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blue

色彩色彩

雨が苦手な月山さんと、雨が苦手では無い鈴木さんがいます 吸血鬼の弱点が雨と書かれた文献が割とあるけど2人はどう過ごすのか(家でまったりしそうな気配)を感じて書いた話 blue(ブルー):青・憂鬱


雨の日は、陽の光に弱い吸血鬼にとってありがたい天気のはずなんだけど。
昔から、外に出るのがなんだか怠く感じる。
せっかく陽が出てないんだから、安売りしてる店に日用品の買い出し行ったりとかしたいのに、どうにも気が向かない。
それだけなら、まだ良いんだけど……。
「元四郎、今日も泊まって行くのか?」
「悪い、隆ノ介。迷惑ならもう帰るぜ」
数日前からずっと雨が降り止まなくて、つい居着いちまってる状態だ。
「誰もそんなことは言っていないだろう。しかし調子が出ない様子なのは気になるな」
「え、そんな風に見えてんのか?」
「自覚が無いとは……。将棋に向かう時の覇気が、ここ数日はまるで感じられんぞ」
うーん、そこまで自分に影響が出てるとは思わなかった。
外に出なければ平気だと思ってたし、大抵のことは将棋で忘れられるからなあ。
「ふむ、顔色はそこまで悪くないようだが今は少し休め。ちゃんとベッドでな」
「この部屋で休むじゃダメなのかよ」
「駄々を捏ねるな。寝具へと身体を横にするだけでも回復の度合いは随分と違うぞ」
普段から身体を横にする時なんてのは対局の前と後ぐらいだし、それに──。
「1人だと寂しいだろ」
静まった空間で孤独に将棋を指す過ごし方は好きだけど、今は1人で過ごすのが凄く不安で心細い。
こういう感情を覚えるのも、雨の所為なんだろうか。
「…………いいか、元四郎。この際だから忠告してやろう。それは添い寝が欲しいと言ってるも同然だぞ」
「は? ……いや違うし! そういう意味じゃねえよ!」
独りで居たくないってだけで、一緒に寝てくれなんて言ってねえだろが!
「分かった分かった、お兄ちゃんが添い寝してやろうなあ! ほら行くぞ!」
「えっ、うわっ!? な、なにすんだっ、降ろせってば!」
隆ノ介は両腕であっという間に俺の身体を軽々と横抱きに持ち上げて、そのまま寝室へと運んでいく。
「暴れるな。ちゃんと掴まっておけ」
対局後の疲弊した俺を背負う時は重いって文句を言う癖に、あれはなんだったってくらい平然としてやがる。
しかも俺を抱えてる状態だってのに、器用に部屋のドアまで開けてるし!
「おい、勘違いすんな! 1人で寝れるっての!」
「観念しろ、隙を見せたのはお前だろう」
「見せてねえっ!…………っと…………」
身体が自由になったら、もっと文句を言って逃げてやろうと思ってたんだけど。
妙に優しくベッドへと降ろされたもんだから、言いたいことが吹き飛んじまう。
「分かった、ちゃんとここで休む……んぅ」
なんとか絞り出した言葉は、キスで口を塞がれて、そのまま飲み込まれちまった。
「…………ふ。今回はいつまで居てくれるのやら」
「っ、雨が止んだら帰るっつの!」
「お前には降っているのが分かるのか。ここは高層だから、吸血鬼の俺達ですら意識しても雨音は殆ど聞こえんのに」
……あれ、本当だ。確かに雨が降ってる感覚はするけど、音は殆どしてないな。
「雨粒が地面や建物に当たる音は、高所だと知覚しにくい。高層に住む人間共は雨の判断に難儀すると聞くぞ」
「へえ、雨具を持って出掛けるか悩みそうだな」
「現在の天気を知る方法はあるが、精度に関しては……むっ?」
どこからか取り出したスマホを見ながら、隆ノ介がふっと表情を和らげる。
「これから雨が強くなるそうだ。ゆっくり休んでいくと良いぞ!」
「いやなんでそんなに嬉しそうなんだよ!」
……ああ、やっぱり雨の日ってのは、どうにも苦手だ。
俺が雨に弱いことを察していても、特に言わずにいてくれてる隆ノ介の優しさに気付いちまうのも。
「ほら、そろそろ静かにしろ。でないと抱き枕代わりにするからな」
「そんなの別に良いけど、俺なんて抱き心地悪いだろ……んっ……」
腕の中へと閉じ込めるように抱きしめられて、少し安心しちまうのも。
「意外とそうでもないぞ。おやすみ、元四郎」
「……うん。おやすみ、隆ノ介」
きっと、雨の所為なんだろうな。


