Novel2 years ago · 1.1w chars · 1 pages

逆行降谷は主要キャラを攻略したい。・23

夏の海夏の海

この新ちゃんは医者になってもおかしくないなあとかちょっと思いましたね。

※注意※
何番煎じだろうと気にしない、降谷さん逆行ネタです。
以下の注意点が含まれます。

・安定の赤井絶対殺すマンな降谷零
・今度は工藤一家を引き込みたいという思惑から、工藤家に接触する気満々
・まだまだ出てくるのは先だけれど、主人公含めいろんなキャラを懐柔していきます。
・原作の通りには多分進まない
・逆行したら変態ホイホイにクラスチェンジ
・若干の腐向け要素がのちのち入ってくるでしょう(その時は腐向けタグつけます)

一番の注意点は、若いころや幼少期に、逆行零くんと接触した主要キャラの性格が恐らく原作と乖離が発生することでしょう。
出会いのタイミング、順番によって受ける影響はだいぶ変わりますし、唯一の記憶持ち逆行零くんが自分に都合よくなるよう変えていく気でいるので。
つまりは降谷零による、降谷と大事な人と日本に都合がよくなるように原作主要キャラを攻略()していくお話です。
はい、嫌な予感がした方はお逃げください!
逆行前の降谷さんの死にコナン君が絡んでいるのは今後の展開の為なので、ヘイトやら厳しめやらの意図ではありません。
終始降谷さんの視点なので、降谷さんが嫌いなひとは常に罵られておりますがキャラヘイトの意図はございませんので、ヘイト系のタグはつけないでいただけると嬉しいです。
繰り返しますが、原作は崩壊します。
長くなると思いますが、のんびりお付き合いいただけると幸いです。

