【アナウンス】
「次は活けづくり~活けづくりです。」
【遠くで小さく男性の悲鳴】
【慇懃無礼な話し方で】
おや、起きてしまったのですか。
順番が来る前に目を覚ます人間は珍しいですね。
可哀想に。早く起きたところで余計な恐怖を感じるだけだというのに。
どうしました?
ああ、状況が理解できていないようですね。
ここは夢の中を走行する電車です。
毎晩、私ども怪異が人間のお客様をお呼びして「おもてなし」しているのですよ。
ちょうどいい。そろそろ隣の車両の番ですよ。
【アナウンス】
「次はえぐり出し~えぐり出しです。」
【先ほどより大きな女性の悲鳴】
ね、ここからでも見えるでしょう?
私と同じ制服の車掌が、女性の臓器をえぐり出しています。
目を逸らさないでください。
これからあなたも私に「接待」されるのですよ。
あれは数分後のあなたの末路なのですから、しっかりと見て覚悟を決めた方が楽かもしれませんよ?
はい?
えっ、ええ、先ほども申し上げました通り、この車両は私の担当ですので、私があなたを「接待」します。
はあ。よろしくと言われましても。
恐怖で気でも狂いましたか?それとも命乞いですか?
なんにせよ、無駄ですよ。
見た目で勘違いされているのかもしれませんが、私は怪異です。
人間に同情するわけがないでしょう。
おや、そろそろ時間ですね。
きっと前の車両よりも残酷な方法になります。
最近は男性のお客様ばかりで、あなたのような可愛らしい女性は久しぶりですからね。
非常に楽しみです。
あなたはどのような断末魔を聴かせてくれるのでしょうね?(クスクス笑う)
【アナウンス】
「次は耳かき~耳かきです。」
は?
あ、いえ、こんなアナウンスは初めてで……。
手違いでしょうか。
す、少し待っていてください。
【少し離れたところで話す】
すみません、今のアナウンスですが。
はあ!?なんですかそれ。
はい、はい。そうですね。
そういうことでしたら、適当に追い返します。
【ここからは不機嫌で冷たい感じで】
お待たせしました。
お隣、失礼しますね。
【すぐ隣に腰を下ろす】
何を驚いているのです?
早く横になってください。
あなたもアナウンスを聞いたでしょう。
今から耳かきをするのです。
わかったら、さっさと膝に頭を乗せてください。
【右耳を上に膝に頭を乗せる】
言っておきますが、痛い目に遭いたくなければじっとしていてくださいね。
あなたの鼓膜が破れようとどうでもいいですが、一応これは拷問ではなく耳かきですので。
それでは、始めますよ。
【耳かき音】
全く、人間風情が余計な時間を取らせて。
何ですか?態度が違う?
当たり前でしょう。先ほどまでは乗客として扱っていましたからね。
この電車は、迷い込んできた人間を拷問して、そのとき発生する恐怖を運賃として徴収しているのです。
あなたのような、死に直面しても怖がらない人間なんてお呼びじゃないのですよ。
招いてしまったからには何かしないといけませんが、お客様でもない人間を「おもてなし」しても仕方ないので、適当に耳かきでもして帰ってもらえとのお達しです。
【耳かき音終了】
これでこちら側は掃除できましたね。
仕上げにこのふわふわ……梵天というのですね。
梵天を入れますよ。
【梵天の音】
はあ、今日はタダ働きです。
無賃乗車なんて、運がない。
……どうして、笑うのですか。
なっ、怪異も落ち込むことくらいありますよ。
人間の悲鳴を聴くのが私たち怪異の生きがいなのに。
せっかく好みのタイプだと思ったのに、がっかりです。
はあーあ(深く溜息)
【梵天終了】
はい、こちらの耳はおしまいです。
次は左耳を綺麗にしますので、反対側を乗せてください。
【左耳を上に膝に頭を乗せる】
そんなに汚れてないように見えますが……。
まあ、これは夢ですし関係ないですか。
始めますよ。
【耳かき音】
それにしても、あなたのような女性がなぜ生きる希望を無くしているのですか?
