「フラウ・ファタガルマ、今この場を持って私は貴様と婚約破棄させて貰おう」
華やかな卒業パーティーでよく通る声が響き渡る
婚約破棄を言い渡した男、この国の第一王子……アテル・トルベ・アヴローラは傍らにいる女子生徒の肩を抱き寄せた
「貴様は事もあろうに下級生であるこのリィナを虐めていたそうだな……フン、そんな陰険な女が次期王妃などなれるわけがない!」
ざわめく会場
口許を隠す扇がなければため息も丸聞こえだったかもしれない
「うわ、本当に言いやがった……」
「こらこら、口が悪いぞルル……でも本当に言うとはなぁ」
騒動を見守る最前列
小声で口からすべり出た本音を隣に居た我が婚約者が注意する
彼は騒動を起こしている第一王子の異母弟である第二王子
そして私はその婚約者、ルルーフィア・リルムガンド
事の始まりは数ヶ月前に遡る
校内で「真の恋物語」と銘打った小説が流行った
友人に勧められて読んでみたら婚約破棄だの悪役令嬢だの、現実味が無さすぎて大笑いしながらアル……婚約者であるアルヴィス・アエル・アヴローラに見せに行ったのが始まりだった
そもそも、婚約破棄は親同士の承諾無しにはほぼ不可能、まして王族の婚姻ともあれば男爵家など身分が低すぎて王妃にはなれないのだ
「母上は側室だけど……まぁ第一王妃様が認めたからなれたって聞いたしな」
アルもそうやって笑うのでその時は気にしていなかった
その一月後だっただろうか、お姉さま……第一王子の婚約者であるフラウ・ファタガルマの相談を受けたのは
「で、その下級生を虐めてるのがお姉さまだと?そんな噂が?」
「ええ……でもその子、ウィリデ男爵のご息女らしいんだけど……会ったこともなくて……」
「お姉さまは本来ならご卒業されておられますから、ある程度の授業は免除されていますものね……ったく、あのバカ王子……さっさと卒業しろっつーの」
「ルル」
「あっ、申し訳ありませんお姉さま……つい」
癖で口が悪くなる私に短く注意するお姉さま
初めて会った幼少の頃、武官の家の娘であまりにもお転婆な私に淑女が何たるかを優しく教えてくださったあの日から、どうあっても義姉妹になると決めたのだ
しかしこのままだと……
「……アテル様も、あの小説を読んでいるの……きっとまた感化されるでしょうね」
寂しげに呟かれた言葉に何も言えずその日は別れた
……だが、諦めない
諦めは怠惰だという家訓の元育った私には作戦があった
協力してくださったアルと第一王妃様にお礼の品を用意しなくては……
「兄上、虐め……とは穏やかでありませんね?」
「……愚弟か、なんだ文句でもあるのか」
「いいえ、ただ虐めと言えば聞こえは弱いですが内容によっては犯罪でしょう?どのようなことをしでかしたのかと」
歩み寄るアルの少し後ろをさりげなく歩く
お姉さまの諦めたような顔を見ると涙が出そうになった、怒りで
「ノートをズタズタにされたとか、運動着がボロボロだったこともあったと聞いたが」
「証拠は……?」
「彼女がそう言っている」
思い切りため息を付きたくなったがそれより先にやることがある
「アテル殿下、状況証拠ではなく物的証拠は?無いんでしょう?無いですね?ええ無いでしょうとも、事実無根!無実なのですから」
「リルムガンドの猿姫に発言は許可してないが?」
「私への暴言は今だけ聞き流して差し上げます、それよりこちらを」
殴りかかりたい気持ちを押さえ込みバサバサと写真を投げつけてやる
この学園は貴族の子息、息女が通っている
防犯カメラがないわけがないのだ
「全てリィナ・ウィリデ嬢の自演です」
「こんっ、こんな写真……どうして……っ!?」
「第一王妃様から許可をいただき防犯カメラの物を印刷しましたが?」
騙されていた事に唖然とする第一王子とバレた事に蒼白になる男爵令嬢が面白くて笑いそうになる
お姉さまはへたりこんだままこちらを見つめている
「ああ、それから……第一王妃様から兄上に言伝を」
「っ、なんだ!?」
「兄上……いいえ、アテル・トルベ・アヴローラは只今をもって王位継承権剥奪、謹慎処分ののち母である第二王妃の生家……臣下へ降格せよとの事です」
「な……なに……う、嘘だ……!」
おや、そんなことになったとは初耳……ん?
「アル、アルヴィス様……?待ってください?そしたら王位継承権は……」
「俺が一位になるな、よろしく次期王妃サマ」
聞いてない!
実の所、第二王子の婚約者であるため必要ないだろうと私は王妃教育を最低限しかしていない
なんでもっと早く言わなかったと問い詰めるとアルは驚くかと思ってと笑い転げる始末……
なんてこった……!
「ルル……いえ、リルムガンド嬢ありがとうございました……」
「お姉さま……そんなかしこまらないでください」
「お姉さまなんて……私たちもう義姉妹になることは無いのよ?」
婚約破棄より悲しそうな顔をするお姉さまにいいえと首を振る
そう、私の真の目的はこっちだ
「お姉さま、私の家をご存知ですか?」
「え、ええ……近衛隊や親衛隊の長を代々任される武官の名家でしょう?」
「その通りです、ですが次期当主は武一辺倒で人付き合いが上手くないせいか四つ上なのにまだ独り身でして……」
はぁ困ったと言いたげに頬へ手を当てるとお姉さまも察してくれたようでくすくす笑う
「あらあら、それならお父様に言って縁談を申し込んで貰おうかしら……」
「ふふ、それには及びませんよ」
ほら、と呟くと同時にフラウー!!と大声で駆けてくる男性が見える
ファタガルマ伯爵は一人娘を溺愛しているのは社交界でも有名だ
婚約破棄が実行されたらお兄様に……と冗談半分でお父様へ進言していたのが功を奏したようでホッとした
勿論、お兄様にも事前に打診してある
満更でも無さそうだったから大丈夫だろう
「世の中、物語のように上手くいくわけないのにな!」
「ほんっとうですね!」
笑うアルを軽く蹴飛ばしつつ明日からの王妃教育を乗り越えるべく、我儘を一つ
「王妃教育には私の好きなお菓子用意してくださいね!」