 1

 残念ながら、僕の心配は杞憂では終わってくれなかった。園子ちゃんを狙った誘拐事件が発生してしまったのだ。
 幸い子ども達はすぐに保護することができたし、実行犯の四人はレイチェル・浅香さんが尾行して制圧したお陰で、全員逮捕された。東都にいた仲間も既に確保されており、そこから裏で糸を引いていた鈴木財閥のライバル会社の役員も突き止めることができたそうだ。この役員としては、金が目的というよりも、とある取引を失敗させるのが目的だったという。園子ちゃんが誘拐されたその日が、取引の日程で。誘拐騒ぎを起こすことで、流れさせるという目論見だったが、実行犯が瞬く間に相次いで逮捕された為に目的を果たすことはできなかったということだ。
 僕らが東都に帰る頃には、全国ニュースで報道される大事件になっていた。もちろん、被害者である子ども達の名前は伏せられてはいたけれども、黒幕が財界ではなかなか顔の広い人物であったが為に、どうしても注目を集めてしまったのだろう。
 いくら被害者の名前なんかを伏せたとしても、一部の週刊誌やネット上には園子ちゃんの名前がちらほら出るようになってしまった。
「どうしたものかな……。園子の希望で一般の幼稚園に通わせていたが、こうなってしまってはあの幼稚園や公立の小学校に通わせるのは心配だ……」
 ブックカフェ・シャーロックのカウンター席で、肩を落とし嘆息したのは園子ちゃんのお父さんである、鈴木財閥の会長、鈴木史郎さんだ。
 何故彼がここにいるのかというと、僕らが園子ちゃんを誘拐犯から取り戻したということで、お礼を言いに来てくれたのだ。
「しかし、園子は友達と離れたくないから、転園は嫌だと大泣きしてしまって……」
「あらまあ。そうねぇ、ソノコの気持ちも大事だけれど……。私としては、やっぱり一般の学校に通わせるのはやめたほうがいいと思うわ。そもそもあの幼稚園、先生が生徒の誘拐未遂起こしていたくらいじゃない。安全性を考えたら、ねぇ」
 相談を受けているのは、僕……というよりも、アマンダだ。鈴木会長はもちろんアマンダの正体など知らず、現役をリタイアして日本で悠々自適な老後を楽しんでいるアメリカ人の富豪だと思っている。まあ、概ね間違ってはいない。
「どうしてもというなら、常にボディーガードをつけるべきよ。送迎はもちろんだけれど、学校行事で外に出る時もね。私の子どもたちが小さいときは、常に複数の護衛をつけていたわ」
「それは……。一般の学校でそんなことをしたら、園子が悪目立ちしてしまいます……」
「ええ。そうね。でも、必要なことよ。ソノコだけじゃない、周りのお友達のためにもね」
 アマンダの真剣な眼差しに、鈴木会長ははっと息を呑んだ。
「そうでしょう? 今回犯人の狙いはソノコだったけれど、一緒に居たランやシンイチ、カイトも浚われてしまった。酷なことを言うわよ。今後何の対策も行わなければ、似たようなことが起こる可能性は高いでしょう。その時犠牲になるのは、果たしてソノコだけかしら?」
「…………それ、は」
「もちろん、悪いのは悪いことを考える人たちよ。だけれど貴方たち一家には、日本でも有数の財産があって、ソノコはそれを受け継ぐ子どものひとりなの。ならば相応の備えをしなければ、力ない者が巻き込まれて辛い思いをするかもしれない。ソノコはまだ子どもよ。だけどだからこそ、今から自分の立場を認識させて、正しく守られる必要性を学ばせるべきだわ」
 常に複数のボディーガードを連れ歩いていたアメリカ財界の女傑は、厳しい口調で断言した。鈴木会長が自分や家族にさほど護衛をつけたり、セキュリティに気を配っていなかったのは、平和な日本ではボディーガードの必要性などそれほど感じることはなかったからだろう。富裕層にもそう思われるほど治安がいいと言えば良いことに思えるけれど、鈴木家の無防備さは財閥の人間として考えると異常だな、とは前々から思っていた、ので。
「……鈴木さん。僕も園子ちゃんには護衛をつけた方がいいと思います。小学校も、できればセキュリティの厳しいところに通わせた方がいいでしょう。幼稚園を今すぐ転園するのは、園子ちゃんの精神的にも辛いでしょうからそのままで……。小学校は、夢花女学園の初等部に通わせてはどうですか? 実は志保がそこを受験する予定なんです」
「えっ、志保ちゃん……というと、宮野医師のところの?」
 僕の提案に、鈴木会長はくいついた。
 夢花女学園は、僕やヒロが通っている私立清開学院とは宮野医院をはさんで反対側にある私立の女子校だ。ここも歴史が古い女学校で、明治時代から続く進学校である。古くから女性の自立をめざし、最先端の学問を取り入れていることと、富裕層の子女が通うことが多い関係でセキュリティもしっかりしている。清開学院は中学からだけど、ここは付属の幼稚園からあって、初等部、中等部、高等部、短大までエスカレーター式なのだ。もっとも、大学は外部受験する生徒も多いみたいだけれどね。もちろん、幼稚園から入らないと入学できない、というわけではない。そもそも付属幼稚園は規模が小さいから、ほとんどの生徒は初等部から受験入学するものなのだそうだ。
「ええ。志保はちょっと、どうもIQが高すぎるようで、公立小学校はあわないだろうという判断で……」
 正直なところ、志保の学力だと夢花女学園でも浮くだろうとは思うけども……。公立の小学校よりはまだマシだろうというのが、厚司先生たちの考えだ。ちなみに、この学校をすすめたのはメアリーさんだ。真純ちゃんのことも考えて、このあたりの学校について調べに調べ、そこが最適と思ったらしい。
「志保は来年ですが、再来年には真純ちゃんも夢花女学園を受験する予定なんです」
「そうですか……。仲良くしているお友達がふたりとも居てくれるなら……。園子にも受験させてみます」
「それから、園子ちゃんの護衛なんですけど……」
 せっかくなので、僕は護衛も知り合いを推薦しておくことにした。僕らがずっとお世話になっている道場の門下生のひとりだ。とても強くて頭の回転もはやいのだけれど、上がり症で就職活動では面接で失敗しまくって現在フリーターなのだ。
 僕や蘭ちゃんたちも通っている道場だと伝えれば、鈴木会長は納得して一度会ってみると約束してくれた。どうやら、あの道場、用心棒界隈でも有名らしく、随分と前向きだった。
 ……と、そんな話をシャーロックでした数日後。
 園子ちゃん自身もまた、僕らが通う道場に通うことがきまったのだった。なんでも、護衛の必要性についてご両親から説得されたとき、それなら自分も護身術を習いたいと希望したのだとか。
 小学校は夢花女学園を受験することも、志保がいくところなら、と納得してくれたようだけれど、やっぱり蘭ちゃんと学校が別れるのは寂しいようで。それならせめて接点がほしいと道場にかようことにした、というのが一番大きな理由じゃないかと思う。
 受験勉強については、志保が教えてあげると張り切っていたので、まああまり心配することもないだろう。
 逆に、女の子の友達がみんな私立の小学校に行くと知って、蘭ちゃんがさびしがって落ち込んでしまったりもしたけれども……。夢花女学園は、米花町からは毎日通うにはちょっと遠いからなぁ。園子ちゃんのように車での送迎が前提じゃないとちょっと厳しいだろう。流石に小学校から寮に入るわけにもいかないだろうし。
 と、思っていたら、志保や真純が「中等部からは寮もあるのよ」なんて言い出して、蘭ちゃんは中学からでもみんなと同じ学校に通いたい、なんて希望しだしてしまった。これに慌てたのは新一くんだ。まあ、そうだよね。蘭ちゃんが女子校の寮になんて入ったら、同じ学校で過ごせないからね。そりゃあ気になることだろう。
 このままだともしかして、蘭ちゃんも新一くんも帝丹高校に通わない可能性も出てくるのだろうか。
 僕もヒロも前と違う学校に進んだわけだし、そういうことも起こりうるのかもなぁ。
 ともあれ、園子ちゃんがちゃんと外出時に護衛を必ずつけるようになったのは、彼女の為にもいいことだろう。

