最悪だ。つい先程まではクエスト達成の報酬と称して仲間たちと大量の肉や酒を飲み食いして楽しい気分だったのが、今では全身に冷水を浴びせられたかのような気分だ。酔うと口が軽くなる方だという自覚はあったが、それにしてもずっと何年間も好きだった彼に酔った勢いで『告白』してしまうなんて――どう考えても最悪だ。
先程からぐわんと視界が揺れているのは、きっと酔いのせいだけではないだろう。カウンター席の隣に座っている彼の顔もまともに見ることができない。
一体どうしたら……いや、待てよ?酒が入ってるのは俺だけじゃないし、コイツもさっきでかいエールを他の仲間に飲まされていたじゃないか。だったら俺がぽろりと零した『告白』を聞き逃している可能性もあるんじゃ――
「……あんた、今なんて言った?」
クソッ、ちゃんと聞こえてるじゃねぇか!意識もはっきりしてそうだし、コイツ酒強いのか!?
隣を見ずとも、彼から圧のようなものが伝わってきて、ダラダラと内心冷や汗が止まらない。違うんだ。本当は『告白』なんかするつもりは一切なくて、ただ今回の仕事がいつもより上手くいって気分が良かったのに、コイツがどこか寂しそうにカウンター席でひとり飲んでいたから話しかけただけなんだ。そうしたらいつもの調子に戻ってきたみたいで、珍しく笑ってるコイツの顔を見てたらなんかもう、好きだなあ、って気持ちが止まらなくなっちまった。ただそれだけなんだ。
(……よし、決めた。全部無かったことにしよう。うん)
とにかくこちらがひたすら知らぬふりをしていれば、きっとコイツも自分の聞き間違えだったと思い込むだろう。あまり酔っているようには見えないが、酒が入ってる状態なのは間違いないし。
頼む!俺は何も言ってないんだ、そういうことにしておいてくれ!
そう願いながら、手元にあるワインの入ったグラスをぐいっと一気に飲み干した。
「なあ、聞いてるのか?」
「っ、ぷはぁ~~! んぁ? いま何か言ったか?」
「いや、それこっちのセリフなんだけど」
「はぁ? なんだよそれ。いやしかしこのワイン美味いな~!」
「……そうやって全部、無かったことにするんだな」
氷のように冷たい彼の言葉が胸に突き刺さる。余程とぼけている俺の態度が気に食わないらしい。コイツにとってはそこまで告白されたことが嫌だったんだろうか。
(こりゃ、このパーティにいるのも潮時か……)
パーティは魔術師であるコイツと、リーダーの槍術使いと格闘家に俺の4人。このパーティに戦士として加わることを決意したのは、みんな人が良くて人間関係でのいざこざが無く、居心地が良いからだった。この居心地の良さを崩したくなくて、コイツにずっと抱いてきたこの想いは隠していこうと決めていたのだった。けれど、誤魔化しきれないところまで来てしまったのであれば、もうパーティから抜けるしかないだろう。俺のせいでパーティ内の空気が気まずくなるのだけは避けたい。
――パーティを抜ける。その重い決断をしたのは紛れもない自分ではあるが、なかなかにキツイ。先程一気に飲み干したワインも相まって、気分が悪くなってきた。
「……あー、俺、ちょっと具合悪くなってきた。今日はもう部屋で休むわ」
隣にいる彼からの強い視線を感じるが、意地でも顔を合わせないようにしながらその場を離れようと席から立ち上がった。
「――ッ、待ってくれ!」
「うわっ!」
突如、ガシッと手首を掴まれた。驚いて振り向くと、俺の腕をしっかりと掴みながらこちらを見上げている彼の姿が。普段は大人しくてすかしているような奴なのに、今は珍しく焦りと怒りの感情が入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
「……」
「な、なんだよ……」
じっと無言でこちらを睨みつけてくる。掴まれている箇所からじわりと熱が伝わってくる。
「……抜けようなんて、考えてないよな」
「えっ!? なんで……」
「やっぱり。あんたの考えなんて全部顔に出てるんだよ。ほんとわかりやすい」
「嘘だろ……」
顔に出てるというのは文字通りの意味ではないと思うが、それにしてもコイツにはこっちの考えていることが全て見透かされているんじゃないかと思う。はじめから無かったことにしようだなんて無茶な策だったのかもしれない。絶望的な状況に、思わず天を仰いだ。
しかし、その場からもう逃げる様子も無くなったはずの俺の腕を、まだコイツはしっかりと掴んでいる。さすがにもう逃げないから、俺のことは殴るなり蹴るなり何なりしてくれ――そう口を開こうとした瞬間、彼はぼそりと小さく呟いた。
「……そうやってすぐ自分で勝手に結論づけるの、あんたの悪いところだよ」
「はぁ? つーか、お前、やっぱり聞こえて――」
突然、俺の言葉を遮るように腕を力強く引っ張られた。さらに近づく距離に、反射的に目を閉じる。
次の瞬間、唇に柔らかな感触がした。
「――ッ!?」
驚いて目を開くと、すぐそこに彼の顔があった。ああ、睫毛が長くて綺麗だな、なんて思っている内に、その柔らかな感触はすぐに離れていった。そこでその感触の正体が彼の唇だったことに気づいた。
「……あんたが思ってる程、未来は悪くないってことさ」
頬を赤く染めながらそう告げた彼に、夢じゃないかと何度も問いただしたら「うるさい」と肘で小突かれた。そんな小さな痛みも愛おしくて、俺はこれまでずっと隠してきた彼への気持ちを伝えるため、両手いっぱい広げて抱きしめた。
――これはきっと、酔いのせいじゃない。


