元四郎は雨が苦手らしく、長雨続きの最近はネット将棋をしている時も棋譜の勉強をしている時も、その姿は普段より精彩を欠いている。
見た目にもかなり分かりやすいが、そこは負けず嫌いな男のことだ、相変わらず弱音を吐こうとしない。
こんなことで意地を張ってもどうにもならんし、たまには頼ってくれても良いだろうに。
まあ、そもそも自覚があるのかどうかも分からんが。
俺の家に来る頻度も泊まって行く日数も増えていることにすら、気付いていないかもしれん。
その健気な姿を見られるだけでも良しとしておこう、などと1人で納得していた俺が浅はかだった。
「まさか添い寝を欲しがるとは……」
本人にその気は無いようだが、あれはどう聞いても独り寝は嫌だと言ってるのと同じだろう。
その隙だらけの男は俺の隣で、今も意識を潜めてベッドへと身体を横たえている。
体調が悪い訳では無さそうだったが、それでも身体は怠かったらしい。
強引にベッドへと運んだからもう少し暴れるかと思ったのに、抱きしめたら急に素直な態度を見せたからな。
……しかし、今後も元四郎が添い寝を習慣化させたら由々しき事態だぞ。
最初こそ寝所を共にする状況に浮かれたが、このままだと俺の理性が確実に保たん。
今も気持ちを紛らわそうと、身体を起こしてスマホで時事ニュースなんぞを眺めてはいるが、内容はさっぱり頭に入ってこない。
「ん? っと、しまった」
手にした端末が振動するのと、元四郎が寝返りを打ったのは、ほぼ同時だった。
「……う……隆ノ介?…………ずっとそこにいてくれたのか?」
「そうだ。すまん、元四郎。起こしてしまったな」
「ちがう…………雨、すげえ降ってる気がして」
気怠げな声に思わず手元の端末の画面を見れば、確かにそこには大雨の警報を知らせる通知が表示されていた。
「確かにそのようだ。雨に対してそこまで鋭敏だとは今まで気付かなかったぞ」
「んー、俺、どうして雨の日ってこんなに怠いんだろう……音は聞こえなくても、なんか感覚で降ってるの分かるし」
あれだけ頑なに言わなかった自分の弱みを、こうも簡単に白状するとは。
意識を戻したばかりでまだ上手く頭が回らんと見える。
「お前、人間共が書いた吸血鬼に纏わる文献を読んだ訳ではないのか」
「なんのこと……あ、それ、きもちいい」
起き上がらずに会話を続ける元四郎の髪を指で軽く梳かしてやるが、今は特に嫌がる様子も無い。
「吸血鬼は流れる水、川や雨が苦手だと書いてあることが多いんだ」
「いや、なんでだよ……」
「それは知らん。そういう吸血鬼を目撃したヤツがいたのかもしれんな」
世間的に言われている俺達の弱点は、個体にもよる内容が殆どだ。
それでも陽の光だけは大半の同族が苦手としているので、あの眩しい存在の恐ろしさを改めて認識してしまう。
「雨、降らないと困るのは分かるんだけど。隆ノ介は平気なのか?」
「あまり気にしたことは無いな。むしろ嬉しいぐらいだ」
「嬉しいって……確かに陽は射さないけど、外出すると濡れるし、洗濯は乾かねえし、夏は蒸すし、冬は冷てえのに?」
湿度の所為で癖毛を整える苦労には辟易させられるが、まあそんなのは大した問題では無い。
「元四郎、お前と一緒に居られる時間が、こんなにも増えているだろう」
「……はは、そっか。だったら、もう少しここに居ても良いかも」
気の許せる同族と時折り他愛も無い会話を交わしながら、移ろっていく刻の流れを共に感じて。
「ああ。雨宿りがしたいなら、いつでも軒を貸してやる。だから気にするな」
「うん……ん? いや別に雨が嫌だから帰らない訳じゃねえんだって!」
「それを慌てるのは今更だろう。もう諦めておけ」
こうして気兼ねなく穏やかに過ごせることは。
「うー、なんか俺ばっかり弱み見せてんのが悔しいんだよなあ」
「何を言う。俺はこんなにもお前に弱いだろうが」
「………それなら、まあ良いか」
何事にも代え難い、至上の喜びだからな。

— End —

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