 2

 学校とバイト、道場に自主鍛錬と日々忙しく過ごしていれば、月日が過ぎるのはあっという間だ。僕は高校三年となり、もうすぐ大学受験を控えるようになった。受験生となっても、生活にはあまり変化はないけれど。
 変化があったのは、僕よりも子ども達の方だろう。同じ道場に通うようになってから、元々筋がいいのかどんどん上達していっている。特に新一くんと快斗くん上達具合は目を瞠るほどだった。
 前の時、真純ちゃんと蘭ちゃんはそれぞれ武術をたしなんでいて、武闘派であったのは知っていたから、ふたりの上達に驚きはなかったけれど。新一くんはシャーロック・ホームズのバリツを再現したいと、柔術を中心に空手も鍛錬していて、いずれボクシングも習ってみたいと言い出している程だ。コレには流石にびっくりである。だって前、新一くん……コナンくんはサッカーが得意で、ボールを的に当てることで窮地を脱することが多かった。運動神経は抜群に良かったけれど、体術に優れていたわけではないのだ。
 それが、今では蘭ちゃんにも勝ち越していて、快斗くんとはほぼ互角でお互いにいいライバルとなっているようだった。
 園子ちゃんと志保は明美と一緒に柔術を中心に、真純ちゃんは中国拳法を中心に習っている。志保ですら小学校一年生、他の子はまだ保育園生だというのに、めざましい成長を遂げていた。
 この子ども達……特に園子ちゃんがこの道場に入門してから、道場の側にも変化はあった。師匠たちはそれぞれの武術の達人で、人間離れした実力者であるけれど、金銭に頓着がなく、道場はいつも赤字ギリギリで運営されていたのだ。それが、鈴木財閥が門下生のうち実力者を次々護衛として雇うようになり、海外に出るときなどは師匠たちに用心棒を頼むことも増えた。
 鈴木家のガードマンとなった門下生たちは、力量を維持する名目で、費用は鈴木家持ちで道場に通うのも継続しているので、師匠達が受け取る月謝も増えたくらいだろう。最近では羽田家のガードマンなんかも、道場に通うようになっていて、名家の間で護衛はここの門下生を雇うといい、なんて噂も広まっているみたいだ。
 こうなれば、自然門下生の数も増える。武術しか頭にない師匠たちにとっては、収入が増えるよりも弟子が増えることの方が喜ばしいことみたいだけどね。
「零兄! 組み手しよう!」
 僕が道場に顔を出せば、準備運動を終えた新一くんが笑顔で駆け寄ってくる。新一くんは最近、前ほどホームズの話をしなくなった。
 もちろんシャーロック・ホームズが大好きなのは変わりないのだけれど、ホームズのように謎解きをすることに憧れるばかりじゃなく、身体を鍛え、ライバルと技を競い合うことの方に夢中になっているようだ。これは、身体能力も頭脳も完全に互角な快斗くんという存在が大きく影響しているように思う。
 快斗くんは快斗くんで、マジックの練習をする傍ら、いずれステージに立つときの為に体力をつける、身体を鍛えるのだと日々張り切って鍛錬している。
 そんなふたりの頑張りは、蘭ちゃんや真純ちゃんにもいい刺激になっているようだった。
「いいよ、おいで」
「やった!」
「あっ、ずりぃ! 零兄、俺も!」
 新一くんに請われるまま組み手を始めれば、真純ちゃんと柔軟運動をしていた快斗くんもすっ飛んできた。順番ね、と言い聞かせて、ひとりずつ相手をしていく。最終的に真純ちゃんと蘭ちゃんの相手もすることになった。僕もこの道場に通って長いので、子ども達に多少手ほどきするくらいは許されている。
 もうそろそろ免許皆伝の試験をすると師匠たちに言われているので、高校卒業する前に達成したいものだ。

