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「ヒーローとヒロインが結ばれる話」って簡単に言わないでほしい。十年待ったんだからね、と伝えたい話

はんぺんたはんぺんた

今回も短めの百合なお話です。 少女漫画のようなロマンチックでピュアな百合を目指しました。 「後輩彼女の幼馴染の女子大生が、彼女を奪うと宣戦布告してきたので、私も先輩彼女ポジ全開にして学園祭で修羅場る話」に出てきた彼女が主人公です。 いつも通りのハッピーエンド仕様となっております。

まだ私が幼稚園に通っていた頃、困ったときにはいつだって助けてくれる小さなヒーローがいた。

 あの頃の私は弱虫で、泣き虫で、いつも男の子に意地悪をされたり、からかわれていた。

 小さなヒーローは、そんな私をいつも見つけて助けてくれた。

 当時流行っていた「銀河戦隊ムーンレンジャー」のムーンレッドのお面を被り、いじめっ子たちを蹴散らしてくれた私のヒーロー。

 小学校にあがって、少しした頃に親の都合で転校することになった。

 その時はもうムーンレンジャーの放送はとっくに終わっていて、別のヒーローが子供たちの憧れだったけど。

 相変わらず、私のヒーローはムーンレッドのお面を被ったままだった。

 引っ越しの日、小さなヒーローは私に「宝物あげる」と、ぶっきらぼうに呟いて、綺麗なピンク色の小さな貝殻をくれた。

 思えば、ヒーローの素顔も名前も知らないままだった。

 サヨナラの時になってようやくその事に気づいたが、私は「ありがとう」の言葉しか口にできなかった。

 あの時もらった宝物は大事にガラスの小瓶に入れて、お守り代わりに持ち歩いている。

 あれはきっと初恋だったのだろう。

 高校進学を機に、また元いた街に戻ってきてから、私は今も小さなヒーローの影を探している。

「笹ちゃん、すっごく綺麗だよぉ〜! 本当に絵本から飛び出してきたお姫様みたい〜!」

 キラキラと目を光らせながら、至近距離で園山先輩は私を褒めちぎってくれる。

 相変わらず、距離が近い。

 昔から、他人との距離は適度に保って接してきた。

 だが、園山先輩だけはお構いなしに適度な壁を乗り越えてやってくる。

 私、笹山菜々子のことを「笹ちゃん」なんて呼ぶのも先輩くらいだ。

 今回、学園祭のイベントの為に、生徒会長である私も姫役の仮装をすることになった。

 それまで、メイクなんてしたことがなかった私は、園山先輩にメイクをお願いしたのだが……。

 メイク中、息がかかるんじゃないかと心配になるくらい至近距離に園山先輩の顔があって、私はいつも以上に緊張してしまった。

 ゆるふわ系の美人で普段はトロンとした瞳も、メイク中は真剣でキリッとして……新たな一面を見せられてまたドキドキする。

 それに園山先輩はとても良い香りがする。

 なんの香りかはわからないけれど、とにかく甘くて。

 先輩の甘い香りに包まれていると、私は緊張も相まってクラクラしそうになってしまう。

 園山先輩が壁を乗り越えてくる度に、自分をうまく制御できない。

「園山先輩、メイクありがとうございました」

「いいの、いいの〜! うん、うん! 元から美人さんだけど、更に綺麗になったから、皆きっとびっくりするよぉ〜」

 一部の生徒からは「園山華乃は魔性の女」と呼ばれているが、ふわりと優しく笑う先輩は、私の目に美しい天使の様に見える。

「そ、そんなことないと思います……」

「も〜、ダ・メ・よ! もっと自信を持って! 生徒会長さん」

 先輩はそう言うが、私は自信なんてない。

