
靂螺ヰル EP18 // MEMORY RESIDUE
EP18 // MEMORY RESIDUE 18:42 IID-GAWA BRIDGE 川沿いの風は少し冷たかった。 橋の向こう。 夕日に照らされた都市が遠くに見える。 高層ビル。 古い建物。 工事中の塔。 街は今日も何事もなかったみたいに動いていた。 「昨日は悪かった」 ミナが言う。 「別に構わない」 「そういうところなんだよね」 「何がだ」 「ううん」 ミナは手すりに両手を乗せる。 しばらく川を見ていた。 「昨日の帽子」 「似てた」 「何に」 「分からない」 返事はすぐだった。 「でも似てた」 夕日が川面に反射する。 少しだけ沈黙。 「前の君は」 ミナは言葉を探す。 「街で噂になってた」 「噂?」 「うん」 「死神とか」 「執行者とか」 「見たら目を合わせるなとか」 風が吹く。 遠くで電車の音がした。 「私は覚えてる」 「帽子も」 「目も」 「怖かったことも」 ミナは少し困ったように笑う。 「でも変なんだよ」 「何がだ」 「理由を覚えてない」 都市の輪郭が夕暮れの中へ沈んでいく。 「何があったのか分からない」 「なんで怯えたのかも分からない」 「ただ」 「怖かったことだけ覚えてる」 ヰルは何も言わない。 言えることもなかった。 「だから」 少し考える。 「たぶん私は何も知らない」 川の向こう。 夕日に照らされた都市。 答えを知っていそうな景色。 けれど。 そこから返事が返ってくることはない。 「そうか」 「うん」 しばらく二人とも黙ったまま都市を見ていた。 ビルの窓に灯りが点き始める。 昼でもない。 夜でもない。 境界の時間。 「でも」 ミナが言う。 「今のヰルの方が好きかな」 風が吹く。 川面が揺れる。 都市は何も語らない。 それでも。 変わったことだけは確かだった。

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