがわからずオロオロと視線を彷徨わせていると、コナンくんが静かに言った。
「ハーブティーのポットに、睡眠薬を入れてたんだよね。ここ1ヶ月、ずっと。ローズヒップを使ってるハーブティーは、酸味があって少しくらい味が変わってても気付きにくいから」
ああ、それでここのところやけに眠かったのか、とどこか他人事のようにそう思う。確かに、いつも夜のうちにポットに淹れて寝ている間に放置して冷ましていたから、一緒に住んでいるトモくんなら睡眠薬を入れるのも簡単だったはずだ。私が淹れ忘れていると、トモくんが淹れておいてくれることさえあった。優しいなあ、なんて嬉しく思っていたのだけれど。
「目暮警部達の前で、『結月さんは仕事で行き詰って睡眠薬を飲んでた』なんて言ったのも、わざとだよね? 結月さんの死体から睡眠薬が検出されたとしても、自分が疑われないように」
なるほど。几帳面なトモくんらしいと言うか、以前から周到に準備していたのだろう。私が眠っている間に火事が起きるように、あらかじめ睡眠薬の効き目も調べていたのだ。考えたくないけれど、もしかしたらハーブティーを買ってきてくれたのさえ、このためだったのかもしれない。
結果的に私にとっては幸運だったけれど、トモくんの計画にとっては、うっかりでハーブティーを飲み損ねて、しかも決行するその日そのタイミングでコンビニに行ってしまうなんて言うのは、まるっきりイレギュラーだったのだろう。理屈として、頭ではそう理解できるけれど。
「な、なんで……私、そんなに嫌われてたの……?」
ただ別れるだけじゃ足りずに、息の根を止めなければ気が済まないほど……?
それなりに長い付き合いだし、しっかり者で几帳面なトモくんと、うっかり者で大雑把な私とは確かにちょくちょく衝突もあった。でも、ここ最近で大きなケンカをした記憶はない。この間、ちまかわのふろく目当てにゼクシィを買ってたのが結婚の圧をかけられてるみたいでウザかったとか……? でも、それだけで、そんなに殺意を膨らませるほど……? 泣きそうになっていると、コナン君がこっちを振り向いた。
「単に結月さんを殺したかっただけなら、わざわざ自分も住んでる部屋を火事にする必要はないよね。たぶん……火事にすることで、消したかったんだと思う。結月さんと、結月さんに見られた何かを」
「何か心当たりはない?」とコナン君が私に問いかける。見つかったら困るもの。燃やして証拠隠滅してしまおうとしたと言うことは、きっと何か形のあるものだろう。しかも、トモくんが簡単には見つけられないように、どこかにこっそり隠してしまえるような大きさのもの。
「うーん……?」
わからないと首を傾げた私に、コナンくんが「ハハ……」と苦笑してみせた。しかし、本当に心当たりがないのだ。答えを求めてトモくんへと視線を向けたけれど、トモくんは悔しそうに眉を顰めたままで、何も話そうとはしなかった。ポン、と目暮警部がトモくんの肩を叩く。
「詳しい話は、署でお伺いしましょうか」
そんな言葉にトモくんは項垂れて手錠をかけられ、パトカーに乗せられていった。
消防士さんや佐藤刑事が被害の状況やこれからのことに関して色々と説明をしてくれていたけれど、私の頭は完全にキャパシティオーバーになってしまっていて、ほとんど頭に入っていなかった。
部屋が火事になった上、その犯人は彼氏で、しかもその火事は私の命を狙ってのものだった。おまけに、動機は私には全く身に覚えのないもので。あまりにも、踏んだり蹴ったりだ。
走り去るパトカーを見送って呆然とする私に、同じ階に住んでいるお姉さんが同情したのか今晩家に泊まっていいと声をかけてくれた。さすがに火事になった部屋に帰るわけにもいかないので、願ってもいない申し出だ。人の温かさが染みて、うっかり涙が滲みそうになる。
部屋に置いてあったものがどうなったかとか、明日以降寝る場所はどうするかとか、仕事のこととか、考えなければいけないことは山ほどあるのはわかっているけれど、今はもう何も考えたくない。
「ショックだったでしょうけど……あなたは悪くないんだもの。この町ではよくあることだし、早く忘れた方がいいわ」
そんな慰めの言葉に、私は曖昧に微笑むことしかできなかった。未遂で終わったとは言え、こんな体験、そうそう忘れられないと思う。


