 そもそも人前に出ることが苦手だ。

 生徒会長になったのだって、皆に推されて仕方なく立候補したら、当選してしまったのだ。

 舞台の上でダンスを踊るなんて、本当は絶対に嫌だし、緊張するし、苦手以外の何物でもない。

 でもそんな時、私はいつもヒーローに貰った宝物をぎゅっと握って勇気をもらう。

 選んでもらったからには、きちんと職務を全うしたい。

 また力を貸してね……と、手の中の宝物にそっと祈る。

「あれ? それ何〜?」

 こっそりと鞄に戻そうとすると、先輩に目ざとく見つけられてしまう。

「あっ……。これは、その、小さい頃からのお守りなんです」

「ピンクの貝殻、かわいいね」

 先輩は珍しそうに、その宝物をまじまじと見つめている。

 こんなものをずっと子供の頃からお守りにしているなんて変だと思われただろうか。

「そ、その、勇気が欲しい時は、いつもこれに助けて貰ってるんです」

「そっかぁ。……素敵だね」

 先輩は今まで見たことがないくらい、優しい眼差しでそれを見つめている。

 先輩にも、そういう大切なものがあるのかもしれない。

「……あ、私そろそろ行かないと。笹ちゃん、また後でね〜」

 そう言うと、急いだ様子でパタパタと走って行ってしまった。

 甘い香りだけ残して――。

「梓ちゃんはっ! 私の恋人なのっ! あなたには絶対に渡さないっっ!!!!」

 静まり返った体育館に、月下先輩の叫び声が響き渡る。

 成績優秀で誰にでも優しく、しかも美人で有名な月下先輩が、あんなに怒りながら大声をあげるなんて。

 本来なら生徒会長である私が止めに入らないといけないのだろうが、あまりの出来事に驚いて動けずにいた。

「姫同士が結ばれる物語なんてないの!」

 王子役の女性が悲痛な叫びをあげる。

「ないなら私達が作るわ。梓ちゃん、行こう!」

 月下先輩と日野さんは、お互いに強い意志を感じさせる瞳で見つめ合い、手を取り合って舞台を降りる。

「しーちゃん! これ、約束の!」

 隣にいた園山先輩が舞台袖から、何かを月下先輩に向かって放り投げた。

「ありがとう、華乃! 私達行くから。あと、よろしく」

「任せて」

 園山先輩は、走り去っていく二人の後ろ姿を嬉しそうに、誇らしそうに見つめている。

「先輩、何を投げたんですか?」

「ふふ、ひみつ」

 いたずらっぽく笑う先輩は、なぜだかとても可愛く見えた。

 嵐のような出来事があったが、どうにかオープニングイベントを終わらせた。

 あの状況から立ち直せたのは、園山先輩の力が大きい。

 どうすればいいかわからずオロオロしていると、テキパキと指示を出し、私に助言をしてくれた。

 やはり私は生徒会長の器ではないのだ、とまた少し自信をなくしてしまう。

 そんなことを考えているうちに、体育館と校庭を開放しての仮装ダンスパーティーが始まる。

 私は見回りのため、ひとり校庭に出た。

 皆それぞれ好きな仮装をして、楽しそうに踊っている。

 これもすべて園山先輩が企画したことだ。

 私はただ、その実現のお手伝いをしただけ。

 生徒会長なんて名ばかりだ。

 だけどこの、園山先輩がやりたかった、見たかった景色を眺めていると、名ばかりの生徒会長でも役立てて良かったと思えた。

 みんなが楽しそうにしている様子を、ぼうっと眺めていた私の隣に、いつの間にか誰かが立っていた。

 誰だろうと横目でチラリと見て驚いた。

「……えっ!」

 ジャージ姿のその人は、あろうことかムーンレッドのマスクを被っていた。

 これは偶然だろうか?

