Novel3 years ago · 2.9k chars · 1 pages

一章 やっと死ねたと思ったのに

にあにあ

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俺が最期に見たのは、憎しみで醜く歪んだ若い男の顔だった。

誰だか知らねぇけど……はは、すげぇ形相。

「この、クソ野郎が!―――お前のせいで真衣がッ!!」
痛みは感じなかった。ただ、ドスドスと衝撃が伝わって来ただけ。

―――そんな、何回も刺さなくたって死ぬって。

はあはあ、と荒い息遣いと足音が遠ざかって行く音を聞いていたと思ったら、いつの間にか仰向けにぶっ倒れていた。刺されたところが熱くて、心臓の音がどくどく鳴るのと一緒に、何かがどんどん流れて行く感覚がして。

さっきから降って来た雨が、冷たい。
冷たくて――――寒い……
ああ。
俺の人生ほんとに、クソみたいにつまらない、くだらない人生だったな。
やっと、これで終わりに―――出来る。

とっくに真っ暗になってた視界に続いて、最期まで聞こえていた腐った街の喧噪の音が消えて行った。

――――――それで死んだはずだった。
なのに、気が付けば俺はどことも知れない真っ白な世界で、佇んでいた。

身体を見下ろすとなぜか素っ裸で、刺されたはずの傷はどこにもない。
……どうなってるんだ。
まさか、ここは死後の世界とか?
そんなもの、信じてなんかいなかったのに。

ぼんやりと自分の手を見つめながら握ったり開いたりしていると、ふいに耳元で声がした。

「ようやくお目覚め?元ホストの桜庭幸人くん」
「―――うわっ!?」

思わず飛びのいて振り向くと、男が一人、微笑を浮かべて立っていた。

銀色の髪に金色の目、見た事ないくらい綺麗な男だ。けど、人間には見えない。なんていうか、生命の気配がない――――作り物みたいな感じだ。

「な、何で俺の名前……お前、誰だ。ここは、どこなんだ?」

思わずテンプレみたいな事を口走ってしまった自分を恥ずかしく思う。
が、そいつも、これまたどこかの流行りの設定みたいな答えを返して来た。

「ここは僕の管理する世界。僕は君の生きてた地球とは別の世界の管理神で、君が僕の求める人材の条件に合ってたから、連れて来ちゃった」
「……はぁ?」
「うん、僕の世界って今イレギュラーの魔王なんて物が発生しちゃってね。それが思ったより強くて僕の世界の人達じゃ歯が立たなくて困ってるんだ」

管理神、と名乗った男はやれやれと肩をすくめてみせたが、言葉とは裏腹に大して困ってなさそうだった。

「だから、僕の世界に適合する魂の持ち主を連れて来て、魔王を倒して貰おうと思ってるんだけど、他の世界の管理神には『死の間際にある者しか連れて行ってはならない』なんて言われててさ。なかなか条件が合う人間って居なくてね。いろーんな世界を探してやっと3人は確保したんだけど、進捗が思わしくなくて。そんな時にちょうど都合良く死にそうになってた君が僕の求める人材にぴったりで、ほーんと良かったよ」

最初は訳が分からず、ベラベラと楽しそうに話す男を呆けたように見つめていた俺だったが、理解が追い付くにつれ怒りが湧き上がって来た。
要するにこいつの勝手な都合で俺は拉致されて、厄介事を押し付けられそうになってるってことだろう。

「そんなこと、俺に何の関係がある?さっさと解放しろよ」
「えー?でもそうすると君は死んじゃうんだよ?」
「別にいい」

そう吐き捨てると、管理神とやらは不思議そうに首を傾げた。

「変わってるね、そんなに死にたいの?でも残念、死ねないよ。僕のお願いを聞いて、僕の世界の魔王を倒すまではぜーーったいにね!だーって、その体はもう僕の力で造り変えちゃったもん!ね、だから諦めてよ。他の人達にもあげた、有力なスキルもたくさんあげるからさ。みんなチート大好きでしょ?それに僕の世界の人達には勇者が魔王を倒してくれるって言ってあるからさ、みんな君達転移者のことを神の遣いだってちやほや大事にしてくれるよ!」
「……」

俺は男を無視して、踵を返して歩き出した。
どこまでも真っ白なこの場所に出口があるのかも分からないが、対話の出来ない相手といつまでも顔を突き合わせていたくない。

が、数歩も歩かない内に硬い、目に見えない壁みたいな物に跳ね返されてしまった。
力を入れて押し返しても、握った拳を叩き込んでみても、それ以上前に進めない。
思い切り蹴りを入れたり、別の方向に進もうとしても無理だった。

「可愛いなあ、無駄なことしちゃってさ」
後ろでクスクス笑う男の声が、背筋をさわりと撫でる。

「ッ……ぅ」
少しばかり焦りが出て、もう一度見えない壁を殴り付けたのは失敗だった。
手の甲を酷く痛めてしまい、内心悶絶しながら目をやると皮膚が裂けて血が滲んでいる。

だが、驚く事が起こった。その怪我が見る間に治って行ったのだ。

「だから言ったでしょ、僕が造り変えたってさ」

肩越しに囁く男に、全身に冷水をかけられた心地がした。

「ね?魔王さえ倒してくれたら、そのあとは君の自由にしていいから。どこの世界に行くのも、死にたければ死ぬのも自由。スキルも、魔王を倒したらそのままプレゼントしてあげるよ!ほーらお得でしょ?」

無邪気に笑う男は、異質で、無慈悲だった。
こいつには俺の生死などどうにでも出来て、どうでもいいものなんだろう。脳裏に、いつか動画で見た死ぬまで猫に弄ばれるネズミの姿が浮かんだ。

……クソ。やっと望み通りくだらない人生を終える事が出来たと思ったら、こんな訳の分からない事に巻き込まれるなんて。最悪だ……

グッと奥歯を噛みしめて、俺は顔を上げた。

「その魔王って奴を倒したら、本当に自由にしてくれるんだろうな」
「うん、もちろん!僕は神だよ。約束はちゃんと守るよ」

にこにこと言う男に俺は、大きく息を吐き出した。

「……分かった。じゃあさっさとそのスキルってやつを寄越せよ」
「おっけー、じゃあどんどん付与していくねー!まずは絶対必要!基本中の基本の『言語自動翻訳』『無限収納』『鑑定』、それから防御系で必須の『常時魔力バリア展開』『状態異常無効』『全属性魔法耐性』でしょ、それからー」

目を輝かせて男がスキルの名前を呟くたび、光の玉が俺の体にすっと入って来る。
その度に、何かが上がっていくような感覚があった。

「基本スキル以外は、君と相性のいい物しか付与できないんだけどね。あ、スキルの使い方だけど、使おうと思えば自然に使い方は頭に浮かぶから大丈夫だよ」
そんな事を合間に告げながら尚もスキルを追加していく男が、ふと俺の顔をまじまじと見つめたかと思うと、ニヤリと笑った。
「そういえば君すごく綺麗な顔してるよね、そうだ!いいこと思い付いちゃった」

……嫌な予感がする。

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初出2021/09/16 14:47ムーンライトノベルズにて。pixivでは毎日夜に1話更新して行きます。2026/3/14改稿

ここまで読んで下さった方、ありがとうございますm(*_ _)m面白かったor続きが気になると思って頂けましたら、❤やいいね😊など頂けると嬉しいです❣🥰

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