【数秒沈黙】
へえ、いらない子。
人生で誰にも必要とされなかったということですか。
まともに会話してもらったのも、久しぶりとは。
確かに、そのようにずっと虐げられてきたのなら、死を望むようになるのも理解できそうです。
【ここからは優しい感じで】
失礼ですが、あなたの周りの人間は見る目がないですね。
誰もあなたを欲しがらないなんて。
うん?そんなことないです。
現に私は、あなたが欲しいですよ。
人間なんて滅多に手に入らないですからね。
食料として、ですか。まあ、そういう使い方もありますが。
【耳かき音終了】
これでこちら側も終わりです。
仕上げに梵天しましょうね。
ほら、入れますよ。
【梵天の音】
ようやく耳かきも終わりですね。
どうして泣いているのです?
帰りたくない?そんなことを言われたのは初めてです。
困りましたね。いつもならお客様への「おもてなし」の時間はどれだけかかってもいいのですが。
ただ、今のあなたは無賃乗車の迷惑客ですから、これ以上の滞在は許されないでしょう。
そうですね、あなたが死にたくなくなったら、また来てください。
そのときは殺さずに、あなたを貰ってあげますよ。
【梵天終了】
ほら、起きてください。
夢から醒めてしまえば、あなたのベッドの上です。
精々、生にしがみつきたくなるよう、生きてください。
【アナウンス】
「次は活けづくり~活けづくりです。」
【遠くで小さく男性の悲鳴】
またあなたですか。
相変わらず暗い表情をされていますね。
今日は特に顔色が悪い。
このところ毎日来ていますよね?
どうせ今日も耳かきして帰るのでしょう。
あなた、ここをリラクゼーションサロンか何かと勘違いしていませんか?
まあ、いいですが。
最近はあなたとお話しするの、楽しくなってきましたし。
それより、あなたに見せたいものがあるのです。
少々、待ってくださいね。
【アナウンス】
「次はえぐり出し~えぐり出しです。」
【先ほどより大きな女性の悲鳴】
持ってきましたよ。
見てください。
【べちゃりと肉が床に落ちる音】
ほら、この男と女の首。
見覚えあるでしょう?
そうです、あなたを苦しめていた奴らです。
狙った人間を引きずり込むのは初めてなので、苦労しましたよ。
嬉しいですか?嬉しいですよね?
これで、あなたは生きるのが辛くなくなりますよ!
死ぬのが怖くなってきましたか?
ああ、いえ、人間はすぐに気持ちが切り替えられないのでしたっけ。
それともまだ嫌な人間がいますか?
教えてください。また始末してあげますから。
あっ、そろそろアナウンスの時間ですね。
今日こそは、あなたを追い返さなくて済むかも。
【数秒沈黙】
おかしいですね。
もう時間なのですが。
あなた、何かしました……か?
ど、どうして体が透けているのですか?
私、まだ何もしていないですよね。
現実で首吊り……?
う、嘘ですよね?
昨晩お会いした時、そんなこと一言も……。
そ、そうです!私と同じように怪異になればいいのです!
死を選ぶほど辛かったでしょう?
悪霊になれるくらいには、この世に強い恨みを持っているはずです。
この電車で、夢で、ずっと一緒に人間を呪い続けましょう。
あなたを苦しめた人間も見て見ぬふりした人間も憎いですよね?
ねえ……そうだと言ってください……。
どうして、どうして消えるのが止まらないのですか!
思い出してください。
あなたにはまだ未練が、恨みがあるはずです。
もう、なくなった?
嘘だ!
今まであなたに優しくする者も、ましてや愛する者なんていなかったのですよ?
そんな人生で、どうして未練が、恨みがなくなったと言えるのです。
私?私が、あなたにしたことなんて、この夢でお話しして耳かきをして。
あなたの害になる人間を消したけど遅くて。
そんな。そんなことで幸せなんて言わないでください。
やめてください!
別れの言葉なんて聞きたくありません。
えっ。
今、その言葉を言うのですか。
そんな、嫌だ、置いて行かないで。
待ってください、待って!待っ……。
消えて、しまった……。
どうして。どうして、私に相談してくださらなかったのですか。
毎晩この車両で会っていたのに、何も言わずに一人ですべて決めて。
あなたのために、耳かきの練習をしました。
人間のあなたがこちらでも生きられるように準備もしました。
あなたを苦しめる人間を探しました。
もう少し、もう少しだったのに!
あなただけ勝手に幸せを感じて、言い逃げなんて酷いです。
私、私はまだ……。
あなたに愛していると言えてないのに。




