 ***

 私立夢花女学園に通うようになって、半年がたつ。
 小学校は、正直なところ退屈だ。都内でも随一の進学校とはいえ、初等部の授業は私には簡単すぎてつまらない。でも、この学校のいいところは、図書館の蔵書がとっても充実してるところよ。授業も、テストで満点出していれば多少内職してても見逃してもらえるのもね。
 なんて話をしたら、零お兄ちゃんは苦笑していた。
「授業はちゃんと聞いた方が良い……って言うべきなんだろうけど……。僕も人のこと言えないからなぁ」
 零お兄ちゃんも、授業中は教科書に別の本を重ねて読んだりしていたみたい。前にこの手の話になったとき、ヒロお兄ちゃんは、自分は真面目に授業を聞いていたよと笑っていたけれど。
 ブックカフェ・シャーロックのテーブルで、学校の宿題を片付けたあとの雑談タイムは、私の大好きな時間だ。今日はうるさい新一も快斗もいなくって、私と明美お姉ちゃんだけだしね! ヒロお兄ちゃんがいないのが残念だけど、今日はヒロお兄ちゃんのシフトの日じゃないから仕方ない。
「お兄ちゃんも志保も、学校の授業が簡単すぎるなら、留学しようとか思わないの? アメリカとかなら、スキップとかあるじゃない」
「留学は興味なかったな。僕は日本が好きだから。志保はどう?」
「嫌よ、ひとりでアメリカなんて」
 学力にあった勉強ができるというのは、魅力的ではあると思う。だけど、アメリカには大好きな家族も、お兄ちゃん達もいない。優しいいとこたちも、蘭ちゃんも園子ちゃんもいないんじゃ、いくら勉強は楽しかったとしてもつまらないわ。
「でも、志保、化学好きだろう?」
「好きだけど。別にアメリカまで行って勉強したいってほどじゃないもの」
 きっぱり言い切れば、零お兄ちゃんもお姉ちゃんも苦笑した。何よ。私が家族のことが大好きなの、知ってるでしょ。なのにひとりで遠い外国なんて、絶対嫌よ。
「メアリー伯母さんの長男の秀一くんが、アメリカに留学してるでしょ? だから、志保がアメリカ留学したとしても、秀一くんにフォローしてもらえるんじゃないかって話も出てたんだけどね。志保ったら、絶対嫌、行かない、ってばっさり断っちゃったの」
「当たり前でしょ!? いくら親戚がいるって言ったって、会ったこともないのよ」
 もし私に、すごくアメリカで勉強したいことがあったなら、喜んでお願いしたかもしれないけど。そういうわけでもないし。ただ学校の授業がつまらないから、なんて理由だけで海外留学なんてしようとは思えない。
「まあ、今はオンラインで海外の大学の講義を聴講したりもできるくらいだしね。志保が本当に勉強したいことが見つかるまでは、のんびりいろんな分野を勉強してみるといいと思うよ」
「零お兄ちゃんは、大学も留学しないのよね?」
 もし零お兄ちゃんがアメリカに留学するっていうなら、私もしてもいいかな。なんて思ったけど、お兄ちゃんは前からの予定通り、東都大を受けるそうだ。
 さらりと、日本で一番の大学の名前が出てきたけど、私もお姉ちゃんも少しも驚かない。前にもちらっと聞いていた、というのもあるけれど、零お兄ちゃんが落ちるわけないって知っているから。
「この時期に、まだバイトしてて大丈夫なの? 受験生なのに」
 明美お姉ちゃんのからかい混じりの言葉に、零お兄ちゃんはあっさり大丈夫、と笑った。
「受験勉強は、夜にちゃんとしてるよ。バイトと道場は息抜きかな」
「……お兄ちゃん、それ、他の受験生には言わない方が良いわよ」
 お姉ちゃんの目がちょっとジト目だった。そうね、お姉ちゃんも来年には高校受験だものね。普通、受験生って朝から晩まで必死に勉強するものだってことくらい、私も知ってるわ。テレビや漫画で良く見たもの。
 園子ちゃんも、来年、私と同じ学校を受けるからって家庭教師をつけて受験勉強をがんばっているし。そう考えれば、あくせく勉強している様子もない零お兄ちゃんは、やっぱり普通じゃないんだろうなぁ。
 だって零お兄ちゃんってば、受験勉強よりも、道場の免許皆伝試験の方が大変だなんて言ってるくらいだもの。
 ……あれ? もしかして、免許皆伝しちゃったら、お兄ちゃん、道場にあんまり行かなくなっちゃうのかな?
 大学生になったらもっとバイトを増やしたりするのかもしれないし。余計遊んで貰う時間が減っちゃうかもしれない。それは嫌だわ。
「お兄ちゃん、大学に行っても、シャーロックでバイト続ける? 道場通う?」
「なんだい急に。もちろん、どっちも続けるよ」
 良かった!
 不安になって聞いてみれば、あっさりと望んだ答えが返ってきて安心した。
 そんな私に、お姉ちゃんは呆れ顔だ。
「志保のお兄ちゃん離れは、まだまだ先ね」
 ですって。
 そんなの、別にしなくてもいいじゃない。
 思ったけど、言ったら笑われそうだったから、黙っておいた。