 私のヒーローが、いつも付けていたお面もムーンレッドだった。

 もしかして、この人は……。

 私の胸がドクンドクンと大きく脈打つ。

「あ、あの……っ。あなたは……」

 その人は、無言で私の手をとる。

「えっ?」

 そして、そのままダンスを踊り始めた。

「わ、ちょ、ちょっと……」

 軽やかなステップでワルツを踊る。

 これはさっき、舞台で私が踊ったものと同じワルツだ。

 ジャージ姿のムーンレッドは、先程ペアで踊った男子生徒より背も低いし、手も小さい。

 だけど、ずっと素敵に輝いて見えた。

 どうしても、あの頃の私のヒーローと重ねて見てしまう。

「あなたは……誰?」

 無言。

「昔、私を助けてくれたヒーローですか?」

 またも無言。

 声が、聞きたい。

 だけど、その人が一言も発せないまま、曲が終わる。

「あの……! どうして何も、言ってくれないの?」

 その人は、私を引き寄せるとマスク越しにキスをした。

「……!」

 そうして、名残惜しそうに見つめる。

 だけど、手を離すと、昔のようにヒーローは走って去っていく。

 遠ざかって行く後ろ姿を見て確信した。

 小さなヒーローは再び私の前に現れてくれたのだ。

 学園祭の数日後、生徒会室に私を含め、生徒会役員たちが教頭先生に呼び出された。

「今年の生徒会主催イベント、酷すぎる内容だったね」

 開口一番、厭味ったらしい口調で告げられる。

「とくに、最初の舞台上での出来事……。なんだ、アレは。なぜ、即刻止めに入らないのだ」

「申し訳ありません」

「まったく……。来賓の方々もご覧になっていたというのに。我が校の品位を落とすような事をして!」

「……」

「生徒会長! 君はもっと生徒会長としての自覚を持ち給え。あんなイベントは我が校に相応しくない」

 生徒会長としての自覚……。

 たしかに、他人からの勧めでしょうがなくする事にしたけど。

 それでも、私なりに頑張ってこなしてきたつもりなのに。

 悔しくて、涙が溢れそうになる。

 バンッッ!

 叩きつけられるように開かれた扉から、その人は静かに生徒会室に入ってきた。

「なっ、なんだね……。君は、確か……」

「はい、前生徒会長の園山です」

 先輩はニッコリと笑う。

 でもその笑顔は今まで見たことがない、底冷えのするような恐ろしさが感じられた。

「この度は、私が企画したイベントのことで、後輩たちが理不尽な叱責を受けていると聞き、参上致しました」

「なっ……! り、理不尽とはなんだね!」

 先輩の静かで、だけど得体のしれない迫力に教頭は狼狽えだす。

「こちら、来賓の方々から頂いたアンケートですが、皆様大変ご満足頂いております」

「な、なに⁉」

「さらに、理事長先生からも直接お褒めの言葉を頂戴しておりますよ。我が校の自由な校風にあった大変素晴らしいイベントだと。新聞部のインタビュー記事、ご覧になってないんですか?」