 3

 それは、みんなで遊びにでかけた、遊園地で起こった。
 零兄とヒロ兄の志望校合格がきまり、ブックカフェ・シャーロックを貸し切ってみんなでお祝いをした、翌日の日曜日。志保のお母さんと、真純のお母さん。それから零兄とヒロ兄が引率して、オレたちいつもの幼馴染みメンツを遊園地に連れてきてくれたのだ。受験勉強のために最近あんまり構ってもらえていなかったオレ達が、零兄たちと遊びたいって散々言ってたからな。
 零兄は一八歳になったと同時に車の免許を取得していて、この日は朝から全員が乗れるワゴン車をレンタルしてきてくれていた。零兄の運転、初心者のはずなのにとっても上手だってエレーナおばさんもメアリーおばさんもびっくりしてた。さすが零兄だぜ。
 そうやって零兄が運転する車で遠出して、東都郊外にある大型遊園地、ドリームランドにやってきたんだ。ちなみに、園子の護衛のひとも、ちゃんとついてきてるけど、今日はみんなで遊ぶ日だからって、ちょっと離れて護衛だってわからないように見張ってくれてるみたいだ。だからオレ達も、護衛のひとの視線を気にしないで遊ぶことができた。
 ……っていっても、園子の護衛の兄ちゃん、道場の先輩だから、普通にオレらとも仲いいんだけどさ。
 ともあれ、午前中はいろんなアトラクションに乗った。身長制限でオレ達が乗れないやつもあったけど、それは来年のお楽しみにしようってお互いを慰め合った。きっと一番最初に乗れるようになるのはオレだな。だってもう、去年の冬服が着られなくなってて、母さんがため息ついてたし。
 アトラクションに乗ったり、ショーを見たりと楽しんでいたオレたちだったけれど、その事件が起こったのは昼ご飯を食べ終わった頃のことだった。
 園内のレストランに入って、エレーナおばさんとメアリーおばさんが、飲み物の追加注文の為に席を立って、カウンターに行っていた時のこと。突然、ドボンと大きな音がして、複数の悲鳴が聞こえたのだ。
 オレたちはテラス席に座ってたんだけど、目の前には園内を流れる人口の川があって、川の向こうにはアトラクションや建物が並んでる。レストランから見える位置に橋が架かっていて、たくさんの人が行き来しているのだけれど――その橋から、人が落ちたのだ!
「秀吉くん、子ども達を頼む!」
 目撃したひとたちがきゃあ、と悲鳴を上るなか、真っ先に飛び出したのは零兄だった。零兄が川に飛び込んだのを見て、ヒロ兄も飛び出した。零兄は川に落ちたまままだ浮かんできていなかった男性を、通路まで引き上げようとしていて、ヒロ兄もそれを手伝うために川に入っていった。
 そうなって初めてオレは気付いたけど、その人はお腹にナイフが刺さっていた。ただの転落じゃなかったのだ。もしかしたら零兄は、その人が怪我をしていたのを見て、自力で上がってくるのは無理だと思ったのかも知れない。
 これは殺人事件だ!
 オレはとっさに、零兄のところに駆け寄った。
「零兄! その人……!」
「明美、エレーナ先生を呼んできてくれ! ヒロ、AEDを頼む! 新一くん、救急車を呼んで」
「えっ、あ、うん……!」
 零兄の矢継ぎ早の指示に、明美姉ちゃんもヒロ兄もすぐ動いた。オレは母さんたちに、子供用の携帯を持たされてる。尻ポケットからそれを引っ張り出して、緊急ダイヤルを押した。少しのコールの後、繋がった電話口に焦ってしまう。
「えっと、あの、人が刺されて、川に落ちて……場所は、ドーリムランドのリバーサイドレストランの前ですっ」
 慌てていたけど、聞かれたことを順番に伝えていく。そんなオレの目の前で、零兄は男性の首や手首に触れて舌打ちしたかと思うと、心臓マッサージを始めたのだ。ナイフは抜かなくていいのかなって思ったけど、口にできる雰囲気じゃない。
「零兄、救急車、すぐ来るって」
「ありがとう。新一くんは下がってて」
「ゼロ、AED!」
「零くん、何が……! 大変、変わるわ!」
 オレが通報し終わったのと同じくらいのタイミングで、ヒロ兄がAEDを抱えて戻ってきて、エレーナおばさんも駆けつけてくれた。そういえば、エレーナおばさんはお医者さんなんだった。
 零兄と交代で男性を見たエレーナおばさんは、AEDを操作して蘇生を試みた。それから、三人はAEDの指示に従って、心臓マッサージと人工呼吸を途中で交代しながら続け、止血したりと応急処置をしていっていた。
 それを、オレ達はメアリーおばさんと秀吉兄ちゃんに促されて、少し離れた場所で見守っているしかできなくて。こふ、と男性が息を吹き返した時には、オレはほっとしてしまったのだけれど、エレーナおばさんも零兄もヒロ兄も表情は険しいままだ。
「しっかり、意識はありますか!?」
 何度も男性に声をかけて、意識を回復させようとしているみたいだ。
 目の前で行われていることは、オレが良く見る探偵小説や、ドラマとは全然違った。
 零兄が引き上げた男性は、オレにはもう死んでいるように見えた。だけど、零兄たちの処置で、止まっていた呼吸は復活したのだ。意識はもうろうとしているみたいだけど、少しだけ目が開いた。
 ……まだ、生きている人の目だ。
 まず間違いなくこの人は、誰かに刺されたんだ。
 刺した犯人が、このあたりにいるのかもしれない。悪い奴だ。捕まえた方がいい。だけどそんなことは後回しだとばかりに、誰も犯人捜しなんて気にも留めてなかった。
 やがて救急車が到着して、男性は病院に搬送された。その時、エレーナおばさんが救急隊員に男性の状況と、行った処置の説明をしていた姿は、すごくキリッとしててかっこよかった。
「ありがとうございます、後は引き受けます」
 医者だと名乗ったエレーナおばさんに、救急隊員はそう言って、救急車は去っていた。そして救急車とほぼ同時に駆けつけたのは警察で、これはメアリーおばさんが呼んだみたいだ。男性を引き上げた零兄達と、蘇生を試みたエレーナおばさんは警察に詳しく話を聞かれることになって、そのあとは遊園地で遊ぶどころじゃなくなってしまった。
 レストランの控え室で零兄たちが警察と話している間に、明美姉ちゃんが売店でTシャツとか、着替えを零兄とヒロ兄、エレーナおばさんの分買ってきたのは、男性の救命活動をしてた三人はびしょ濡れの上に服に血がついてしまってたからだ。
 そんなふうにばたばたとしているのを、オレはレストランの椅子に座ってぼんやりと見つめていた。
 頭の中では、目の前で起こった事件が……あの人が川に落ちた瞬間が、零兄があの人を引き上げたときに感じたことが繰り返されてる。
 あの時オレ、直感的に思ったんだ。
 あ、死んでる、って。
 でも違った。あの人はまだ死んでなかった。
 確かに、零兄が引き上げたときは、息が止まってたみたいだった。だけど――。
「心肺停止から四分経つと、救命の可能性は五十パーセントに、五分経つと二十五パーセントに減ってしまう。救急車到着の六分間の応急処置が極めて重要で、命のタイムリミットは十分だと言われているわ」
 もうすっかり食事どころじゃない俺たちに、静かに語りかけたのはメアリーおばさんだ。
「逆を言えば、何らかの事情で心停止したとしても、十分以内に救命活動を行うことで助かることもあるということよ。貴方たちにも、今度AEDの扱い方を教えてあげるわね」
「う、うん……」
 メアリーおばさんは、オレがすぐに救急車を呼んだことや、医者であるエレーナおばさんを呼んだりAEDをさがしたことを褒めてくれたけど、オレは零兄に言われたとおりにしただけだ。
 オレはただ……目の前で、死にそうになっている人をみて、怖いと思っただけ。
 もしかしたら、この人を殺そうとした誰かが、まだ近くにいるんじゃって、怯えていただけ。
「あの人、助かるかな……?」
「そうね……。救命措置で息を吹き返しても、百パーセント助かるわけじゃない。だから今はわからないとしか言えないわ。だからこそ、助かるように祈りましょう」
 もしあの人が助からなかったとしても。オレたちが助けられなかったと気に病むことはないのだ、と。目の前の命を助けようと行動したことだけでも、正しい行いなのだから、と。メアリーおばさんはそう言ってオレたちに優しく微笑みかけてくれた。