 冷たいトーンで確実に、鋭い言葉で相手を追い詰めていく様は、まるでヒーローが悪と闘っている時のように見えた。

「理事長が……⁉」

「教頭先生は、理事長先生とは正反対のご意見なんですね。そういった意見があることを理事長先生にお伝えしておきます」

「……ま、待ってくれ! す、すまない。どうやら私の勘違いだったようだ」

 理事長が恐ろしいのか、園山先輩が恐ろしいのか、教頭先生は完全に萎縮してしまっている。

「謝る相手は私ではありませんよねぇ?」

「……! そ、そうだね。……き、君たち、本当に申し訳ない……」

 私達に謝ると、逃げ出すようにして教頭先生は行ってしまった。

 それを見送ると、園山先輩は私達に向き直り、頭を下げた。

「皆、ごめんね。私の企画のせいで嫌な思いをさせて……」

 普段とは違う真面目な顔で謝られ、私は胸が痛くなる。

 だって、救ってくれたのに。

 そんな顔で謝るなんて。

 先輩にはいつだって、余裕のある顔で笑っていてほしい。

「そ、そんな! 先輩は何も悪くありません! 今だって、助けに来てくれましたし!」

 皆も口々に先輩への感謝を述べる。

「皆、ありがとねぇ。でも、もう少し早く来られたら、笹ちゃんもひどい事を言われずに済んだのに……」

「ヒーローは、遅れてやってくるものですから!」

 珍しく落ち込む先輩を見て、どうにか元気づけたくて思わずヒーローだなんて言ってしまった。

「……えっ」

「だ、だから、えっと……! 先輩、正義の味方みたいで格好良かったです」

 最後、恥ずかしくて消え入りそうな声になりながらも、どうにか伝えられた。

 俯く私の手をとって、先輩は嬉しそうに、ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。

 私は、その少し冷たい手の感触に、先輩が手を離してからもずっと胸が高鳴っていた。

 放課後――。

 あの人を探す。

 私のヒーロー。

 ずっと憧れ続けた存在。

 学園祭のあの時から、再び私の前に姿を見せてくれた。

 どうして、それまで黙っていたのか。

 なんで、急に昔のように姿を見せてくれたのか。

 わからないことだらけだけど。

 でも、見つけた。

 あなたが、誰なのか。

 ようやく、私、わかりました。

 夕方の誰もいないはずの生徒会室。

 そこに、その人はいた。

「ここにいたんですね。……やっと見つけました。私の」

 一歩ずつ、ゆっくり近づく。

「……ヒーロー」

 その人は驚いたような顔で、私を見つめる。

 二人の距離はやがて、あの日のワルツを思い出させるものになる。

「……!」

 手をとって、腰を抱き寄せる。

 少しずつ、顔を近づける。

 吐息がかかる。

 その人の甘い香り。

 軽く触れ合うキスをする。

 その人は驚いたように目を見開く。

「……どうして」

「……あの日のお返しです。……園山先輩」

 顔を赤くして、恥ずかしそうに手で口元を隠す先輩は、いつもの余裕が感じられない。

「なんで……私だってわかったの?」

「だって、キスされた時、先輩の甘い香りがしました」

 すんすんと園山先輩の首元に鼻を近づけ、その甘い香りを嗅ぐ。

「くすぐったいっ……よぉ」

 くすぐったさに身じろぎして逃れようとする。

 でも、私はもう離れないと決めたのだ。

 ぎゅっと抱きしめて、再び軽く口づける。

「んっ……!」

「あとは、手の感触でわかりました。スベスベで小さくて、少し冷たい」

「それだけでわかったの?」

「十分過ぎるヒントです。……どうして、言ってくれなかったんですか?」

「子供の頃ねぇ、私、君に一目惚れだったの。だから、泣いてる君を助けてあげたかった」

「はい。いつもヒーロー見参って叫んで、格好良く登場して助けてくれましたね」

 昔のことを思い出し、思わずクスクス笑ってしまう。

「うん。……だけど、ヒーローが女の子だって知ったら、ガッカリするだろうなぁって思って」

「ガッカリなんてしません」

「……高校で君に再会して思ったの。昔のヒーローが傍にいることだけは気付いて欲しいって」

「だから、仮装イベントなんてやったんですか」

 コクリと頷く先輩。

 その瞳は溢れそうな涙で潤んでいる。

「先輩は昔も今も私のヒーローで、初恋の人です。それに……先輩がヒーローだったって分かる前から、先輩が好きでした」

 想いを伝えたくて強く抱きしめる。

 先輩の甘い香りに包まれる。

「うん。私も……。ずっと君がヒロインだよ。再会した時、また一目惚れしたもの」

 お互い引き寄せられるように、三回目のキスをする。

 ヒーローとヒロインの再会にふさわしい、深くて甘くてとびきり最高なキス。

 十年待ったから。

 ヒーロー不在の私の時間を、先輩のキスで埋めてほしい。

 エンドロールが終わっても、ハッピーエンドのその先を二人で紡いでいきたい――。

— End —

Comments 1

ウッホ3 年前
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Sakuria
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