 後日、オレたちはエレーナおばさんから、あの男性が息を吹き返し、回復したことを教えてもらえた。そうして、男性を刺したのは男性のことを恨んでいた職場の同僚で、人混みですれ違いざまの犯行だったというのを、ニュースで見た。実は、零兄が男性が川に落ちる直前、男性とぶつかった男を目撃していて、その情報から園内の監視カメラで容疑者がしぼりこまれたのだと父さんが教えてくれた。
 橋までそんなに離れてなかったとはいえ、ささいなことと見逃しそうな情報をしっかり覚えていた零兄はやっぱりすごい。それに、死んでしまったように見えた人を生き返らせたエレーナおばさんもすごくかっこよかった。
 オレは……。オレは、ホームズみたいな探偵に憧れるけど、ホームズだって、目の前で人が倒れたら、きっと犯人捜しよりその人を助けるために知恵を絞るはずだ。だってホームズは科学的な知識を犯罪捜査に導入させる、その先駆けとなった探偵なんだから。
 オレももっともっと勉強しよう。トリックに関わるような雑学とかだけじゃなくて、応急処置とか、医学知識も身につけよう。
 目の前の命を助けるために走るのがヒーローだって、仮面ヤイバ―も言ってたもんな!

— End —

Comments 51

ありす1 个月前
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アーク11 个月前
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瑠璃2 年前
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廣瀬 煌2 年前

AEDする前にナイフ抜く描写あったら、すみません

廣瀬 煌2 年前

いつも作品楽しく拝見させて頂いております! 新一君が医学にも明るい探偵になれば、救える人は沢山でてコナン君状態にはならなそうですね! 気になったんですがAEDってナイフ刺さった状態で使ったら、ナイフ周りが火傷するじゃないですか。 それで止血してるんでしょうか、、

S
sui2 年前

前話からのスーパーヒーロー零お兄ちゃんを見て、志保ちゃん達だけでなく園子ちゃんも異性への理想が半端なく高くなっちゃうな…と思ったのですが、考えたらJK園子ちゃんの彼氏はコナン世界最強京極さんなので強さ的にも紳士的にも何の問題も無かったですね!笑

2 年前
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ひなにゃん2 年前
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あかね2 年前
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三毛猫2 年前
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みっち2 年前
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Sakuria
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